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部活動の勧誘

 僕と大島君は靴を取りに生徒玄関まで来た。


「ぜひ、野球部に来てください!」


「水泳部、部員募集中です!」


「ぜひ、吹奏楽部に!」


 生徒玄関と玄関前では、多くの部活の勧誘が行われていた。


(僕の嫌いな人込みだ……。今すぐに逃げ出したい)


「へ~、こんなにたくさんの部活の勧誘が行われているんだ~」


 大島君はへたくそな演技でこの状況を知らなかったと発言する。


 (大変だ……。僕は、この場にいちゃいけない)と思い、背筋を曲げて少しでも身長を低くする。加えて余った時間に読もうと思っていた本を手提げ鞄から取り出して開き、ダテ眼鏡をかけて運動ができないような雰囲気を出す。


(大島君に気づかれる前にこの場所を乗り切らないと……)


 大島君が勧誘に気を取られているうちに僕は生徒玄関からの脱出を試みる。だが。


「お~と、祐介~。逃げるのは男らしくないぜ」


 大島君は僕の制服の裾を摘まむ。


 もし大島君が女子だったら、僕はキュンとしていたかもしれない。


「大島君。べ、別に僕は逃げてるわけじゃないよ。べ、勉強が忙しいから今日はもう帰ろうかと……」


 嘘じゃない。僕は勉強が結構好きなのだ。


「祐介、俺は悲しいぜ。あんまりやりたくなかったけど仕方がない」


「え、お、大島君ちょっと待っ……」


 僕は大島君の発言を止められず……。


「すみませ~ん! 運動部の勧誘の皆さん! 身長一九二センチメートルの男子高校生はいりませんか!」


 大島君は小さな体のどこから発声しているのかと思うほど、大きな声を出していた。


「お、大島君!」


「身長一九二センチメートルの男子高校生だと!」×運動部の勧誘。


 勧誘たちが大きな足音をドドドドドドドドドッと立てながら僕のもとに一斉に集まってくる。


「君! ぜひとも我がバレー部へ!」


「いや、君には陸上部がふさわしい!」


「何を言っているんだ! 我がバスケ部で全国を目指そう!」


「いやいや、君の身長はサッカー部にこそ相応しい!」


 見かけと声からしてものすごく熱そうな先輩方が僕の周りに集まってきた。


「い、いや、僕は運動があまり得意じゃないので……。お、お先に失礼します」


 僕は運動部の勧誘達から逃げ出した。


「あ、ちょっと待って!」


「ちょっと、待って、って足早!」


「あの身のこなし、ほしい!」


「きっと逸材だ、ぜひとも欲しいな……」


「ふふふ~、祐介、簡単に逃げられると思ったら大間違いだ、地の底まででも追いかけてやるからな~」


 僕は背後から悪寒を感じ、脚をなるべく早く動かして逃げる。


 ☆☆☆☆


「はぁ、はぁ、ここまでこれば追ってこないだろ……」


 僕は、やみくもに走り、今、学校のどこにいるのか分からなくなってしまった。


「ここは、どこなんだろうか……。ん?」


 場所には見覚えがなかったが視界に映っている人には見覚えがあった。


(艶やかな茶髪に低い身長、綺麗に着られている制服。その後ろ姿だけで、誰かわかるなんて結構凄いのでは……。でも、どうしよう。話しかけていいかな。今、自分のいる場所も分からないし、場所を聞くくらいならいいよな)


 僕は女子生徒に近づき、恐る恐る話しかける。


「大原さん、こんなところで何をしてるんですか? えっと、よかったら、ここから生徒玄関までの行き方を教えてくれませんか?」


 僕はなるべく下手に喋る。なんせ、大原さんに嫌われているのだから。


「げ、デカブツ……」


 大原さんは振り返り、僕を見るや否や暴言を吐いた。背の高い人が相当嫌いなようだ。


(デカブツはひどいな……)


「大原さんは何を見ていたんですか?」


「あなたには関係ないです」


 彼女の視線の先には部活動をしている生徒の姿があった。


「あ、ここ体育館だったんだ。ええっと、バスケ部と、バレー部が練習してるんだ……」


「は~、いいな~」


 大原さんは両手を握り合わせ、妖精のような可愛らしい声を出した。


「何がですか?」


「何がって。部活ですよ、部活!」


「やりたいなら、やればいいじゃないですか」


「それはそうなんですけど……、私が運動部できることなんてマネジャーくらいなんです……。バレーをやろうとしても、ネットの上に手を出すこともできない。バスケットボールをやろうとしても、ボールをゴールまで飛ばすこともできない」


「やってみないとわからないと思いますけど……」


「嫌味ですか? やってみなくてもわかります。私には到底できないスポーツなんですよ」


 言葉が出なかった、やりたいことが自由にやることが出来ないのは確かにつらい。運動の世界で身長はどうしても覆せないほどのアドバンテージがある。


「あなたは、部活をしないんですか?」


「ぼ、僕は運動があまり得意じゃないですから……」


「得意じゃないからしたくないんですか?」


「そうですよ……」


 僕は大原さんに心の中を見透かされている気がして視線を逸らす。


「なぁ~、こんなところで何をしているんだよ、祐介~」


「お、大島君!」


 僕の背後から大島君が現れた。いったいいつの間に……。


「いや~、祐介の方から部活動見学にやってきてくれるなんて嬉しいな~」


「い、いや僕は部活を見に来たわけでは……」


 大島君は赤色のゼッケンを着ており、バスケットボールシューズに履き替えて体育館の中に入る。


「なぁ、ちょっとだけ。ポジションにつくだけでもいいからやってみないか!」


「い、いやでも……」


「やってください。やってくれたら、私を名前呼びしてもいいですよ」


「いや、大原さんにそんなことを言われても……」


「ここでやらなかったら、私はあなたのことをデカブツと一生呼び続けます」


「そ、それは嫌ですね……」


「じゃあ、祐介、ゴールの下に立ってくれ。俺が点を決めようとするから、それを阻止してくれ」


「わ、分かったよ」


 僕は内靴と靴下を脱ぎ、裸足になる。その後、バスケットボールのゴールの下に向った。


 到着したら両手を広げて大島君を威圧する。


 部活をしている生徒たちが僕の方を見ているのがわかる。本当に早く出ていきたい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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