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第13話 彼女と彼氏と彼女の、悔恨。


春馬くんの意外な?なんだか、春馬くんらしい、のかよくわからない特技?をあらためて、知って、


ーやっぱり春馬くんは、


春馬くんだね?


って妙に私は。感心しながら、お風呂へとむかう。


そういえば、ゆうべ真央が春馬くんに、


ーお風呂は話すからね?掃除機だめだよ?


って言っていたなあ。


なんで、あそこで春馬くんがルイー〇マンションを連想するなんてわかるんだろ?


ー私やまわりにとっては、


なんでそうなるの?!


なんだけどなあ。


ほんとに不思議なきずなというか、独特のナニカかあるふたりで。


「・・・私は一生わかんないんだろうなあ」


もし私と春馬くんの間にできた子供が春馬くんに似たら、


「私はちゃんと理解してあげられるのかな?」


って一瞬思ったけど、


「まあ、真央や春馬くんのお母さんや」


ーなによりも春馬くんがいる。


そして、


「私の子なんだもん、どっかはたぶん私に似てるよ?」


そう自分自身にいってみるけど、まあ、いまの私にはピンとこない。


「だって、私と春馬くんにそういう経験ないもの」


・・・ないよね?


以前、春馬くんが言っていたイケメン先輩が被害あったという一種のパワハラをおもいだした。


むかしはそれが当たり前の上司と部下の関係だったかもしれないけれど、


「・・・優しさなんだろうけど、嫌なものは嫌なんだ」


って若者の立場からは、ふふおもってしまう。


私には千夏さんがいて、いつも守ってくれて、けっきょくは、福岡支社の人たちや、会社に守られてもいた。


ー守ってくれる会社で、


・・・それでも、あの子は、守れなかった。


いつか、


「またあいたいなあ」


そう呟きながら服を脱いで洗濯機にいれる。そして、ひとりで赤面した。


だって、


「・・・下着どうしょう」


春馬くんのお家にはじめて泊まった時も思ったことを、やっぱり、また、思い出した。


でもゆうべも千夏さんが私をお風呂にいれてくれて、洗濯機には下着用の中身が見えないタイプの洗濯ネットがあった。


ーさすが千夏さんだなあ。


私のことをよく見ていてくれる。私にとっては、第二のおかあさん、みたいな存在だ。そんな千夏さんからも会社からも私はもう、


ーひとりだちする。


ーひとりだちしないと、いけない。


13歳から私を形成していたものが、なにもなくなる。


というか、もうなくなった。そうおもうと、


「ー怖い」


素直にそう声が出た。そして、ストンとまた腑に落ちた。


「・・・私はけっきょくは、助けられたんだ」


あの18歳の春に福岡に行けたとして、あの中学時代の屋上で感じた真冬の寒さは、きっと胸にあったただろう。


なによりも、あの子をすくえなかった私を責め続けてただろうな。


なんでひとりで抱え込んじゃったんだろ?


あたまからあたたかいシャワーを浴びながら、私は思いだした。


18歳の春馬くんの誕生日。


あの空色の腕時計を一緒にネットで検索してくれた。


ーやさしかった私の東京での、親友。


ー鈴木 優菜。


ゆっちゃん。


私があだ名で呼べた子。


呼ぶくらいには、親しくて、とても仲が良かった子。


「あっ、私と漢字が同じだね?」


人見知りの私にも人懐っこさと面倒見よさで、


「・・・根気よく私を待っててくれたんだ」


面倒見がよくて、正義感がつよかったから、


「あんなことに巻き込まれたんだよ?」


あのとき、彼女は、ほんとうの被害にあった子を恨んではなかった。


あんなに夢見ていた夢をうしなったのに。


ーそういう子で、


ーだいじょうぶだよ?明日菜は優しいから。優しい子のまわりにはね、優しい人しかあつまらないよ?


ずっと笑っていてくれた、ゆっちゃん。


ーいつか私のことも優菜って、呼び捨てにしてくれたらうれしいな?


そうニコニコしていた。ほんとうに、いつもおだやかな子だった。


事務所の後輩たちも懐いていて、


「・・・だから、裏切られた気分になったんだよね?」


私はゆっちゃんの真相を後輩たちには話していない。ただ、真相は事務所のスタッフや千夏さん、寮母さんも知っていて、だからこそ、


―情報を必死にまもっていたのに。


ゆっちゃんだけじゃなくて、ゆっちゃんが守りたいって願った子もまもるために。


「・・・知らなくていい情報を勝手にながして、真実をごまかして、でも、みんな、なんで、しんじちゃうんだろう」


やっぱりあの世界にもどりたいとはおもえない。


18歳の春馬くんの誕生日にまにあうように、あの雑誌が発売される前に、


ーふたりで春馬くんに、プレゼントする時計を選んでいた。


事務所をやめて福岡に行くことを。


13歳からなじんでしまった環境をかえることに、わくわくしながらも不安だった私に、


ーだいじょうぶだよ?明日菜はいいこなんだから。優しいんだから。


優しい人には、やさしい未来がくるんだよ?


そう笑ってた。


「なんで、いままであいたいって、思わなかったんだろ」


っていいながら、私は苦笑した。口をひらいたからシャンプーを洗い流してから、口の中にシャンプーがちょっとだけはいっちゃった。


やさしいにおいなのに、


ーにがい。


そう、


ー苦いんだ。


私にとって、いつのまにかあの子の記憶は苦いものになっていた。


だって、


「・・・すくえなかった、だよ?」


明日菜が信じてくれたなら、それでいい。


最後にあった時ですら、哀しそうな疲れ切った顔で、


ー笑ってた。


私は笑えなかった。


だから、


ふかい悔恨だけが残ったんだ。


ー悔恨。


後悔じゃないんだ。


ずっと、記憶にのこってしまう。


ううん、わすれちゃいけない想いなんだ。


だから、


ー悔恨。


で。


たぶん、春馬くんならこういう。


「じやあ、忘れなきゃいい。そうしたら、きっと、もうくりかえさない。だから、そんな未来はもうないんだぞ?」


そう言うね?


私はクスクス笑ってしまう。真央がルイー〇マンションでも、春馬くんのこの答えをもらえるのは、きっと私だけだよ?


だって、


ー春馬くんも真央も私も、


・・・たぶん、心の奥底では、ヒトを信用していない。


から、


私たちは傷つき過ぎちゃったから、


ーひとにやさしい夢をみたい。


優しい人には、優しい未来があってほしい。


あの子は、純粋にそう言える子だった。


そう素直におもえる環境で育てたんだ。


なら、


「あいたいな」


あって、


ーただ、抱きしめたい。


風のうわさに、いまはお兄さんと外国にいるって、きいた。


「千夏さんにきいたらわかるかな?」


私のスマホに残っていた、実家の住所やあの子のプライベートな情報は、すぐに、なんの意味もなくなってしまった。


そうしないと、身を守れなかった。


それですら、ネットは、スマホは、いつだって、監視カメラのように、あの子だけじゃなく、年老いた祖父母さえ容赦なく追いつめてた。


ーいまは、そっとしておきなさい。


千夏さんに言われて、そのまま忙しさに、ごまかしちゃったし、


―私のことを心配してくれてる。


だから、逢えない。


だった。


でも、もういいよね。


外国でももう私は自由だから、会いに行ける。


というか、


「あれ?春馬くん、日本語教師になるって言ってたけど。外国に行くって言ってたけど」


・・・こんどはリンスが口にはいった。


こんどのは、


ーまずい。


春馬くんの用意してくれた朝食は、どっちかなあ。


見た目はカラフル。


カラフルとしか言いようがない、


春馬くんいわく、


ージャングルサラダ。


・・・居酒屋さんみたいなメニューだなあ。


ついクスクス笑って、


リンスは、


ーまずい。


私は、ちょっと顔をしかめた。




読んで頂きありがとうございます。


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