第42話 彼女と彼氏と中ノ島公園。
かるくおにぎりやパンの昼食を食べて、駐車場を出た時には、もう15時ちかくになっていたんだ。
9時の開園後、わりとすぐ、からいたから、かなりいたことになるんだね。
けど、体験コーナーや遊びの広場にいたから、ほとんど遺跡や史跡はめぐれてない気もするなあ。
ほんとうに、すべて体験しようと思ったら二日?
ううん、三日はゆうにあそべるよね?
歴史好きならもっとかもしれないよ?
あまり歴史に興味がない私でも、目で見て大きさが体験できて、なによりもスケールが違うんだ。
とんでもなくひろい。
ひろくて、やすい。
国の公園って、すごいなあ。
私はわりと撮影で、外国や日本中をけっこう旅行しているけど、まだまだ知らない世界がたくさんあるんだなあ。
私も春馬くんも同じ九州出身なのに。
有名なのはしっていたけど、まったく興味がなかった場所。
私はいまは助手席にのっている。春馬くんがサングラスとキャップをかぶって運転している。
春馬くんは目も敏感。太陽の光に帽子とサングラスは役に立つらしい。でもサングラスとキャップは春馬くんによく似あっている。
私のうしろで時々萌ちゃんが、そんな春馬くんをチラチラみて。照れたようにわらっているよ?
微笑ましくて私の口元がゆるんじゃった。
だって恋する女の子はいつだって、可愛いんだよ?
ね?
春馬くん。
私は萌ちゃんのそんな姿に、すこしホッとしたんだ。
だって、萌ちゃんにとって春馬くんは初恋だけど、どちらかというと憧れのお兄ちゃんみたいな雰囲気がある。
もっといえば、零さんを演じている純子さんが、春馬くんと似ているなら、春馬くんを通して零さんをみているのかもしれないよ?
演技の世界にいる私には、萌ちゃんもやさしい演技をしていることがわかっちゃったんだ。
ね?
春馬くん。
萌ちゃんはやっぱり女の子だね?
女の子はだますことが本当にうまいんだよ?
ね?
しってる?
萌ちゃんは純子さんの演技に、とっくに気がついてるよ?
萌ちゃんの優しい嘘は、私がいつかそっときいてみるね?
言えない想いを、私がきいてあげるよ?
ね?
春馬くん。
きっと、身近じゃない存在が子供たちには、必要なのかもしれないよ?
身近じゃなくて、でも話をきいてあげることは、もう取り組みがちゃんとあってるけど、いつも話中らしい。
もっと気軽になにか方法ないのかなあ。
身近じゃない、信頼できるナニかがあれば、いいのかな。
ー私たち、神城明日菜の大ファンなんです。
ーあなたのデビュー作の大ファンだったの。
空ちゃんはあきもせずに、またあのDVDをみている。
・・・私の演技をたくさんの人たちがみていてくれた。
私は・・・。
きゅっと胸にもらった春馬くんのチンアナゴみたいな勾玉をにぎりしめる。いろいろな説はあるらしいけど、一般的には、魔除けや悪例から身をまもるって意味らしい。
ーこのチンアナゴは、ひょろ長いけど。
ふつうに消しゴムみたいな石を、砥石で削るのもとても大変で、60分はかかるって言われていたのに。
ハートを作った萌ちゃんはともかく、
ね?
春馬くん。
春馬くんはやっぱり、
ー春馬くんだね。
私はチンアナゴを見ながら笑ってしまう。
「なんだよ?」
「ううん。ただ、帰ったら春馬くんに相談したいことがあるの」
「・・・わかった」
春馬くんがちいさく口元をきゅっと引き結んだけど、もう前歯で下唇は噛んでないね?
私との約束で、私とのもう信頼なんだね?
私の名前は、明日菜。
両親のたくさんの願いが込められていて、春馬くんからもたくさん意味を教えてもらえた名前。
ね?
春馬くん。
私は、明日菜なんだ。
もともとは、神城明日菜。
いまは、村上明日菜。
でもどっちも、明日菜。
13歳までの明日菜も、13歳からの明日菜も、18歳からの明日菜も、22歳からの明日菜も、
すべて、
ー明日菜。
私。だったんだ。
ね?
春馬くん。
私はじっと春馬くんの横顔をみつめる。
もう山道になったからハンドルをしっかり握って、できるだけ酔わないように丁寧に運転してくれている。
遊び疲れた凜ちゃんと子守りにつかれた純子さんがうとうとしているのに、空ちゃんはやけにハイテンションで劇中歌をうたっている。
そういえば、私はこの歌にとても苦労したんだよ?
音楽の成績は普通だし、中学校の演劇部じゃ歌は歌わないし、私はミュージカル女優じゃないんだよ?
本当に基礎から、てとりあしとり指導されたんだ。
ーきみはここ声がきれいで無色だね?
そういえば、おなじことをいわれたなあ。
ソラじゃないんだとおもって、その発想が村上じゃん?と真央に笑われたなあ。
いまならわかる。
音階まで春馬くんに依存していた私の異常性を。
私は、春馬くんが本当にすきだよ?
春馬くんのお嫁さんになれて、ほんとうにうれしいんだ。
春馬くん以外のお嫁さんは、かんがえられない。
そして、いまも、考えられない。
左手の薬指に輝くリングは、私の一生の宝物で、もしいつか私のお墓があの遺跡みたいに発掘されるなら、私の骨と一緒にみつかるんだろうなあ。
いつかはそういう未来もくるのかな?
ー人間は、いるのかな?
地球の歴史は、すごいよね?
ー歴史なのかな?理科?
私はあんまり勉強は得意じゃないもの。悪くもなかったけど。というか、この容姿で勉強ができないと弱みになるし。
私は必死に努力し続けたんだよ?
演技の道でも自分なりに努力し続けた。
ー明日菜はよくがんばるわね?
ー先輩みたいになりたいです。
そう褒められることが、とてもうれしかったんだよ?
私は・・・。
考えていたら、トンネルをこえて右手にあの山岳専門店とダムが見えて、心がヒヤリとしたんだ。
あの山道を疾走する春馬くんのパンダみたいな車。
ただひたすら走る追い続けていた画像。
私の存在が、また、たいせつなものを脅かす。
けど。
「だいじょうぶだよ?明日菜。もうなにも心配しなくていいんだ」
あのマリオカートみたいな工事用の信号機で停車した時に、春馬くんが左手をのばして私の頭を撫でてくれた。
春馬くんの大きな手にはしっかりとあの空色の腕時計がある。
そして、
「あーイチャイチャ禁止」
そうからかう萌ちゃんの手にもよく見たら違いはわかる同時メーカーの似たような時計があるんだ。
復刻版とはなっているけど、新機能を搭載しているから少し違うんだよ?
そして、子供たち用も発売されているから空ちんや凜ちゃんまではめている。
みんな空色。
「この時計は、どうしたの?」
「うん。今夜くわしく話すよ?加納さんも絡んでるし、明日菜もそのつもりだろう?」
「・・・うん。いいの?」
「いいに決まっている。明日菜の人生だぞ?」
「また巻き込んじゃうよ?」
「あたりまえだろ?俺はもう明日菜の夫で、家族だぞ?」
「・・・あまえられない時に限って、まじめに言うの禁止」
「えーっ?」
「それも禁止。山道だよ?」
「・・・たしかに」
春馬くんがだまって車を走らせる。その横顔は少し寂しそうだったけど。
ーごめんね?
私は、私の望む未来がみえてきちゃった。
そして、また、私たちはー。
そこまで考えた時、春馬くんが左にウィンカーをだした。
「ついたぞ、中ノ島公園だ」
そういった。
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