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親バカ

「あ、あの……。何か……」


「いや~、最近は私が家にいる時でも柚希の機嫌がすごくいいんだ。前までは私が仕事から帰って来たら、部屋にすぐに籠るし、何か気に食わないことがあると怒鳴るしで、反抗期がとうとう来たのかと思って悲しんでいたんだよ」


「へ、へぇ……。温厚そうな柚希さんでも家だとそうなんですね……」


「でも高校生活が楽しいのか、学校の話をよくするようになってね。夜も少しずつ眠れるようになったらしくてイライラしなくなったみたいなんだ。私も家で怒鳴られる頻度が減って居心地がよくなったんだよ」


「そうなんですか。よかったですね……」


「ふと気になって夜に眠れるようになった理由を柚希に聞いたんだ。でも、柚希は教えてくれなくてね。牡丹に聞いたら友達と話していると言うじゃないか。さらに問い詰めると、疋田君と言う高身長のクラスメイトだと白状したんだ。なるほどなるほど……」


 和正さんは僕の両肩に手を置いて口を開いた。


「疋田君は柚希とどういう関係なのかな……?」


 和正さんは親の仇を目の前にしているような恐ろしい表情で僕に質問してきた。


(な、何なんだ。女子の父親や祖父は皆こんなに怖い者なのか。ま、まぁ子供が心配にならない親はいないか)


「僕は柚希さんの話相手です。友達かはわからないですけど、色々手助けし合っている者同士……、共同者……、仲間……、ん~、どういう関係かを聞かれると返答に困りますね」


「じゃあ、単刀直入に聞こう、疋田君は柚希の彼氏なのかな?」


「違います。僕は柚希さんの彼氏では断じてないので安心してください。あんなに可愛くて、優しくて、気配りの出来る素敵な方が僕の彼女な訳ないじゃないですか。柚希さんにはもっと素敵な男性が相応しいです」


「はぁ……。疋田君は柚希の彼氏じゃないのか……」


 和正さんは眼鏡が落ちそうなほど頭をガックシと落とし、残念そうにしている。


(あれ、怒ってたんじゃないのか? こういう時は出来るだけ引いたほうがいいと思っていたんだけど……)


「いや~、柚希は可愛くて優しくてまさしく天使みたいな子だろ。だから、悪い虫が付かないか心配で心配で仕方ないんだ。疋田君が彼氏ならもう言うことなしの一〇〇万点なのにな。柚希もこんないい男が近くにいるんだからもっとアプローチをすればいいのに」


 どうやら僕は和正さんからの評価が高いらしい。


 すごく嬉しいけど、複雑な気持ちだ。残念ながら僕は柚希さんから脈無しとわかっている。実際、僕も柚希さんと出会ってまだ一ヶ月ほどしか経っていない。


 男は一瞬で恋をして女は時間をかけて恋をすると聞いたことがある。


 僕にその一瞬があったのか、よくわからない。


 恥ずかしい話、僕は誰かを好きになった覚えがない。告白されたことは何度かあるけど、相手を好きになった覚えが一度もない。


 相手の気持ちと僕の気持ちが違い過ぎて逃げるように断っていた。まぁ、小学生のころだったし、足が速いとかそういう話だろう。


 中学校になってから、めっきり告白されなくなった。身長が伸び始めて怖がられてたんだろうな。いや、僕なんかが告白されてた経験があるなんておこがましすぎる。過去の栄光を話すダサい男みたいだ。


 告白された経験があるとか今の僕が言っても信憑性が無さすぎてカッコ悪いから考えるのもやめておこう。僕に告白してくれた女子達も僕のことなんて完全に忘れているんだ。僕も忘れないと女子達の黒歴史になってしまう。


「疋田君、今、柚希はフリーなんだ。ぜひ、私の娘と付き合ってくれないか!」


 和正さんは肩に置いている手に力を入れ、僕の体を揺する。


「そ、それは出来ませんよ。和正さんは柚希さんのお父さんですけど、誰を彼氏にするのかは柚希さん本人が決めるべきです。和正さんはじっと我慢して彼女の成長を見守ってあげてください。口出しするのは柚希さんが道を間違えそうになった時だけです。それでも進むというのなら、精一杯応援してあげてください。僕もそうしますから」


「ゆ、疋田君は大分大人びた考えをするんだね……」


「そうですか? 僕は大人が何かまだよくわかっていない高校一年生ですけど……」


「でも、疋田君の言うことも一理あるね。私は少し過保護すぎるのかもしれないな……。疋田君も知っていると思うが、長女の牡丹が少し……ふしだらでしょ。あの姉を見て柚希までもああなってしまったらどうしようかって不安で不安で仕方がないんだ」


(牡丹さんが少しふしだら? 大分ふしだらだと思うけど……)


「柚希さんなら大丈夫ですよ。牡丹さんを反面教師にしていますし、柚希さんに牡丹さんのような色気は出せません。いや……時折見せる姉妹の片鱗はあります。でもこのまま成長を見届けるのが柚希さん本来の可愛さを残したまま成長させる最良の方法なんじゃないでしょうか」


「疋田君……、柚希の可愛さがわかってるね~! そうなんだよ。あんなに小さいのに、時おり見せる仕草とか、表情とかがやけに大人っぽく見えるところがあって最高なんだ」


 和正さんは重度の親バカだった。


「そうですよね! さっきも髪を耳に掛けるところとか、口周りに着いた餅を舌で上手く舐めとるとか、もう、なぜか心臓が高鳴ってしまうんですよ。子供っぽいのに大人っぽいというギャップがたまりません」


「うんうん、わかるわかる。いや~疋田君。君とは長い話し合いが出来そうだよ」


 和正さんは眼鏡を掛け直し、僕に握手を求めて来た。


 僕は和正さんの手を力強く握り、一瞬で仲良くなる。


「じゃあ、僕はそろそろ帰ります。自転車で駅まで来たので、もうそろそろ帰らないと家に着くのが遅くなってしまうんです」


「そうか……。どうせなら家内の料理でも食べていってほしかったが、自転車なら仕方ないな。また今度、家に遊びに来なさい。歓迎するよ」


「はは……、柚希さんに誘われたら行きますね」


 僕は柚希さんが帰って来るよりも前に家に帰ることにした。僕が和正さんと話していたら、柚希さんが戻ってきにくいと思ったのだ。駐輪場に向かい、自分の自転車の鍵を外し、スタンドを蹴り上げてサドルにまたがる。ヘルメットをかぶり、周りを見渡しながら明るい歩道に出て自転車専用道路を移動する。


 自転車専用道路を移動し始めて一〇分後、隣から声が聞こえた。


「疋田君、今日はありがとうございました! 私は大好きを通りこして疋田君を愛してます!」


 僕は車内から叫ばれた愛の言葉に一瞬ぎょっとした。誰かと思って横目で見ると和正さんの車に乗っている柚希さんが先ほどの演技の続きをしたようだ。


(さっきの会話はすごくよかったみたいだな。なら僕も返答をしないと……)


「ありがとう、柚希。俺も柚希を愛してる!」


 僕が声を上げると柚希さんは顔を一瞬で赤面させて笑い、ブンブンと手を振っていた。


 僕はよそ見をしながらの運転は危ないと思い、自転車を止めて手を振る。


「柚希さん、可愛かったな……。さてと、帰り道は暗いし、安全運転をしながら家に帰らないとな。はぁ……未来、怒るだろうな。帰ってくるのが遅すぎ! って」


 僕は暗い中、出来るだけ明るい道を通り、家まで帰った。


 自転車を家と塀の間に止め、鍵を閉めてチェーンも着ける。二つの鍵で自転車の盗難を防ぐ。自転車を止めたら玄関の扉の取っ手に手をかけ、引き開ける。


「むぅ~! 兄貴、帰ってくるのが遅すぎ!」


 未来は玄関に仁王立ちしながら待っていた。


(やっぱり、僕が思った通りの怒り方をして来たな……)


 僕は未来に謝りながら頭を下げる。


 未来はぷんぷんと怒り、僕の脛を何度も蹴って来た。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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毎日更新できるように頑張っていきます。


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