第15話 彼氏と紙袋と彼女の思いで
明日菜が、お風呂場に行ってから、俺は鼻歌を、ルールールーラーラーラと、我ながら上機嫌に、歌っていた。
だってさあ、2年も会えなかった彼女が、いま、俺の家で、お風呂に入ってるんだぜ?
そりゃあ、テンション、上がるでしょ?
お風呂上がりの明日菜なんて、それこそ中二の修学旅行、以来だし。
あの衝撃的な告白は、噂話という音速を通り越して、スマホなる光速網を網羅してひろがった。
ようは、2日目の自由時間がおわって、旅館に帰ったら、全生徒どころか、先生までしっていた
恐るべしスマホ機能。
あの時の恐怖があるからか、俺のスマホは、厳重にロックしている。
高校の時に、少ない小遣いとバイトでやりくりして、べつにもう一台、明日菜専用のスマホを、もっているし、指紋認証だし、普段は、ばれないように、電源をオフにしている。
間違ってもWi-Fiには、接続していない。
芸能人には、プロ彼女というのが存在すると、知ってから、俺もプロ彼氏を、めざしている。
あれ?就活の時に思いっきり、自分から神城 明日菜が恋人なので、東京に就職したいとWi-Fiを使用したリモートで、堂々と言った時点で、ダメ彼氏じゃね?
本気にされず、ユニークなオタク枠で入社できたけど。
ツルッバゲのなんか外人のくせに明日菜ファンの人と、面接の間中ずーっと、明日菜について話していた。
ーツルッバゲの外人が。
あれ?でもあのツルッパゲって、Japan country 支社長、じゃなかった?
あれ?
本当に、外資系だったのか、俺の会社。
どうりで、社内では、英文とやたら発音のいいカタカナが飛び交うわけだ。
リスニングはできても、I cannot speak Englishな俺だ。
俺はただ、明日菜がさっき言っていたように、オーバーリアクションで、うんうん、赤べこみたいに、うなずいていただけだ。
最後に、広報部にも話をしといてやると言われたけれど、採用されたの福岡支社の営業だしなあ。
まあ、福岡支社に、パワハラもなく、ブラックでもないから、気楽でいいけど。
柴原もいるしな。ああ、そう言えば、あいつが広報になっていた。
そういえばと、言えば、修学旅行の時は、傍目には、あいつも悲惨だったな。
俺に明日菜が、告白したら、なぜか、彼女ももちの赤木がキレて、明日菜につめよったんだよな。
それも、柴原の前で。
その件も光速ではなく、音速で知れ渡っていたから、修学旅行の最終日に明日菜たちは、紫原が満足するまで、やけ食いに付き合ったらしい。
ただ、アイツが行きたいだけで、口実ができただけだろうに。
ー柴原すげえよな?
修学旅行の帰り道でその柴原に、明日菜を彼氏として、家まで送るようにいわれた。たぶん初めての制服デートだったよな。
あっ、ちなみに二日目の夜に、大浴場の前でふろ上がりの明日菜と、バッタリあった。
そこで、ちょっと、先生の目をぬすんで、旅館の外にでて話をした。
というか、明日菜から、謝罪とお礼を、いわれた。
謝罪は、まあ昼間の告白騒動についてで、お礼は、俺には意味がよくわからなかった。
身勝手なおせっかいだったし、明日菜が俺の存在を知っていると、思ってなかった。
それくらい、俺たちは、まだお互いのことを知らなかった。
そのうえで、せめて上京するまでは彼氏彼女の関係になりたいと、明日菜に真剣な目でいわれた。
はじめて女の子を異世界人じゃなくて、話が通じる人間だとおもった。
そうして、はじまった関係は予想外にながく続いて、いまがある。
テレビ電話やメッセージのやり取りをしていたが、俺の記憶や感情は、あの頃のままま。
少し不器用で、人間不信な彼女を笑顔にしたい。
他の誰でもなく、俺が明日菜を、幸せにしたい。
いまはまだ、会社の尊敬できる先輩に、おんぶと抱っこの子ザル状態の俺だが、いつか先輩や一尉のように、仕事も家庭もまもれるような男に、なれたらー。
あっ、そういや、一尉のプレゼントだったよな。
玄関にあった、少し重みのあるそれを、手に取り、一応カギのかかるトイレにいく。
ふふん。俺はちゃんと約束はまもる男だぜ、一尉。
家に帰るなり、明日菜と一緒に開けようとしたことは、見えないくらいたっかーい棚においとく。
でも、絶対、明日菜のやつ紙袋の中身を知っているよな?
ルールールーラーラーラ、タラリッラー。
あいかわらず、鼻歌を歌いながら、紙袋をあけた俺は、数秒そいつらをみつめて、
「どっひゃあー!」
思いきっり便座からすべりおちた。
トイレの蓋閉めといてよかった。