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胸を締め付ける気持ち

「疋田君、どうして笑っているんですか?」


 野村さんは僕の表情が気持ち悪かったのか、少々引きながら聞いてきた。


「はは……。モデルの皆さんがあの人を見ていた理由がわかったんです。きっと自分とのレベルが違いすぎる人が近くにいて違和感を覚えていたんですよ。僕達はモデルについてよく知りませんからレベルの差もわからなかった……」


「な、なるほど。だからあの人だけ別格に見えるんですね……」


 響さんの服の説明が終わると、シャッター音が鳴り終わっていないのに響さんはステージから戻って来た。


「ふぅ……。まあまあの出来だな」


 響さんは周りの誰よりも早く服を脱ぎ、パンツと黒い内着になってお店の中に戻っていった。ステージ裏には響さんの脱ぎ捨てた抜け殻が落ちている。


「こ、これは……」


「うりゃああ~っ!」×女性モデルたち。


「えぇ……。なんか奪い出し始めた……。ピラニアみたいだ……」


 響さんの抜け殻は女性モデルさん達に全て回収され、跡形もなく消えた。隣にいる野村さんはその状況にドン引きしており、苦笑いしか出来なくなっている。


 僕達の余韻は服の争奪戦で一気に掻き消され、頭に? が浮かんだ状態でお店の控室に戻る。


「皆~、お疲れ様~。ひとまず成功してよかったよかった~」


 控室に戻ると牡丹さんが待っており、椅子に柚希さんが座っていた。柚希さんはスマホを見ており、画面を何度もスワイプしている。


 僕は見てはいけないと思いながらも見たいという気持ちが芽生え、柚希さんの後ろを通るふりをして画面を少し覗き込んだ。


 すると、響さんの姿が映っている写真を何枚も見ているようだ。ニヘニヘにしている表情を見るに柚希さんも響さんのファンなのだろう。


(な、なんか悔しい……。別に負けるのは当たり前だけど……、胸がすっごい締め付けられる。胸が煮えたぎって熱い……)


 僕は響さんの写真を見てニヘニヘしている柚希さんを見ていられず、場から立ち去る。


「ぼ、僕も早く着替えよ……。何を向きになってるんだ。ただのアルバイトなのに」


 僕は小物類を全部外し、オールバックもくしゃくしゃにして直す。濡れタオルで出来るだけワックスを落とし、家に帰った時、未来に怪しまれないように証拠を消す。


 他の男性モデルも服を着替えだした。響さんの姿はすでになく、もう帰ってしまったのだろうか。そう思っていたら、響さんの声が聞こえて来た。


「牡丹、一緒に東京の本社に戻ろう。その方がお前のためになるだろ」


「はぁ、別にどこで働いてもいいでしょ。私はこっちで働きたいの」


「なぜだ? 牡丹なら東京でも十分に活躍できていただろ。さっさと戻ってプロとしてだな……」


「な~、うっさいな~。そんなに東京で働きたいなら響君だけ東京に戻ればいいでしょ。わざわざ追っかけてこなくてもよかったのに。そんなに私が好きなの?」


「ち、違う。そうじゃない。俺はお前の可能性を無残にも散らしてほしくないだけだ」


 お店の控室を歩きながら牡丹さんと私服の響さんが話しあっていた。どうも響さんは牡丹さんを東京に連れ戻したいらしい。


「響さん、今日も凄くカッコよかったです」


「あ、ああ。柚希ちゃん、ありがとう」


 響さんは誰にも見せた覚えのない微笑みを柚希さんに向けながら、頭を撫でていた。


「えへへ……」


(さ、さっきの人と同一人物なのか……。公爵系の冷徹イケメンだと思ってたのに。というか、柚希さんのあの顔はいったいなんだ。ヘラヘラしすぎなんじゃないか。あんな顔、僕は知らないぞ)


 僕はいつの間にか手を握りしめていた。なぜか悔しがっているらしい。


(僕は何を考えているんだ。響さんは大人で僕はまだ一五歳の子供だぞ。負けて当たり前じゃないか。そもそも勝ち負けとかないはずだ。なのに胸が苦しい。柚希さんが響さんに向けているあの表情を見れない……。いつも元気で明るい柚希さんを乙女の顔にしてしまうあの響さんが……)


「お~い、熱くなっているところすまないが今日の給料だ。受け取れ」


「あ、ありがとうございます……」


 僕は真理さんから茶封筒を貰った。


「あと、前と同じように今、身に付けている物は全部持って帰っていいぞ。と言うか、置いて行かれても困るから持って帰れ」


「小物もですか?」


「ああ。小物も全部もってけ。靴もな」


「えっと、そんなに貰ってもいいんですか?」


「構わない。金を出しているのは会社だからな。あと、疋田君の着ている服なんてほぼ着れる人がいないし、小物は自社ブランドだからそこまで高くない。もっていけ泥棒」


「そ、そうですか……。じゃあ、ありがたくいただきます」


「ちょいちょい……」


 真理さんは僕にかがむよう要求してきた。


「何ですか?」


「あの場にいる三人は三角関係でな~。色々とドロドロしとるんやで~」


「い、いきなりの関西弁……」


「突っ込むところそこじゃないやろ~って、疋田君にはあのトライアングルが見えんのか」


「な、何でそんなことがわかるんですか?」


「そりゃあ~顔を見ればわかるやろ。牡丹さんと響さんは幼馴染らしくてな~、いつも一緒にあそんどったらしくて高校生の時はつきあっとったらしいんよ~。んでな~、柚希ちゃんの初恋の相手が響さんなんやて~」


「そ、その話、本当なんですか!」


「さぁ~。嘘かほんとかわからんな~。私の想像でしかないから~」


 真理さんは僕の表情がコロコロ変わるのが面白いのか、いじってきた。


「うぐぐ……。ま、まぁ、僕には三角関係がどうとかどうでもいいんですけどね……」


「ふぅ~ん。その顔で言うか~。でも、疋田君にはまだまだ可能性が沢山あるんだから、好きに生きればいいよ」


 真理さんは僕のお尻をバシバシと叩いて助言してくれた。


(僕の可能性……。何かあるのかな……)


 僕が着替え終わると周りの人もほぼ全員が着替え終わっていた。


 午後三時ごろにモデルの人達は解散した。残ったのは僕と野村さん、柚希さん、真理さんの四人。牡丹さんは響さんとの話があると言って別の部屋にいるようだ。


「はぁ。僕も帰ろ……」


「な~に言ってるのかな。疋田君~。まだ、午後三時だよ。男手が丁度欲しかったところなんだよね~。一時間一五〇〇円で残業していかない?」


 帰ろうとしている僕の背後から現れたのはダーク系お姉さんこと真理さんだった。お化けが現れたかと思うほど、暗い表情をしており、男手がよっぽど欲しいようだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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