番外編、⓻
もうすぐ桜の咲く季節になってくる。
私は日本酒片手に子供たちと優しい隣人とその伴侶、そしてその大切なマネージャーさんとのんびり会話をしている。
やさしい人には幸せになってほしい。
そういう世界であってほしい。
そして、そんなささやかな願いがいま、かなっている。
たくさんのひとに応援されて、かなっている。
明日菜さんはマネージャーさんのスマホにむかってやさしく笑って、だれかと会話をしている。
表情がちょっと大人びているから、相手は年下の子なのかな?
演技をしていないこの子は、ほんとうにわかりやすい。
私はクスクスとわらう。
「どうしたの?おかあさん」
萌が不思議そうにいった。目元がよくパパ似だね?そういわれている私の子。
私と壱のたいせつな子で、零さんの子供。
世界中でたったひとりの私の特別な子。
私はお酒をもっていない手でその髪にふれる。
「もうー。くしゃくしゃになる」
って頬をふくらませて、
「春馬お兄ちゃん、ゲームしよ?!」
って村上くんをひっぱっていく。
それに、
「あっ、ずるーい!空も」
「もー!」
って娘たちがついていく。
「あー。わかった、わかった。けど、ゲームはどこだったかなあ」
って、段ボール箱をキョロキョロしている。
隣で真央ちゃんが、
「段ボールぜんぶテープ見えないようにおいてるよ?」
ってあきれていたけれど。
判断基準そこ?!
って、内心びっくりした。
マネージャーさんをみたら苦笑している。
まあ、村上くんならやるだろうけれど。
「・・・私も同じです」
真央ちゃんが声にだして肩をすくめた。
驚いた。彼女はまったくわからない。
あとからきいたら、早期療育の効果らしい。
ー療育って私ははじめて知った。
おもわずじっと凜を見てしまうと、
「凜ちゃんは、たぶん、大丈夫ですよ?」
って真央ちゃんはいった。
「たぶん、なのね?」
「はい」
言い切るのが真央ちゃんなんだね。村上くんなら即答はまよう。
私はとりあえずちびりと日本酒をのむ。隣では、豪快に日本酒を飲んでる人がいる。
・・・よくのんでる。
「いやあ、きようのお酒は美味しいわ」
にっこにっこの笑顔で笑っている。
ほんとうにうれしそうだね。
気持ちはわかる。
「それにこのお魚って本当に美味しい」
噛みしめるようにお刺身を味わっているけれど。正直、美味しいけど。
「ーなんでお頭つきなんですか?」
真央ちゃんかがいって、私も実はそう思う。
鯛やアジならともかく・・・。
ちょっと、いや、かなり不気味だ。
「たんなるやきもち」
ってマネージャーがイタズラっぽく笑う。
「だって、ここに独身って私だけでしょ?」
「・・・明日菜ちゃんの快気祝いじゃ?」
「それとこれは別」
ー別の別じゃないのかしら?
まあ、同じ年齢の私たちは意気投合してるんだけど。
・・・この話はあまりつっこまない方がいいと身に染みてわかっている。
いつでも愚痴ならきくよ?
それしかない。
「お仕事たのしいですか?」
真央ちゃんが言った。
「楽しいわよ。でも、明日菜が手をはなれたから、ちっょと休憩かしら」
「休憩?」
「ええ。明日菜の新居を覗きにいくつもり」
「過保護すぎません?」
「んー。それもあるけど、気になる情報があったから、確認かなあ」
って、なんともいえない笑みをうかべていた。
哀しそうな、でも、ほっとしたような。
ふしぎなおもみのある笑顔。
なんとなく、それ以上はきいたらダメなんだろうなって思った。
「もうすぐ蔓延防止解除ですね?」
真央ちゃんが言う。
「マスク生活もなにもあまり変わらないけどね」
相変わらず私のスマホには学校からのメールが多いし、妊娠中の真央ちゃんの心細さや不安はきっと私の比じゃない。
こんな時代にママになって、パパになって、
ーまもりそだてる。
すごいなあ。
私にはできるんだろうか?
萌を妊娠して、空も凜もいるけれど。
なんなら、凛にはできれば男の子って内心思ってて、絶対に口にはしないけれど。
口にしちゃうと、傷になる。
些細なことだけど、その子が崩れちゃったら引き金になる。
だって、存在の全否定だもの。性別はその子にはどうしょうもないことで、頭では理解しても、
ー男の子にうまれれば、怒られなかったのかな。
ちいさな喧嘩でも引き金になる可能性がある。
ある程度、うーん、思春期をこえたら、ありなのかな。
そういえば、私はリアルタイムで I LOVE YOU って歌う人のことをしっている。
ちょっとだけ世代はずれてるけど、テープで発売されてきいていた。
出所して一枚目はCDだった。
8センチCDなんて、いまの子はしっているのかなあ。
個人的にはあの曲がいちばん、リアルに響いた。
ラブソングではないのかな?
大好きだったけど、あまり、きいてない。
私は、ひっぱられちゃうから。
ただ、すごいひとだった。心から、そうおもう。
あのひとの瞳には、この世界はどう「みえて」いたのかな?
萌の場合は大人数で歌う女性アイドルにはまってる。改名したらしいけど。
私もおぼえたなあ。ただ、私が覚えたのは、リーダーの子がやっていた代表曲だ。
しった時にはもう改名ってなってたな。
ほとんどのお母さんが子供がうまれて1年くらい、ゆっくり本や趣味に使った記憶ないっていう。
私も一歳になるまでは、本すらよめなくて、ひさしぶりに本屋にいったら、あれ?いつのまに終わった?ってなる。
世の中のお母さんがそう思ってるの、お父さんたちは気づいてあげられてるのかなあ。
幸い、うちの壱は敏感で、村上くんにも恵まれた。
そもそも私はコロナでは生んでいない。
凜がひっかってはいるけど、微妙にさけてくれてる。
ーコロナで閉ざされた世界で子供を産む。
ー妊娠期を過ごす。
頼りになるのは、
ーパパだけだよ?
いまのお母さんたちは、ほんとうにすごいなあ。
うちの壱は敏感で、村上くんにもめぐまれて、
「真央ちゃんの旦那様はいいひとそうね」
私が笑うと真央ちゃんは、ちょっと、びっくりした顔をしたけど、
「はい」
ってこたえて、
「ー私もはやく王様にあいたい」
マネージャーが言った。
私と真央ちゃんは顔を見合わせてわらったけど。
ー王子様じゃないんだね?
たしかに、このマネージャーなら女王様だ。
すごいなあ。
ぐっと未来が広がるし、いままでに、たしかに歩んでいた自信があるね。
すごいなあ。
ふつうに、すごいなあ。
やさしい大人はたくさんいるよ?
私は真央ちゃんのまあるいお腹にわらった。
ブックマーク いいね ☆評価ありがとうございます。 少しでも続きが読みたいと思われたら評価お願いします。 予想外の方に読んで頂き、ふたりのハッピーエンドをこちらにもってくるか悩み中です