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ファッションショーにまたもや出る羽目になった

「はぁ……。あ、すみません。お仕事中に失礼しました」


 長身の女性は僕に頭をまたもや下げ、少女に手を引っ張られながらフェアリーティアラのお店がある方へと走って行った。


「な、何だったんだ……」


 美人姉妹が僕のもとを去ったあと、おじさん達がポケットティッシュをやたら貰いに来た。ポケットティッシュの裏側に掛かれている地図を見てニマニマしながらフェアリーティアラの方に歩いていく。


「つ、通報しておいた方が……。いや、警備員がいるはずだから、心配しなくてもいいか」


 僕がワンオペレーションを三〇分ほど経験したあと、野村さんが戻ってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。お待たせしました。あと、一時間。一緒に頑張りましょう」


「はい。頑張りましょう。こまめな水分補給は怠らないようにしないといけませんね」


「そうですね。熱中症は怖いですから、こまめな水分補給は必須です」


 僕と野村さんはお昼までポケットティッシュを配り続け、お店の宣伝をした。特に問題は起こらず午前一二時を過ぎ、牡丹さんが戻ってくる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ごめんね二人共。柚希が熱中症で倒れそうになったみたいで、心配かけちゃって」


「いや、柚希さんが無事で何よりですよ。でも、病院には一応行った方がいいと思います。点滴でも打ってもらったほうが完治は確実です」


「そうだね。でも、ここから病院に行くとなると結構距離があるから、渋滞にまた飲まれそうなんだよ。走っていける距離じゃないし、午後二時に戻ってこれないかもしれない。私、午後二時のファッションショーにも出る予定になってるから、穴が開いちゃう……」


「あ、あの……。私でよかったら、牡丹さんの代わりに出れませんか? し、下着姿は無理ですけど……、普通の服なら、何とかします」


 野村さんは代役を自ら進んで申し出た。人の目を克服するためか、それとも何かに目覚めたのか……、僕にはわからないが、牡丹さんの表情がパ~っと明るくなる。


「ほんと! ありがとう、野村ちゃん! 今回の私の服は下着じゃないから安心して。ちょっときわどいけど……」


(絶対ちょっとじゃないな。大分きわどい服なんだろうけど、見たい気もする……)


「が、頑張ります」


 野村さんは肝が据わっているのか、怖気づかずに了承した。


「じゃあ、店長にお願いしてくるから、野村ちゃんは着替えたらお店に来てくれる」


「は、はい! わかりました」


 どうやら僕は午後もワンオペレーション確定らしい。まぁ、午前中に結構慣れたからいいけど……。


「疋田君もファッションショーに出るでしょ?」


 牡丹さんはさも当たり前のように質問してきた。


「へ? な、なんで僕まで……」


「何でって……。駅前でポケットティッシュを配るより、服を着て人の前に出た方が楽しいでしょ」


「楽しい楽しくないに拘わらず、モデルがいきなり増えても大丈夫なんですか?」


「問題ない問題ない。言っとくけど一匹の大きな鯉が駅前をうろついてたら怖いだけだって」


 牡丹さんは僕のことを怖いと言った。


(ま、まぁ、怖いかもしれないけど。そんなはっきりと言わなくても……)


「ささ、疋田君も服を着替えてお店に行くよ。その後、今のところ体調が悪くない柚希を病院に連れていくから」


「は、はぁ」


 僕はファッションショーにまたもや出る羽目になった。


(マネキンになるだけだ。マネキンになって服を見せるだけだ。緊張する必要はない)


 僕は頭の中で何度もマネキンを想像し、無心になる。牡丹さんの車に到着し、服を着替えようとしたのだが……。


「疋田君はまだ入らないでください。野村さんが先です」


「わ、わかりました……」


 僕は少々むくれ顔の柚希さんに車から追い出された。


「うわぁ、下着までぐっしょりです……。こんなに汗をかいていたなんて、ちょっと恥ずかしいですね」


「下着を持ってくればよかったですね。わ、私のじゃはいらないと思いますけど……」


「なら、私の下着を使う? 新品じゃないけど」


「は、はい。貸してください。こんなに濡れていたら風邪をひきそうです」


「うわっ! やっぱり野村ちゃんのおっぱいは綺麗でおっきいね~。しっとりしててモチモチじゃん~」


「ひゃっ! ぼ、牡丹さん。いきなり何するんですか!」


「うんうん~、この揉み応え、いいねぇ~、そそるね~。これだけ綺麗形と大きさなら下着だけじゃなくて水着も行けちゃうね~」


「もう! お姉ちゃん、触りすぎだよ! 野村さんが嫌がってるでしょ!」


「柚希は胸がなさすぎて内シャツで十分だもんね~。もしかすると、男の子用の水着を着て髪を短くすれば女の子だって他の人に気付かれないかもよ~」


「ふぐぐ……。言わせておけば……。わ、私だっておっぱいあるんだからね!」


 車の中でいったい何が行われているのか容易に想像できるせいで僕の下半身が熱中症になりかけている。


(えっとトイレに行きたくなってきたんですけど……。僕はどうしたらいいんだ……)


 一〇分ほどして車の扉が開いた。


「疋田君、着替えてもいいですよ。でも、背が高いですから、外で着替えた方が……」


「えっと……、僕の下着もビチャビチャなんですが……」


「…………えっと女の子用の下着でも履きますか?」


 柚希さんはなぜか顔を赤くして答えた。恥ずかしいなら言わなければいいのに。


「履きませんよ!」


 侮るなかれ、僕はこういうこともあろうかと替えのシャツと下着を持ってきていたのだ。まぁ、帰る時に濡れているのが嫌だったから持ってきていただけなんだけど。


 僕は車の中に入り、リュックの中をガサゴソと探す。シャツとパンツを見つけてささっと着替えた。ぐっしょり濡れた下着はビニール袋に入れてバックの中にしまう。ズボンと半袖の服を着て上着を羽織ろうと思ったのだが、上着が見つからない。


「あ、そうか。柚希さんの体に掛けた時に使ったんだ」


 僕は車の扉を開け、外にいる柚希さんに声を掛ける。


「柚希さん。僕の上着……。って、普通に着てるし……」


「えっとごめんなさい。着てみたら心地良くて……。私の汗もついちゃってるわけですし、後日洗ってゴールデンウィークが終わった後に返してもいいですか?」


 柚希さんが僕の上着を着ていた。あまりに大きさがあっていない訳だが、なぜか心が擽られる。お化けのように垂れている袖に、下半身に掛かっている服の裾、子どもっぽいがゆえに男物の服を着ているというその光景が……かわゆい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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