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聞いてはいけない質問

「そ、そりゃあ、ドキドキするに決まっているじゃないですか。野村さんは僕が出会った人の中で一番と言ってもいいほど綺麗な方なんですから……」


「へ、へぇ~そうなんですか……。私にドキドキしちゃったんだ~。ふ~ん……」


「何ですかその顔。僕は顔を見ただけで感情がわかる特殊能力を持っていないので野村さんの気持ちがわからないんですけど……」


「べ、別に何でもないですよ。じゃあ、私は一番なので……もう行きますね」


 野村さんは先ほどよりも胸を張って駆け足でステージ裏に向った。


「疋田君と野村さん、ほんとに付き合ってね~のかよ?」


「もちろんです! 僕とあんなに綺麗な野村さんが釣り合う訳ないじゃないですか。僕と付き合うとか、どう考えてももったいないです。彼女はイケメンで経済力があって優しい男の人と付き合える方だと思います。そんな女性と僕がつき合うなんてありえませんよ」


「疋田君は自分を過小評価しすぎなんじゃね? その方がもったいないと思うけどな~」


 千葉さんは後頭部に手を置いて僕の横を通っていく。


「こんなチャンスは滅多にめぐって来ないと思うけどな~。あれか? ほかに好きな人がいるとか?」


「僕に好きな人ですか……」


(疋田君! 難しいことに挑戦ですよ!)


 僕の脳裏に一番あり得ない人が現れた。なぜ現れたのかはわからない。でも、別に嫌ではなかった。


「ふっ……」


「ん……。何で笑ったんだ? 俺の質問、何かおかしかったか?」


「いえ、思い出し笑いをしただけです。僕に好きな人はいませんよ。気になっている人はいるかもしれないですけど……、好きな人はいないと断言できます」


「ならよ~、お試しでつき合ってみてもいいんじゃね~。女子とつき合うのは楽しいぜ~。デートしたり、キスしたり、セッ〇スしたり。良い人生にはいい思い出が必要だ。甘酸っぱい思いは何度もしてもいいんだぜ~」


 千葉さんは良いこと言った風にどや顔をするがビックリするくらい心に響かなかった。


 どうしてだろうか。確かに野村さんとつき合えたら楽しいかもしれない。何度もからかわれてその都度僕が怒っているという情景が眼に浮かぶ。そんな恋愛をするのも悪くない。


 でも、何か違う。


 僕は頭の中で考えた。足りない頭で何度も思考し、ふと答えがおりて来た。


(好きでもない人と付き合うって言うことに不信感を覚えている……。うん、多分これだな。ヤリチンみたいな食べられそうな女子は全員とつき合うみたいな軽い気持ちが引っ掛かる。まぁ、この考えは童貞臭いんだろうな……)


 僕の横にいるイケメンな千葉さんはいったい何人の女性とつき合ってきたんだろうか。


「千葉さんは何人の女性とつき合ってきたんですか?」


「ん~? いったい何人だろう……。はっきりと覚えてないが昨日もセフレと一回やって来たぜ! めっちゃ可愛い子でさ~。楽しかったな~」


 千葉さんは嫌味なく言った。何だろう。全然カッコよくない。だが、嫌悪感はない。ここまではっきり言われると逆に清々しいまである。


「ま、まさか、野村さんを狙っているんですか……」


「は? 未成年に手を出すわけないだろ。俺みたいなやつでもモラルはしっかり守ってるわけよ。あと俺は年上の方が好みなんだよね~。あぁ~スナックのママさん抱きて~」


 千葉さんはニタニタした表情で歩いていく。良い人なのか最低な人なのかわからない。だが、年上が好きな男性は結構珍しい気もする……。熟女好きならなおさら……。


「疋田君、千葉は反面教師にした方が良いぞ~。性格は良いが頭があれだ。チ○ポに従って生きるとああなる。疋田君は頭でしっかりと考えな。年上のお姉さんの言うことはしっかりと覚えておくんだぞ~」


 ダーク系お姉さんこと真理さんが僕の肩に手を置いて千葉さんについて教えてくれた。やはりあの人は反面教師にした方が良いようだ。にしても、真理さんもいい人だよな。本当に年上のお姉さんって感じだ。ちょっと暗いけど、笑顔は可愛いし性格もよさそう。真理さんの彼氏さんってどんな人なんだろう。そもそもいるのかな?


「真理さんに彼氏さんって……」


「あ? なんて?」


 真理さんの表情が一気に暗くなる。僕は一瞬で察した。聞いてはいけない質問なのだと。


「な、何でもないです……。じゃあ年齢は……」


「あぁ? なんてぇ~?」


 またもや聞いてはいけない質問をしたようだ。なぜ、女性は年齢を気にするのだろうか。出来るだけ若く見られたいのかな。まぁ、聞いてはいけないのなら仕方ない。


「ほら、疋田君もさっさと移動する。時間が無いよ」


「は、はい」


 僕は真理さんに急かされ、ステージ裏まで走った。ステージ裏にはモデルさん達が並び、一番前には野村さんがいた。


 野村さんは後ろの男性モデルに声を掛けられただけで剣を刺された黒ひげの如く飛び跳ね、驚いていた。どうやら相当緊張しているらしい。


 真理さんが緊張をほぐしに向かい、小声で話している。堂々としろとか、ステージに立っているだけでもそれなりに見えるとか、気が軽くなるような言葉を投げかけていた。


 響さんは一番後ろにおり、大トリを飾るようだ。


(ベテランの技術が見れるのだろうか。って! 他人の心配をしている場合じゃない。僕もステージに立たないといけないんだ。この服装だとどういうポージングが自然なんだろう。今回は一人一人の服装を見せる形式だ。カップリングとか前後の相互関係はない。つまりこの服を普段着ている人の心持ちになってポージングを行い、僕はマネキンになる。どう考えても素人には難しすぎると思うんだけど……。と、とりあえず背筋だけはしっかり伸ばしておこう)


 僕は肩を上げて肩甲骨をぎゅっと縮める。そのまま肩を落とし、正常の位置に戻した。


「ふぅ。腹筋と背筋に力を入れてしっかりと立つ。初心者は姿勢だけでもよく見せないと」


 周りのモデルさんを見る限り、姿勢の悪い人は一人もいない。当たり前だと思うけど、当たり前が出来てやっとスタートラインに立てる。


 僕は左手に付けている時計を見る。もうすぐ午後二時だ。ファッションショーが始まる。


(大丈夫。今回は前よりも緊張していない。数をこなせば場慣れするはずだ。今回も周りの視線を気にしないようにするための踏み台にするんだ)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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