第12話 彼女と彼氏のプレゼント事情
真央との電話を切ったあと、私は、ぐるりと彼の部屋を、見渡す。
築10年の2LDKは、東京では、信じられない家賃で、住めるらしい。
独身には、ひろいお家。
春馬くんが大学をでて、住む家を迷っていた時に、最近は物騒な世の中だから、男の春馬くんでもセキュリティだけは、しっかりしたものを選んで欲しいとお願いしていた。
だって、心配だったから。
そうしたら、
「おー。女優の神城明日菜がきても、安全なやつ、選んどくな」
なんて言われて、ドキドキしたけど。
まさか、まわりが、ファミリー層のマンションを選ぶとは。
上下左右にドタバタ、ギャーギャーと賑やかだ。
真央に言わせると、単身者、または、カップル向けと、言わなかった、私が、わるいらしい。
たまに高齢者に最適な温泉付きマンションとか、謎な地下倉庫とか、不動産のパンフレットを持って、真剣に悩んでいたらしい。
ーこの物件でも、春馬くんにしては、上出来かもしれない。
そもそも春馬くんが、高齢者用住宅になんか、入れないよね?
入所できたら、お婆ちゃん達のアイドル化しそうだけど。
なかには、美魔女どころか、妖怪みたいなお婆さんもいるかもだし。
ー村上って、モテるし。
さっきの真央の言葉に、モヤモヤしてしまう。
であってもない、しかも、お婆さん相手にバカみたいだけど。
私は、もう一度ぐるりとリビングを見渡す。
小さな2人用の座卓に、40インチのテレビ。
録画もできるBDプレイヤー。
ゲームセンターの景品みたいな、クッションや、雑誌が並ぶ本棚。
釣りや車関係を除けば、私がモデルをしている雑誌や、芸能誌が、きれいに並べられいる。
雑誌に付箋があるのは、私が毎回春馬くんに、付箋をつけて送っているからだ。
春馬くんは、言わなくても買ってくれるだろうし、いま実際に、目の前には、付箋付きと付箋なしの二冊ずつが本棚にはある。
ただ、私が他のモデルさんを、みて欲しくなかった。
だから、毎回、付箋を貼って、送っている
「俺、一応、付箋なしでも、明日菜の顔くらいわかると思うんだけど?」
って、地味に春馬くんは、ショックを受けていたけど、そうじゃない。
私の醜い嫉妬なのだから。
付箋についた部分は、なんども繰り返しみてくれたあとがある。
見てくれてるんだと、私の頬が自分でも、恥ずかしいほど、ゆるむ。
あっ、中3のときに初めて載った少年漫画。
グラビアっぽい水着で、すごく嫌だっだけど、テレビ電話で、一緒にみた春馬くんの反応が可愛くて、それだけで、ほかの嫌らしい視線が忘れられた。
だって、春馬くんが、水着姿みた途端、鼻血だして、悶えたんだもん。
しかも、ボソッと「可愛い」なんて、つぶやかれたら、たまらないよね?
ふつうに可愛い、きれいって、言われるよりも、何倍も嬉しかった。
ちょっと、変態ぽいけど。
そもそも、私はグラビアなんかできる体型じゃないんだし。
服をお洒落に着こなすことはできても、水着は、着こなせない。
「それはそれで、マニアには、たまらないと思うけど?」
一度、真央は、性別検査受けた方がいいと思う。
そんなことを思いながら、段ボールのひとつから、普段はあまり選ばない、水色のエプロンを手にとる。
水色は、春馬くんが好きな色。
どうして?ってきいたら、水と空の色、どっちでもあり、だからだって。
天と地。
どっちの色でもあり、空気は無色。いわば、水色。
春馬くんらしい、返事だったけど。
コロナの影響で、未だに、寮母さんがいる事務所の寮に、住んでる私は、あまり料理が、得意じゃないけど。
そう言えば、さっき真央が、春馬くんが義理チョコをたくさんもらうって、言ってたなあ。
私も毎年バレンタインは、事務所のみんなと、わいわい騒ぎながら、チョコレート系のお菓子を作ったけど。
お返しに彼氏手作りのお菓子をもらうのは、私だけだった。
毎年、いろいろなバージョンで、届く謎の物体は、いまや寮の風物詩になっている。
見た目と味はちがうとよく言われるけど、春馬くんのお菓子は、見ためと相性抜群だ。
ーとんでもなく、まずい。
罰ゲーム用に、重宝されている。
そんな、春馬くんよりは、料理に自信があるので、冷蔵庫を見てみたけど、
キャベツ、人参、豚肉、もやしーって、野菜炒めくらいだよね?
ごはんは無いし、お米の場所が、よくわからないし、あっ、ラーメンがあった。
しかも、2種類。
じゃあ、これでいいかな?
正直、二度と冷凍庫あけたくないし。
なんなの?あのグロテスクな魚は。
誕生日に送ってきてくれたのと、同じなんだろうけど、
春馬くんが、
「すげーんだぜ。頭切りおとしても、しばらく、ビクビク生きててさあ。さすがの俺でもビビったよ」
とつけ加えてた。
動画も送ってきたけど、未だに、わたしはみていない。
みたいとせがまれて、後輩たちに見せたけど、みんな、ぎゃああって、はしゃいでた。
若いって、いいなあ。
同じ平成生まれだけどさ。
本当に、どんな魚よ?
確かに、料理慣れしている寮母さんは、喜んでたけど。
私にとっては、二度と思い出したくない思い出だ。
可愛らしく、きれいにラッピングされたプレゼントの中身が、生きてるグロテスクな魚、だなんて。
確かに、よく見たら、段ボールについ送り状の品物名に、生魚、って書いてたけど!
そこは、サプライズ感だしたい寮母さんが、隠してくれていたし、彼女だって、中身がアレだと、思ってなかったらしいし。
もし生きた魚でも、さあ。
ミドリフグや、カクレクマノミとか、可愛い観賞魚を、えらぶよね?
寮母さんに、ニヤニヤされて、明日菜ちゃん彼氏からよって、言われて、素直に、嬉しかったのに。
その後。
寮中に響いた、私の悲鳴は、悪くない、たぶん。
いまや、すっかり、春馬くんからのプレゼントは、寮の名物化してる。
最近は、なんかご当地キーホルダーや、マグカップになってるけど。
キーホルダーはともかく、大きな文字で福岡って書いたマグカップや、学問の神様で有名な太宰府天満宮の合格だるまとかー。
私、いったい、なんの試験受けるの?
就活してたのは、春馬くんだよね?
内定した時、一応、目の色を書いたけど。
ーなんか、思い出したら、疲れてきた。
お風呂掃除でもしようかな?
でも、勝手に、いろいろ覗くのも悪いし。
どうしょうか迷ってたら、春馬くんが帰ってきて、荷物を運ぶのを、手伝って欲しいとメッセージがきた。
私は、またマスクと眼鏡をして、迎えに行ったのだけど、
あのやりとりは、ないよね?
でも、まあ、あの様子なら、浮気の心配はないのかな?
春馬くん、だし。
絶対、うそつけない、だろうし。
うそ、ばれる、し。