第36話 彼女と彼氏と女の子は内緒が好きなんだよ?
私は、萌ちゃんをみながら、思ってしまった。
「私はおじゃ虫だからいいよ」
おどけた目が、東京にいる金髪の後輩に、似ている。
いつも、野良猫みたいに人を警戒していた後輩。
ー芸能界に入ったのは、
・・・はやく自立したかったから。
複雑な家庭環境の子だった。
ー先輩の恋は、おままごとの恋だね。
そのおままごとすら、ろくに経験していない幼少期をすごした子。
春馬くんは、知らない事実で、私がしってしまった事実。
ー萌ちゃんは、轟木家でひとりぼっちの子だった。
壱さんが、どんなにやさしくても、
萌ちゃんのお父さんは、零さん。
純子さんが、どんなに優しくても、
純子さんは、空ちゃんや凜ちゃんの、ママ。
空ちゃんや凜ちゃんは、半分しか、血がつながっていない。
そして、
空ちゃんや凜ちゃんには、血のつながった、壱さんがいる。
萌ちゃんだけが、しあわせな家族の中で、
ー異質。
どんなに萌ちゃんがのぞんでも手に入らない、
ー天国のパパ。
萌ちゃんは、そのことを、周囲には、絶対にいわない。
でも、
きっと、夜空に、いつも、零さんを、みている。
私が、東京でどうしようもないさびしさを、抱えてしまったときのように、
ーあの猫みたいな後輩が、優菜に失望してしまったときのように。
だから、私は、萌ちゃんに言ったんだ。
こっそり、耳もとでいった。
ね?
春馬くん。
知ってる?
女の子たちは、内緒話が大好きだけど、
ほんとうに、小さなころから大好きだから、
ーやってる子は、たくさんいて、
ー見てる子も、たくさんいるんだ。
どんな子たちだって、いっかいは、必ず傷ついてる。
けど、
それが、女の子だよ?
だから、
ちゃんと、教えよう?
見えるようにやったら、それは、もう相手が嫌な思いになるんだよ?
きっと、わかるよ?
だって、
女の子たちは、小さなころから内緒話が、好きで、
でもね?
ちゃんと、うまく伝えたら、
ーきっと、魅力的なアイテムに、なるんだよ?
・・・たぶん。
私は、萌ちゃんの耳元で、わざと、春馬くんに見えるように、ささやいた。
「ー春馬くんの相手を、こういう場所でひとりでするのは、きっと、疲れちゃうから一緒にきてくれないかな?」
こんな春馬くんの興味ばっかりひくような場所で、
・・・春馬くんの相手を、ひとり、で、するのは、ちょっと、つらい。
半分本気で、お願いしたのが伝わったんだろう。
萌ちゃんが、噴き出した。
ーよかった。
笑って、くれた。
東京にいる私の大切な後輩や寮母さんは、笑って、いてくれるかな?
スマホでは、画面ごしに会話しているけど、ちゃんと、会いたいな。
東京に残してきたあのマグカップやダルマも気になるし。
ーあいたいな。
って素直に思う。そういえば、
「萌ちゃん、いま中学2年生?」
「うん。でも4月から3年生だよ?」
「私が春馬くんとであった年だね」
「明日菜は、そうだけど、俺は、中1で、もう明日菜をみつけていたぞ?」
春馬くんが得意そうに言うけど、私は、ため息をついた。
「ごめんね?デリカシーなくて」
「春馬兄ちゃんだから仕方ないよ」
「なんのことだ?」
「春馬兄ちゃんが鈍いって話」
「ー?俺は運動神経は悪くないぞ?よくもないけど」
本気で首を傾げる春馬くんに、私と萌ちゃんはあきれて、でも顔を見合わせて、笑ってしまった。
ね?
萌ちゃん。
「私の、春馬くん、だよ?」
こころでつぶやいたつもりが、
「明日菜お姉ちゃん、口に出てるよ?」
萌ちゃんが苦い顔をした。
菜の花がきれいに咲いてる細い道で、
ー私と萌ちゃんは、やっぱり同時に吹き出してしまった。
きっと、弥生時代にも私たちみたいな会話をして笑っていた人たちが、この場所にいたんだよね?
やわらかな春の風がまって、
私はとても不思議に思ったんだ。
よろしくお願いします!