エロいは誉め言葉?
「あっ! 疋田君。今、私のことを子どもっぽいって思いましたね。仕方ないじゃないですか。疋田君の上着を着たら対外の女の子は子供っぽくなっちゃいますよ」
柚希さんはむくれを僕に曝し、頬を赤くしながらプイっと視線を逸らす。僕の心がまたもや読まれてしまった。
(怒っているのにその可愛い仕草はいったいなんだ。全然怖くないんだが……)
「と、とにかく、この上着は今度の月曜日に学校で返します」
「わ、わかりました。じゃあ、僕はお店に向かいますから、柚希さんは安静にしていてくださいね」
「心配しなくても大丈夫ですよ。もう、だいぶ良くなりましたから」
柚希さんは無理をしている。妹の看病を一五年間してきた兄を簡単には騙せまい。
僕は柚希さんのもとに歩いて行き、首に手を置く。耳の下あたりに一指し指を置き、首全体を触る感じだ。
柚希さんの心拍数はとても早く、体温が通常時よりも格段に高い。肌も熱っており、どう考えてもまだ万全な状態ではなった。
「な、何、触ってやがるんですか!」
柚希さんは頬をさらに真っ赤にして吠えた。いつもと口調が少々違う。やっぱり本調子じゃないんだ。
「柚希さんは無理せず、病院で見てもらって来てください。点滴を打ってもらったほうが楽になりますからね」
僕は柚希さんをお姫様抱っこして車の座席に座らせる。彼女の抵抗はあまりにも弱弱しく、体に力が入っていなかった。握る手に力すら入らないのか、僕の手を握る力が赤子のようで胸がざわつく。どこか愛玩動物のような声と体の小ささが合わさり、むくれた顔と恥ずかしさで潤んだ瞳が子供っぽさを助長し、どうしようもなく撫でまくりたかった。だが、相手も僕と同じ人であり、同級生の女性に加えクラスメイトな訳だから、いきなり撫で出したらキモくてウザイやつ認定されそうなので止めておく。
「じゃあ、柚希さん。また後で会いましょう。バックはここに置いて行きます。財布とスマホだけは持っていきますね」
僕はズボンに財布とスマホを入れて車の扉を閉める。駆け足で駅前のお店に向った。
お店の中は繁盛しており、子供連れの奥様方から女子中学生女子高生、女子大生と幅広く来店していた。逆に男はほぼおらず、ニヤニヤしていたおじさん達は女子達の冷たい視線で撃退されたようだ。
(はてさて僕はこんな女子達の中を突っ切ってお店の控室に行かなければならないのでしょうか。さすがにハードルが高すぎて脚の長い僕でも乗り越えるのは難しいかと……)
僕がお店の前であたふたしていると背中をバシっと誰かに叩かれた。
「痛っつ! って、またあなたですか!」
「おう、久しぶりだな! こんなところで何をしてるんだよ、早く入ろうぜ!」
僕の背中を叩いたのは以前のアルバイトの時、僕の背中をやたら叩いてくるモデルの男性だった。辺りを見渡す限り、この人以上にカッコいい男性はいない。そのせいか、お店の中にいる女性たちがちょい悪そうな男性の方を見る。そのせいで僕の方にも視線が注がれるわけだが、大半の女性はちょい悪風イケメンの男性を見ていた。まぁ、僕の格好が白のティーシャツに加え、黒いズボン姿と言うあまりにも地味すぎる恰好なのと普通に顔の問題だと思われる。
「さっき、牡丹さんと一緒に入っていったの、お前の彼女だろ。どっちもスタイル抜群で羨ましいぜ! ほらほら、一緒に行くぞ~」
「ちょ、なんか誤解されてる……」
ちょい悪風イケメンの男性は僕の背中を押し、僕の体で女性たちの間を割るように仕向けた。その光景はモーセが海を割った時のようでちょっと興奮したわけだが、僕はただただ盾にされただけなのではと理解する。
お店の控室に行くと、やはり複数のモデルさんとメイクさんが準備をしていた。牡丹さんと野村さん、ダーク系お姉さんこと真理さんが話し合っている。
「ちょり~す、昼食から帰りました~」
ちょい悪風イケメンの男性はすぐにモデルさん達の中に入っていく。
僕は牡丹さんに手招きされ、近寄って行った。
「疋田君、午前中は大変だったみたいだな」
「ま、まぁ。大変でしたね。僕よりも柚希さんの方が大変だったと思いますけど」
「ま、三人が頑張ってくれたおかげで今日の店は大繁盛だ。特別にステージに立たせてやる。服もあるしな」
真理さんは男物の服を手に持っていた。どう考えても用意が良すぎる気がする……。
「初めから僕をファッションショーに出す気でしたか?」
「そうだな~、店に人が来なかったら出さなかったが、これだけ繁盛しているんじゃ、出してやらない訳にもいかないよな~」
真理さんは僕の質問をはぐらかした。絶対に出すつもりだったな、この人。
「ま、今回は人も多いし、それなりに設けに関わってくる話だからな。疋田君は中間層に入れさせてもらう。初めと終わりはベテランにやって盛り上げてもらいたかったが、牡丹がいないとなると野村ちゃんが初手だ。頑張りな」
「しょ、初手……。荷が重すぎるんですけど……」
「大丈夫、大丈夫! 野村ちゃんなら、どんなポーズをしてもエロくて可愛いから、初手にはもってこいだ。ま、今回は髪がブロンズになっている訳だから、清楚系は難しい。でも、令和のギャル系で攻めれば若い子に受けるはずだ。私からの助言はこれくらいかな」
「うぅ……、エロくて可愛いは誉め言葉なんでしょうか……」
「何言ってるの~、最高の誉め言葉でしょ。野村ちゃんの体は最高の原石な訳だよ~。お姉さんが直々に指導してあげたいくらいだけど、今日は柚希を病院に連れて行かなきゃいけないから、周りのプロに助けてもらってね~」
牡丹さんは野村さんの体を舐めるように触り、手つきが変態だった。
「うぅ、が、頑張ります! コンプレックスを何が何でも克服したいので!」
野村さんは顔を真っ赤にしながら意気込んでいた。
「うんうんその意気その意気~。じゃ、これが野村ちゃんの服ね」
牡丹さんが手渡したのは大きな白いブラジャーと下着、薄手のピンク色っぽいオフショルダー。加えて、ひざ丈よりも大分高い黒色のミニスカートとハイヒールだった。
野村さんが服を着ている場面を想像しただけで鼻血が出そうなのだが……。
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