第35話 彼氏と彼女と吉野ヶ里歴史公園
ー吉野ケ里歴史公園。
きっとある一定の年齢の人間なら、ぴんとくる場所だ。
俺の親父は、発掘当初に、見学に、行って、
「すごくひろかったけど、土しかなかったぞ?」
って、俺によく言ってた場所だ。
今回、軍曹に言われて、俺もぴんとこなかった場所。
だって、発掘された当初は、すごく話題になっていたらしいが、1986年だぞ?
昭和61年からの発掘調査で、発見された場所だぞ?
生まれる前だぞ?
ー親父、俺が知るわけないだろ?
面積にして、36ha(埋蔵文化財包蔵区)。
めちゃくちゃ、ひろい国営の公園。
国営だぞ?
すごいぞ?
たぶん、全国的にも珍しいぞ?
そして、コロナの影響で子連れなら年パスが半額だぞ?
同じ国営だから、福岡市にある海の中道海浜公園も、その年パスが使えるんだぞ?
ーめちゃくちゃ、お財布に、やさしい国の公園。
・・・どっちも、俺や軍曹の住む場所から、遠いけど。
海の中道、広すぎるし、こっちも、広すぎる。
海の中道は、レンタルサイクルあるけど、こっちの吉野ケ里は、20分間隔で園内バスで移動する。
歩いて移動してもいいけど、
・・・ふつうに入場券に、2日間コースってあるぞ?
一日じゃ、絶対に、まわれないぞ?
だって、弥生時代の集落がそのまま復元してあるぞ?
・・・桜がないのは、弥生時代に、桜って、なかったんだって。
ー盲点、だった。
一日、大人で、460円。
二日通し券は、500円。
その差は、たったの40円。
しかも中学生以下は無料。
65歳以上のシルバーは、200円。
二日通し券は、240円。
その差は、たったの40円。
・・・40円は、譲らないらしい。
なぜに?!
シルバーじゃないけど疑問に思う俺は、きっと、少数派?
いや、シルバー派?
俺がシルバーになるまで、あと何年だ?
運転免許は、シルバー通り越してゴールドとれそうなんだけどなあ。
シルバー免許がべつの意味をもつんだよなあ。
・・・ゴールド免許って、名前が変にならね?
まあ、あのゴールド免許って、でた時代は、いまほど、高齢者にも飲酒にも厳しくなかったなあ。
―飲酒って、厳しいの福岡だけか?
福岡の飲酒検挙率は高いけど、ほんとうに飲酒の検問めっちゃあるぞ?
たぶん他県より飲酒に関しては、意識もたかいぞ。
むかしとても哀しい事件があったから。
ーそれでも、なくならないけど。
ちゃんと、耳に届く人間には、届いている。
警察も頑張っている。
そして、たぶん交通ルールって、哀しい事件のぶんだけ増えていくんだろうな。
脱線しかけた俺の相変わらずな思考を、券売機の音が、もとに戻してくれる。
ちなみに軍曹が年間パスポートを持っていたので、駐車場代の310円も無料で、けっきょくは、俺たちが現金で払ったのは、俺と明日菜の460円×2の920円。
ーやすくね?
東京都とかの大都会でも国なら同じなのかなあ?
福岡に隣接する佐賀県神崎郡吉野ケ里町。
吉野ケ里遺跡は、国の特別史跡に指定された大切な文化遺産だ。
弥生時代は、約700年も続く長い時代で、吉野ケ里遺跡は、実は、この700年すべての時期の遺構・遺物が発見された学術的価値の高い遺跡だ。
発見された当時は、ほんとうに大ニュースになっていた。
うちの親父曰く、
「みわたす限り、ただの土と穴ばかり」
だったらしいが。
おかげで、俺も行く気にはなれなかったけど。
「うわー、すごくきれいな場所!」
って明日菜が春のおだやかな日差しに笑顔になる。
目のまえに広がるのは、広大な緑の芝生と、手入れの行き届いたきれいな花々とみどりいっぱいの場所。
とおくに、のんびりグランドゴルフを、たのしむ高齢者の姿も見えた。
ーいまやグランドゴルフなんだよなあ。
ゲートボールは、どこへ?
・・・まじで、近所でも見かけなくなったぞ?!
ゲートボール。
ちなみに俺のあたまの中では、ビリヤードは、年寄りのゲートボール。
半世紀近く前から、とある老人の地域のあつまり場所にあったんだ。
幼い俺の親父は、それをみながら、
ーゲートボールのテーブル版っておもったらしい。
だって、ゲートボールも相手を押し出して、ゲートとおって、ピンに充てるよな?
ー似てるとおもわないか?春馬。
・・・俺ってば、親父似だったんだ。
いまごろ気づくおれって幸せ。
そういえば、親父は、あんまり俺になんにも言わなかったな。
兄貴にも、いわなかったけど、兄貴とは、馬があわなかった。
母親と兄貴は、仲がいいイメージだけど、俺には母親は、
ー異世界人。
その異世界代表の、明日菜。
いまや俺の嫁さん。
左手の薬指のリングを、萌ちゃんにねだられて、照れくさそうにみせている。
あっ、それで思い出した。
俺は、背中に背負っていたリュックから例の奴を取り出す。
「萌ちゃん、これ」
「あっ、あれか・・・。ありがとう」
「例なら加納さんにいってくれよな。あっ、軍曹たちの分も」
「おお、千夏にいっておく」
「ー俺には」
「いま、萌にいらないと言っていただろう」
そうなんだけど、軍曹相手だと腑に落ちない俺だ。
「壱のは?」
「入ってますよ」
「おお。ありがとう」
「どういたしまして」
いえるじゃん、壱さんのことだと。って俺はあきれた。
「なあに?」
明日菜が首をかしげた時、
「やったー。ふわふわドームガラガラだ!」
って空ちゃんが駆け出していく。
目のまえにはたくさんの遊具と、しろいおおきな山みたいな、トランポリンみたいな、遊びもの。
すげーな。ながいローラーコースターまであるし、小さな小川ぞいにタッチ式の簡易テントをはれる。
俺はそのテントを木陰にセットした。
なかに荷物をおいた。軍曹が大きめのやわらかな敷物を中にしいて、凜ちゃんをおろしてやる。
もうたてる凜ちゃんは、空ちゃんが気になっている。
空ちゃんは、でっかいふわふわの雪山みたいな、トランポリンみたいにはねる山であそんでる。
軍曹の話じゃすぐに子供たちが殺到して、時間制限がかかるらしい。
「開園してすぐだし、春休みでも休日だし。まだ人がすくないから。私は凜と空とここにいるから萌をお願いしていいか?」
「えっ?お邪魔虫じゃん。私はひとりでまわるよ」
「ダメだよ。こんな広い場所ひとりじゃあぶないよ」
「大丈夫だよ。明日菜お姉ちゃん。私もすまほあるし」
「それでもだめだよ。一緒にまわろ?」
明日菜がめずらしく言い張って、そして、萌ちゃんに何事かを耳打ちして、萌ちゃんが吹き出した。
ーなんだ?
「まあ、明日菜お姉ちゃんの言うこともわかるし、春馬兄ちゃんデートの邪魔してごめんね?」
「いや、俺もそっちがうれしいけど、何を言われたんだ?」
「内緒だよ」
って、萌ちゃんが舌をだした。
明日菜は苦笑いをしている。
ちょっと、お姉さんな、苦笑いだった。
ぽかぽか陽気の吉野ケ里れ歴史公園の、西エリア。
子供たちの笑い声とお年寄りのグランドゴルフの歓声が響いていて、
ーゲートボールってどこに行った?
って、俺はやっぱりおもってた。
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