第28話 彼女と彼氏と彼女のもやもや。
その日の夜ごはんは幕の内弁当。
レディースサイズだったけど、半分くらいは、残してしまった。
「まあ、動いてないしな」
って、頭をやさしく撫でてくれて、その日もただ抱きしめてもらって眠った。
春馬くんの腕の中は、ドキドキはしない。
ただ、安心する。
私と違って、春馬くんの胸は、どきどきと鼓動がはやい。
ー我慢してくれている。
それは、わかっている。
わかっていて、
ーもうすこし意地悪したい。
って、思っちゃう私は、なんだろ?
たぶん、いま春馬くんの愛情を反応をたしかめている。
ーほんとうに、また、信頼してもだいじょうぶ?
そう思ってしまう。
そしてそのたびに、
ね?
春馬くんは、やっぱり、
ー春馬くんだね?
私をしっかりとやさしく包み込んでくれる。
大きな腕の中が、やさしい体温が、私のいる場所だと感じる。
夕方、お弁当を届けてくれたのは、千夏さんで、すこしだけ話をした。
私の契約の話で、いまは保留にしてもらった。
上野さんのお婆さんの話を聞いてから少し迷いが出てるけど。
ーあの世界は、やっぱり、しんどいな。
私が私の大好きな春馬くんから切り離される世界。
私のたいせつな人たちを、かんたんにネットで批判されちゃう世界で、
・・・私には、生きる意味をおしえてくれた仕事。
お婆さんの話で思い出した。
純粋にただ監督や周囲のひとたちと一緒に作り上げて届けたかった仕事。
「お仕事好きだったんだ。私」
18歳でやめようって決めていたから、なおさら頑張っていたお仕事。
予定外にいままでやってきて、
ーあの子の分まで。
ー優菜のために。
・・・ほんとにそれだけで私はがんばれたの?
きらいだったら、続いていたの?
「わかんない」
あんまり考えたくない。また思考がふっとあのふわふわな世界に戻りかけるけど。
ーあなたの姿をね、自分の若いころにかさねてたのよ?いいドラマをありがとう。
そう言って、わらってくれた上野さん。
私が演じたあの時代を、生き抜いた人たち。
口々に、
ー私たちが必死に生きて、つくった、平和な時代を、
ーまもって。
―生きて。
―わらって。
ただ、
ー繰り返しちゃいかん。
ずっと口にされていた人たちの願い。
・・・いつのまにか、
高齢者は好待遇すぎる。
もっと未来ある若者に目をむけろって、高齢者には理解できないネットの方が重みをもつ時代になっていって・・・。
たしかに時代の価値観はかわっていく。
変わらなきゃいけない。
けど・・・。
あの時代を必死に生きて、先進国までなりあがった国を築きあげたあの人たちの人生は、
ーこの平和ボケした日本、しか、しらない、若者たちに、
自分からどんな仕事でもいいから、かむしゃせに働いてる若者たちも多いのに、
ーきっとネットで愚痴っているのは、相手にしないほうがいいのに。
なんで比重がそっちに傾いていくんだろう?
知ってる?
年金が高い人たちの介護負担料金の残酷さを。
その圧迫される生活を。
貯金がどんなにあったって、介護料金の自費負担が多くなるだけで。すべての料金で多くなっていくから。
遺産相続問題で、まだ生きているのにもめていくから。
介護負担額が払えないから施設にはいれなくて、でも、家族が負担するにも大きすて、だけど、施設には入れなくて。
しってる?
ちゃんと調べておかないとダメだよ?
老人ホームの種類は何種類もあって、かなりのお金で入居しても一生は、いられない場合もあるんだよ?
ちゃんと目で見てきめないとダメだ。
そして、必ず足を運んでいかないと。
どうしても親族がこない人と来る人では扱いが違ってきちゃうんだ。当たり前だよ?介護現場はいつだって人手不足で、どうしって、そこに家族がくるか来ないかで差が生まれてしまう。
当たり前だよ?
介護現場は、いつだって人手不足で、
・・・そういうご家族はきちんとみていて、できることは、自分たちできちんとしてくれる。
やっかいなのは、訪問しないでなんのリアルもみないで、
ーうちの親に限って、そんなことはしない。
ーうちの子に限って。
は、実はある一定の年齢になると逆になるんだよ?
・・・ほんとうへんてこな国。
ー日本。
もう意味不明だから英語にしようかなあ。
外国目線ならふつうにみれるのかな?
っておもってたんだけどなあ。
ー旅行じゃよくわかんないから住んでみたらっておもったけど・・・。
コロナであえなくなった人たちは、おおいんだろうな?
私や春馬くんみたいに。
ただ、私や春馬くんは遠距離恋愛で一方的だったけど、春馬くんは私を見続けてくれていた。
遠いけど、私たちには真央がいてくれた。真央を介して私は春馬くんのことをいろいろ知れたし、まあ、最終的には、真央が動いてくれていた。
そんな真央みたいな存在がちかくにいないなら、私を応援していてくれたあの高齢者さんたちは、どうなるのかな?
預けるなら、自分たちの行きやすい場所を選んだ方がいい。そして、自分たちの子供にもしっかり老いていく現実をみせていた方がいい。
昔は同居していたから、ふつうに何世代も家族が一緒だから孫はしぜんと歩けなくなっていく祖父母に手をのばしてささえていく子供に、優しい子たちに育つんだ。
せっかくいまは、いろんな通信手段があるんだよ?
離れていても画像でみえるんだ。見えるからわかるんだよ?ちょっとうしろの風景をみてあげたらいい。
ね?
変化はない?
ね?
几帳面なはずなのに汚れてない?
乱れていない?
なにかが違わない?
歩いてみてもらったら?
いまはこんな時代だよ?
ーべんりなんだ。
子供にとっての一年がちがうように、高齢者の一年もふかい意味をもつんだよ?
もっと、深いかもしれない。
私が演じたのは戦火をたくましく、明るく、泣いて、苦しんで、それでも笑ってたけど。
ーあんたらの時代はよかね?私ん時は女学校には、憲兵さんがいつもいた。私は大嫌いやった。いつも私たちを監視しとった。
街で私を呼び止めてサインを書いてほしいと言われた方からいわれた。
警備員じゃない。
ー憲兵。
女学校にいた時代。
正直、私のドラマでは、触れていなかった。けど。
私が演じたのは女学生。爆弾づくりをてつだって、空襲で必死に逃げ惑った役。
焼け野原に、あの放送をきいて、
ーやっと、解放される。
そう思ったそうだ。全員が全員涙したわけじゃない。
くるったようにバカ〇〇が!バカ○○が!
そう枕に拳をたたきつけるひとがいる一方で、
国旗にむかって、敬礼する方もいる。
女生徒じゃなかった男の人たちは、海軍学校だった。どこどの学校だった。
ーあと一日遅かったら特攻やった。
・・・記憶には思い出したくない。
そう言われていたのに、加齢とともに繰り返しお話されるのは、若いころの記憶なんだ。
そう監督は笑っていた。
同世代をいきていたあの私の恩師ともいえるデビュー作の監督。
私を、
ーきみはいい意味で、無色だな。
そう評価してくれた人。
いまの私は、何色なんだろう。
あの時は春馬くんの空色になりたくて、いまも春馬くんの色でありたい。
春馬くんのおだやかな春の陽光に照らされていたい。
・・・春馬くんを私がまもってあげたい。
いつだってやさしい私のまわりの世界を、私は、まもりたい。
ね?
春馬くん。
私は―。
ちっょとだけ、私の望む未来がわかってきたけど・・・。
もうすこしだけ、
まだ、もうちょっとだけ。
「あまえさせてね?春馬くん」
私はきゅっと春馬くんの胸に額をよせたら、春馬くんがしっかりと腕に力をこめてくれた。
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