第3話 彼氏と彼女と彼氏の涙。
みんなが帰った部屋で、俺はひとつため息をついた。
あたりまえだけど、今日の一日は、ながかった。
なんなら、あの日から、ずーっと、ながかった。
「ながくないはず、ねーよなあ」
マジで。
俺だって、一応、そういう感覚は、あるー。
ーはず?
まあ、曖昧なのが俺や柴原だしなあ。
ただ、
「ほんと、ながかった、なあ」
俺ですらそう思うきつさを、
「・・・よくがんばった、な。明日菜」
俺は、俺のベットですやすやと眠る明日菜をみて、つい微笑む。
あの夜に着ていた俺のパーカーじゃなく、明日菜がもってきていたスエット。
きなれたスエット。
・・・そうだよ。
「すこしずつ、で、いいんだ」
俺は、明日菜の眠るベットに、もたれかかって、天井をみあげた。
そうでもしなければ、また涙がこみあげてくる。
喉にあついものが、こみあげて、くる。
ーやっと、だ。
ほんとうに、
やっと。
「・・・やっと、ここまで、きたんだ」
俺だけの力じゃない。明日菜には、たくさんの見守ってくれている人たちがいて、そして、
ーやっと、ここまで、たどりついた。
やっと、夜明けがみえはじめたけれど、
きょうは、運よく、晴天だったけど。
大しけだったら、雨だったら、あの海の夜明けは、けっこう、暗いんだ。
だけど、光は、うっすらだけどみえるんだ。
ちょっとだけでも、光はさすんだ。
だけど、
「・・・焦るなよ。俺?」
俺は、天井をみながら、泣くのをこらえる。
ただ、
ーああ、ちゃんと、きみがいるね?
ーああ、ちゃんと、いる。
ただ、みえて、いる。
ー俺が、視界に、はいってくれた。
し、
ー俺を、視界に、とらえてくれた。
「そんなことが、こんなに、うれしいなんて、なあ」
俺はつい、下唇を前歯で、噛んでしまう。
ごめんって、おもうけれど。
泣きたくないんだ。今日だけは。
だって、
ーこんなに、うれしいんだぞ?
ただ、明日菜の視界に、俺がうつった。
また、俺が、うつった。
「・・・あたりまえ、っておもっていたのになあ」
心をおちつかせるために、また、息をはきだす。
人によっては、新婚初夜に、なにやってんだって、思うだろうけど。
俺には、その気がない。
というか、正直、いまはその余裕がない。
し、また、明日菜をおいつめてしまうかもしれない。
いろんな意見があって、でも俺みたいなのも、ほんとうに稀にいる。
イケメン先輩みたいになのも、本当にいて、先輩は、だから独身だった。
ーほんとうに、稀、だけど、いる。
で、わりと、いる。
そして、ただ、俺はそれでも幸せだ。
ただ、静まり返った、夜のファミリーマンションで、いつもは上下左右にうるさいマンションで、
どこにでもあるマンションの一室で、
ー昨日まで大スターだった「神城明日菜」が「村上明日菜」になって、いる。
俺のそばに、いる。
ーもう、ほんとうにさあ。
「いまは、それだけで、腹いっぱいなんだ」
俺はそう言葉にして、バカみたいに、やっぱり泣きそうになる。
ほんとうに、
ーやっとだ。
やっと、ここまで、きたんだ。
でも、いまからが、いまからこそ、俺の出番だ。
「こんどこそ、俺がまもるよ?」
あの真冬の空にもう、すべてをあきらめてしまっていた明日菜を、俺だけの力じゃなく、みんなが助けてくれた。
だから、わかっている。
ー俺だけじゃ、まもれなかった。
でも、その中のひとりも、まちがいなく、俺なんだ。
そして、これからの明日菜を、ささえていくのは、いちばん、そばで見守っていけるのも、
ー俺だけ、だ。
そこは、俺は誇っていい。
ただ、俺だけの力で無理なことは、頭にたたきこむけれど。
だけど。
「おかえり、明日菜」
心から俺は、そうつぶやいて、
ーむりだった。
俺は顔をおおって、声をこらえようって、思うのに、
「-くそっ」
どくづいたけど、ダメだった。
ただ、明日菜の眠りを邪魔しないように、あのトイレの時みたいに涙があふれてとまらくなった。
あんときの悩みなんかバカみたいにちいさく思えるのに。
ー涙には、いろいろあるんだなあ。
わけわかんねーよ。
なんだよ、こんなの。
わけわかねーくらい、
「・・・うれしくて、泣くのかあ」
口の中が塩辛い、
ーのに、
ああ、しあわせだな。
俺は、ばかみたいに、そうおもった。
ただ、スマホのチカチカ光るメッセージをみて、
「プランのたてなおしかあ」
って、冷静に、どこかで、おもったけど。
まあ、いいや。
だって、
「やっと、ここまで、きたんだよ?」
ーおかえり、明日菜。
ーよくがんばったね?
ーあとは、俺にまかせとけ。
ーゆっくり、一緒にあるきだそう?
ーよくがんばったね?
ーえらかったね?
ーあとは、俺にまかせとけ。
それ以外に、なにがある?
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