第11話 彼氏と彼女の手料理?うま◯っちゃん
突然だが、俺も明日菜も、南九州の出身だ。
ただし、俺が大学から、もう5年ちかく福岡に住んでいるのに対して、明日菜は、東京に詳しくても、当たり前だけど、福岡には、くわしくない。
なので、俺はいま、目の前にでてきた料理に、とまどっていた。
もちろん、福岡は、というか、九州自体が、自然豊かで、色々なものがうまい土地である。
そして福岡は、玄海灘にも恵まれて、魚もうまいし、俺の家から、車で30分くらいのところにある船越漁港には、毎年、冬になると、焼き牡蠣小屋がいくつも軒をならべて、中には肉類や野菜などを、いくらかの持ち込み代を払えば可能、という夢のような店もある。
コロナがはやる前に、大学の先輩に初めてつれて行ってもらった時の、焼きたての牡蠣のうまさに覚えた感動は、いまも忘れられない。
ちなみに、その時も明日菜の友人である柴原も数人の女子と、一緒についてきた。
あとから知ったが、歓迎コンパという名の、合コンだったらしい。
船越漁港では、春先まで、牡蠣が食べれるんだ。
柴原は、ちゃっかり、その場で新入生の一番人気を、彼氏にしていたが。
柴原とは、よく飲み会で、一緒になっていた。
というか、かりだされてた?
俺とは、違って顔のひろい奴だ。
そういえば、3か月くらいで、あの新入生だった奴とも別れて、また新しく彼氏できていたな。
なんか、結構な頻度で、男が変わるけど、あいつ大丈夫か?
いや、あいつなら、大丈夫か。
意外と、いや俺なんかより、全然たよりになるし。
それに、明日菜の方が俺よりも柴原には、詳しいだろうから、余計なお世話か。
で、そうだ、福岡の名物についてだった。
福岡には、代表的な料理がいくつかある。
焼き鳥ーこれは、他県民からしてみたら焼き豚だといわれている、豚バラが一番人気の串焼きだ。
つけ焼き合わせの独特な酸味がくせになるキャベツが、無料でお代わりし放題で、めちゃめちゃうまい。
ちなみに、豚バラ串には、がっつりぶ厚い系と、うすーいペラペラ系があり、好みはそれぞれだろう。
俺は、エノキを豚バラでまいてるエノキ巻きや、オクラ巻きが好きだ。
唯一、鳥で好きなのは、砂ズリだろうか?
あのコリコリ感が、何とも言えないよなあ。
あとは、一口餃子、もつ鍋、水炊き、明太子等、色々あるが、中でも昔から、豚骨ラーメンは有名だろう。
でも実は、福岡には、ラーメン店より、うどん店の方が、多かったりもする。
コシのない、やわらかなうどんの発祥の地とかだっけ?
アゴだしや、かつおだしの薄味のスープに、コシがないちょっと太めのやわらな麺は、絶妙で、あと欠かせないのが、ゴボ天だ。
ごぼうのてんぷらと絶妙にあう、福岡うどん、マジうまい。
豚骨は、においがちょっと、って、修学旅行で、明日菜がいっていたこともあり、俺は昼休みは、わりと、うどん屋の研究に余念がない。
だれだ?いまワンコインなんて、言ったやつ。
ワンコインなら、博多ラーメンだぞ?
今時、一杯290円。
ワンコインでお釣りがくるどころか、替え玉して、ワンコインだ。
ーって、話がだいぶズレたな。
俺の目の前には、段ボール箱のひとつをあけて、その中からエプロンをとりだし、明日菜が作ってくれたものがある。
いままでも、バレンタインデーなんかには、たまに、手作りお菓子をくれていたが、彼女マジックは、いままで感じたことがないよなあ。
だって、味は市販のチョコレートだし?
そして、お返しに、毎年のように俺が作るお菓子には、彼氏スパイスが絶妙すぎて、
ー明日菜は食べない。
お互いに感想が非常にこまる、バレンタイン事情だったりもする。
まあ、明日菜の方は、毎年少しずつ、真面目な彼女らしく、上達してるから、食えなくは、ない。
けどなあ。
市販の義理チョコの方がうまいと感じるのは、正直な俺の長所としとこう。
柴原にいったら、無言で高校の校庭100周させられたし。
ーあいつは、悪魔か。
そもそも、俺に至っては、毎年のように天敵のスマホを駆使してるが、ふだん使用しないからか、ついタイトルにつられて、選ぶレシピサイトを、失敗していた。
明日菜じゃないけど、レシピ通りに作っても、うまくできたためしがない。
スマホを使いこなせてないから、いきなり見ていたサイトが変わっても、気づかないせいだ。
だって、きび砂糖と三温糖って、同じ茶色食だし。
写真が茶色なら、茶色の砂糖なら、ぜんぶ同じだと思うだろう?
そもそも、マシュマロは、まっしろだと、柴原に叱られたけど。
一度も、しろいやつ作れないんだけど⁈
いい加減に、市販の何かをプレゼントしてやれば?ともいわれるが、明日菜は女優じゃん?
俺より何倍も金持ちで、お洒落な仕事をしてるぞ?
しかも、大都会東京に、すんでいる。
福岡にあって、東京で手に入らないものと思って、つりたてのアコウ(キジハタ)の靴サイズを送ったら、グロテスクな見た目に、盛大な悲鳴を上げて寮で、顰蹙をかったらしい。
あの時も、事務所から、かなり叱られた、
ー俺が。
ちなみに、アコウは、寮のおばさんか美味しく頂いたそうだ。
唯一、寮母さんだけを、味方につけた俺だ。
あれ?
何気に、レアキャラを、獲得してない?
ー尊い生命よ、ありがとう?
グロテスクな見た目だけど、高級魚だぞ?
白身で、めっちゃ、うまいのに。
とにかく、そういう、苦い経験をしたので、自分で選ぶのは、ささやかなものが多い。
―ご当地キーホルダーとか。
いくら貧乏人でも、いまや実力派大人気女優とも認識されてる明日菜あいてに、なにをプレゼントしてるんだ?
とは、苦く思うけど。
社会人になったんだから、考えないと。
もうすぐ、社会人2年目なるけど。
気づくの遅くない?
なんてぼんやりしながら、目の前のもの眺めていたら、
「えへへ。どうかな?このエプロン。春馬くん空色すきだよね?あんまり、買わない色なんだけど、どうかな?」
明日菜が、はにかんで、きいてきたけど、それより、俺は目の前のものが、気になっていた。
ーので、
うん、うん、似合う、似合う。
なんて、適当にあしらったら、ぷっくり頬を膨らませたが、仕方ない。
だって、目の前には、野菜炒がてんこもりになった、ご当地インスタントラーメンが、あったのだから。
「明日菜って、とんこつは、苦手じゃなかったか?」
福岡で、人気の豚骨乾麺。
―うまか〇ちゃん。
2019年に40周年を迎えた、ご当地ラーメンの草分け的存在だ。
誰もがしる大手企業なのに、とんこつ味だから、九州限定。
それくらい、くせになる豚骨のにおいである。
しかも、山盛りに高菜炒めじゃなく、野菜炒めが、はいってますが?
「うん、真央からよく食べてるって、きいてたから。でもやっぱり、においがきついね。あとで、窓開けて換気しようね」
そんなにくさいか?俺の部屋?
タバコは吸わないし、洗濯は3日に一度、してるけど?
その前に、ききたいことがある。
「野菜炒めは、なぜに?」
「栄養バランスと、冷蔵庫の残りの結果」
「で、明日菜さんが、たべているのは?」
「サッ〇ロ一番味噌ラーメン。野菜炒めとあうんだよ?東京でも、よくたべるよ?」
「なにもいま南北会合しなくても。うーむ、北は、東京進出も果たしているのか」
「何言ってるのよ?福岡でも、簡単にスーパーで手に入るでしょ?しかも、これ春馬くんの家にあったし?」
明日菜は、あきれた声で、俺を無視して、頂きますと、行儀よく手をあわせた。
俺も続いて、手を合わせながら、きれいなウェーブかかった黒髪を、かきあげる明日菜の食べる姿に、ぼーっとみとれていた。
なんかこういうCMが、あったよな?ドラマだっけ?
「どうしたの?見つめられていたら、食べにくいんですけど」
明日菜が照れくさそうに、俺をみる。
うん、やっぱり、
「明日菜、きれいになったな。エプロンもすげーにあってた」
「ほんと!?」
「値札が付いてなかったらな」
「へっ?」
しかも、がっつり値引き札ついてたし。
動きをとめた明日菜を横に、俺は半ば倍ちかくにのびた麺を、ずるずるとすすった。
半額で5000円とか、エプロンなんか汚れて、なんぼだろ?
とは思ったが、嬉しい気持ちが勝ち、俺は素直に笑う。
「ありがとうな」
「えっ?」
「そんな高いものまで買って、俺のために、お洒落してくれて。本当に、似合ってる」
ラーメンから目をはなして、明日菜の顔を真正面から見つめていうと、明日菜も照れくさそうに、わらってくれた。
ちなみにせっかくのうま〇ちゃんは、野菜炒めの味は濃いし、麺はのびていたのだが、この日の俺には、彼女マジックがきいたらしく、不思議とおいしくたべられた。