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身長が違うのに鼻がぶつかる

「え~と、今の時間ならやりたいことが出来るかも、のあたりらへんからです」


(ほとんど最初から見ていらっしゃる……)


「このことは、どうか内密に……」


「ん~、可愛そうなので誰にも話さないでいてあげます。でも、身長なんて気にせず普段から堂々と歩けばいいと思いますよ」


(簡単に言ってくれる。身長が高いだけでどれだけの人から見られると思っているんだ)


「そんな簡単なことじゃないんですよ。大原さんにはわからないかもしれないですけど」


「むう! 私だってわかります。人助けをしているときだってよく見られますし、普段から生活していても、私が小っちゃくて可愛いからよく見られるんです! エッヘン!」


(そこは別に威張るところじゃないと思うけど……)


「多くの人から見られて嫌じゃないんですか? 何を思われているんだろうとか、気にしないんですか?」


「はい! 気にしません。だって気にしたって仕方ないじゃないですか。私の身長が一日で一気に伸びて、一七○センチメートルのモデル体型になったら、どれだけ嬉しいか。でも、そんなことはありえないですし、私の身長や容姿は全部個性ですから!」


 大原さんは自分の胸に手を置いて堂々と語った。


「はは、大原さんは強いですね……。僕は大原さんみたいに強くなれません……」


「私だって別に強くないですよ。ただ、疋田君と考え方が違うだけです。疋田君だって考え方を変えれば、もっと生きやすい生活を送れますよ」


(わかってる。僕だって周りを気にしなければいいということくらいわかっているんだ。でも、ロボットのデータみたいに自分を簡単に変えるなんてできっこない……)


「大原さんが言うほど、考え方を変えるなんて簡単なことじゃないですよ」


「だからいいんですよ。簡単じゃないからこそ面白いんです! 疋田君ほどの身長があればバスケットもバレーもそれなりにできてしまう。でも簡単であればあるほど、つまらなくなっていくんだと私は思っています。なら、難しいことに挑戦していきましょう!」


 その時の大原さんの顔はとても凛々しく見えた。小さい体なのにどこか大きく感じる。


(大原さん……本当に小学生とは思えない。あ、間違えた。高校生だった)


「疋田君だって、そんなふうに四つん這いになっていれば、私よりも身長が低くなって見下されている気持ちが分かりますよね」


 大原さんは僕の前まで来て、言った。


「見下されると、ウサギになった気分です……」


「ウサギ、ウサギですか……。確かにウサギの気分かもしれません。ほら、私たちだって少しはわかり合えました。わかり合えることがうれしいのは、わかり合うことが難しいからなんですよ!」


「何ですかその理論……」


「ほら立ってください!」


 僕は言われるがまま立ち上がった。出来るだけ背筋を曲げて。


「背筋は伸ばして! これ以上ないっていうくらいに良い姿勢をキープしてみてください」


「は、はいィ……」


 僕は言われるがまま、背筋を伸ばす。いつも使わないような背中の筋肉を使い、肩甲骨辺りがとても痛くなった。


「よし、そのまま目をつぶって姿勢を保ち続けてください」


 僕は目をつぶり、きつい姿勢を保ち続けていた。一分か、二分か経ったが、短時間、保ち続けるのもままならないほど、背筋を正すのは辛かった。


「あの、まだですか。もうそろそろ限界なんですけど……」


「もう、どうしてですか。椅子の上に立っているのにまだ疋田君の方が高いなんておかしいです!」


「も、もう限界です……」


「も、もうちょっと待ってください!」


 僕は耐えられず、少し前かがみになってしまい、つぶっていた眼を開ける。すると目の前に大原さんの顔があった。ここまで間近で見ても毛穴の一つもないツルツルの肌がとても綺麗だ。視線が合い、澄んだ瞳に吸い込まれそうだった……。


 僕の鼻と大原さんの鼻が『チョン……』と当たってしまい、僕達はいてもいられなくなって視線をそらす。


「ご、ごめんなさい……」


「わ、私の方こそ、調子に乗ってすみません……」


「ふっ」


「ふっ」


 僕と大原さんはなぜか笑いが込み上げてきた。僕は楽な姿勢をとり、大原さんに話かける。


「は~、なんかわからないですけど、大原さんと話が出来てよかったです」


「柚希……」


 大原さんはぼそぼそと小さな声で呟いた。


「?」


「柚希って呼んでもいいですよ……」


 大原さんは真っ赤になった頬を僕の方に向けながら言う。


(大原さんはなぜ頬が赤くなっているのだろうか……。まぁ、恥ずかしいからとしか考えられないよな。うん。僕も多分赤くなってるし)


「えっと……、名前呼びをどうして許してくれるんですか?」


「さっき、バスケとバレーをしてくれたので、私のことを名前で呼ぶことを許してあげます。特別にですからね!」


(そう言えば、そんな約束を言っていたような気もする)


「え~と大原さん、名前呼びはまた今度に……」


「ダメです。今、この場で名前を言ってください! 難しいことに挑戦ですよ!」


「い、いやほんとに……。挑戦か……。んん……。ゆ、柚希……さん」


 僕は大原さんの方を見ずに真下を見ながら絞り出すように名前を言う。


「そこは呼び捨てにするところだと思いますが、まぁ……今日のところは許してあげます」


 僕は大原さんの全体像をちらっと見てみる。


 大原さんは両腕を組み、仁王立ちしていた。全く恐ろしくなく、アライグマのようだ。


「はは……」


(ほんとに何と言っていいか、自分勝手というか、自己中心的というか……。僕はこの人と仲良くするのはやっぱり難しいかもな)


 僕は柚希さんに開放され、やっと帰宅できるようになった。


「はぁ……。柚希さん、顔は可愛いけど、身長と性格が無理だ。僕と全く合わないよ。もう少しおしとやかな子の方が話しやすいよなぁ。それにしても、大島君には悪いことしちゃったな……」


 僕は俯きながら廊下を歩き、生徒玄関まで向かっていた。


「何が悪いことなのか教えてくれよ……祐介」


「う、うわぁ!」


 僕は情けない声で驚いてしまった。すぐ近くに大島君がいたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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