第38話 彼女と彼氏と勾玉とチンアナゴ?
たくさん体験を学んだ私達が、つぎに向かったのは、勾玉作りや火おこしなんかができる体験コーナー。
さっさきの係員さんが、言っていたとおりに、人が多い。
受付に消しゴムくらいの大きさの、白、ぴんく、緑色、黒、の色の石があって、黒だけ、まわりの石より硬くて50円高い250円。
ほかの石は200円。
ほんとうに、お財布に優しい体験コーナーばっかり、なんだなあ。
東京だと、いくらに、なるんだろ?
感心していたら、萌ちゃんに言われた。
「ここからは人が多いから、できるだけ、明日菜呼びはダメだよ?お兄ちゃん。私もお姉ちゃんって呼ぶから。それに腕時計は、私があずかるね?」
「目立つからか?」
「ううん、汚れるから」
汚れる?
首を傾げながらも、私は萌ちゃんに時計を渡して、素直に春馬くんも渡した。
ー私たちの大切な腕時計を、簡単に、他の子に、渡しちゃうんだね?
私のなかに、ザラザラしたなにかが起こりそうになる。
そうしたら、春馬くんは、まじめな顔をした。
「だいじょうぶだよ?明日菜?萌ちゃんは、柴原と違う存在だぞ?」
「なんで真央⁈」
「えっ?カツアゲなら、柴原だろ⁈」
…春馬くんは、真央をどう思ってるんだろ?
いや、たしかに、たくさん聴いてますけど⁈
私よりデカい存在で、春馬くんの国宝の真央。
萌ちゃんがあきれた顔で私に言った。
「…お姉ちゃん、よく、春馬兄ちゃんをえらんだね?」
「奇遇だね?私も最近、時々、そう思うよ?」
私は大きくため息をつく。
きっと弥生時代には、いなかったよね?
こんな恋人同士?
けど身分がもうあったなら、シェイクスピアの歌劇みたいな話もあったのかなあ。
きっとこの土地でもたくさんの恋や愛がうまれて、あの集落をずっととりかこむお濠みたいに守られて、時には、傷ついて、それでも必死にその時代を生きて、いま土に帰って、
ーそして、その土から、いろいろな歴史を、現代に教えてくれいる。
「ほんとに、すげー場所だなあ」
春馬くんがあたりをみわたして、もういちど楽しそうにわらっている。
たぶん、私より真央と来たほうがたのしめるのかな?
・・・ちがうか。
きっと、春馬くんと真央なら、春馬くんと待ち合わせして、春馬くんの車で、現地にはくるけど、現地解散、で、帰りは、現地集合なんだよなあ。
デートじゃなく完全に遠足。
わたしはかってにふりのことが想像できるから、笑ってしまった。
「たのしそうだね?お姉ちゃん。やっぱり春馬兄ちゃんにぞっこんなの?」
「んー、どうだろうね?」
「なぬ?!」
「やばいね?春馬兄ちゃん」
「・・・マジトーンやめてくれ」
春馬くんがへこんで、私はやっぱり笑った。
ね?
春馬くん。
春馬くんのことは、大好きだよ?
だけどー。
「明日菜?」
春馬くんの少し茶色かがった瞳が、さびしそうにかげったのは、ほんの一瞬で、すぐに笑う。
春馬くんが、笑う。
「どの石をえらぶ?」
「空色ないんだね?」
「ないな。みどりならあるぞ?」
「私はピンクにしたよ」
「春馬くんはみどり?」
「明日菜やっぱりー」
「超能力テストはうけないからね?」
「…お兄ちゃんとつきあえるお姉ちゃん、ある意味、変なんだね」
ー萌ちゃん。
それは、言わないで、ほしかったなあ。
そうおもいながら、私は、しろい石をとったけど、
「白色と緑色ってあんまりかわらなくない?」
萌ちゃんが首を傾げたら、係の人が
「できあがったら、違いがわかりますよ」
そう説明してくれたけど、私と春馬くんの石はどうみても同じいろにみえるけどなあって思いながら、今度は私が三人分払った。
春馬くんがお金を出そうとしてくれたけど、三人で600円だよ?
それに、正直言って、春馬くんよりも私のほうが、年収上だし。私の通帳には、田舎ならおうちが買える金額がある。
うちの両親は、そのまま通帳に振り込んでくれて、一切手をつけてなかった。
ー私の高校費用くらいつかってくれてもいいのに。
だから帰省の交通費は出していた。
成人の着物は、事務所が用意してくれた。
寮母さんと千夏と後輩たちが選んでいたなあ。
私のマグカップ、どうなったかな?
福岡を、春馬くんをおもいだすのがつらくて、見たくもなかったのになあ。
春馬くんのことは、大好きだけど。
私には春馬くんとかいないのは、間違いないけど。
ー春馬くんだけじゃなくても、いいんだ。
私が心を許してもいい人たちは、たくさんいる。
私は、春馬くんが好き。
私以上に春馬くんを大切に思っているのは・・・。
まあ、春馬くんのご両親とは比べようがないかあ。
こればっかりは、春馬くんだって、うちの家族には、勝てないだろうし。
もし勝てるとしたら、もしかしたら、授かれるかもしれない私たちの大切ないのち。
真央のなかで、いま輝いてるもの。
真央が、いっていた。
のぞんでも手に入らないかもしれない、輝き、だ。
ーどんなにのぞんでも。
ーこれが最後、だったんです。
そういった人がいた。
きっと、この土地にもいたのかな・・・?
ながいながい、いろんな時代を経て、
「ー春馬兄ちゃん、けずりすぎしゃない?」
萌ちゃんの声に我に返った。
勾玉づくりは、消しゴムサイズの石の表面に、おたまじゃくしみたいな図をかいて、それに合わして砥石をつかって削って、まるくしていくんだけど。
けっこう難しいのに。
「あれ?目がなくなるぞ?やばくね?チンアナゴ?」
「…春馬くん、つくるのは、勾玉だよ?」
「あれ?」
「どれ?」
「それ?」
「・・・これ、だよ?」
私は目の前にある工程をしめす展示品を指さした。
「おおきさが、まったくちがうな」
「細さもちがうよ、春馬兄ちゃん。いったい途中から何をつくっていたの?」
「そういう萌ちゃんは、なんだ?」
「ハート」
「ふたりとも、勾玉づくりだよ?」
「明日菜が、まじめにつくってるから、よくね?」
「かわいいでしょ?」
たしかに萌ちゃんのハートは、かわいいけど。
「春馬くんそれは?」
「チンアナゴ?」
って細い物体を目にして、首をかしげる春馬くん。
ネックレスにする紐を通す穴すら削りすぎそうになっていた。
たしかに、
ーチンアナゴ。
私は、水の中をゆらゆら漂う愛らしい生物を思い浮かべて、
ね?
春馬くん。
やっぱり、私はあきれて、でも笑うんだ。
けっきょくは、まじめに勾玉ができあがったのは、私だけだったけど。
「えらい小さく削りましたね」
春馬くんは、かかりのひとからも、あきれられていた。
水の中で紙やすりで磨いて、紐をとおしたら完成。
「なんか俺と明日菜の色は、かわんないな」
「そうだね。ペアみたい。ただ、お兄ちゃんと明日菜さんの交歓したら?」
「お?ナイスアイディア。ほら明日菜。チンアナゴだ」
「・・・勾玉だよ?」
「そうともいう」
「それしかいわないからね?!」
私と春馬くんが会話していたら、
ーカシャッ!
私の背筋を凍らせる音がした。私はびっくりして周囲をみわたそうとしたら、
「だいじょうぶだよ。お姉ちゃん。はい時計」
私の肩をちいさな細い手が守るように抱いてくれて、私にあの空色の腕時計をわたしてくれる。
その腕にも、
「えっ?」
「いいでしょ?千夏さんがくれた復元モデルだよ?限定品になるんだって!」
萌ちゃんが大きめの声でいった。
「先行予約で手に入ったんだ。かっこいいろ?神城明日菜の復刻モデル。値段も手ごろで、機能もまんさいだぞ。ちゃんとみんなぶんかったからな」
春馬くんが、さらに、大声で言った。
そして、春馬くんの手には、いつものあの時計。
私に萌ちゃんがくれたのも私と春馬くんの時計で、よく見ると萌ちゃんのものは、少しちがう。
けれど。
「あっ、ほんとだ。発売されてる」
そう声がしてふりむくと、若い女の子たちが、スマホをいじっていた。
「しかも、いま神城明日菜って、東京にいるじゃん。ほら?事務所の何人かが、写真付きで写真アップしてるじやん」
「なんだ。やっばり他人かあ」
という会話が聞こえてきて、
「あんたら、人の写真勝手にとってたのか?うちの妹を?」
春馬くんがにらみをきかしたら、あわてて、てをふって、
「ほら消しました」
画像を春馬くんがチェックしていた。
「そのモデルって、まだ発売してます?」
「これは先行モデルだけど、いまからちゃんと予約が始まるとおもうよ。神城明日菜のファンなの?」
「ハイ!大好きです!ごめんなさい。ついとって」
ファンクラブにも、入ってますと女の子たちが、目を輝かせたけど。
「ファンクラブ?」
私にそんなものは、ないはずだけど?
「わたしちの学校でつくっているサークルです。演劇部で、神城明日菜の演技を真似して作品を演じて学ぶというか、あそぶというか、とにかく憧れなんです!」
目をキラキラしていわれた。
「最近、雑誌のモデルもでてないし、病気って噂もながれていて」
泣きそうな顔になった。
私はとっさに言葉をだしかけたけど、萌ちゃんがやんわりととめる。
春馬くんがやさしくわらった。
「俺も神城明日菜の大ファンだから、この時計を持っているんだけど。だいじょうぶだとおもうよ?神城明日菜は、みんなが思っているより、きっと、本人がおもっているより、つよいんだ」
「そうですよね。信じてまってます」
「写真ごめんなさい。あと時計のお話ありがとうございました」
そう女子たちが手をふって、私は萌ちゃんに手をひかれて体験施設をあとにした。
春馬くんのチンアナゴみたいな勾玉を、ぎゅっと掌ににぎりしめた。
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