帰国子女のような方
「ん? うわ、デカ……」
男達は僕の方を見て驚く。見たところ一七○から、一七五センチメートルくらいの方達だった。
「あ、来た来た! 私の彼氏です! じゃ、じゃあ。すみません。今からデートなので!」
「ちぇっ! 本当にいたのかよ」
男達は次なる標的を探すため、ブロンド髪の女性のもとを去って行った。
「もう! 遅いですよ! 疋田君! 見つけたのなら早く助けてください!」
「へ? えっと、なんで僕の名前……」
「え? クラスメイトの顔を三日で忘れるなんて疋田君は酷いですね」
女性はブロンズの髪を束ね、ポニーテールにしてみせてきた。
「ん……。あ、眼鏡を外した野村さんですか……」
「そうです。まさか、髪色を変えただけで気づかれないとは思いませんでした」
野村さんは頬を膨らませ、少々怒っていた。
「す、すみません。あまりにも綺麗な人だったので、帰国子女のモデルの方か女優さんかと思っていました……」
「さ、流石にそれは言い過ぎですよ……」
野村さんは頬を赤くして照れていた。嘘ではなく本当なのだが、本人は自分が可愛いと思っていないらしい。
「でも、なんで黒髪がブロンドになっているんですか? 部活に影響がじゃ……」
「この髪は鬘です。印象を変えないと知り合いに気づかれそうで怖かったんですよ」
「そうなんですか……。でも、ブロンドの髪も野村さんによく似合いますね。すごく素敵ですよ。髪の色が白色のワンピースと波長が合っています」
野村さんは以前、真理さんにいただいた衣装を着ていた。あの時も似合っていたが、今回も凄く似合っている。普通に写真集が出ていてもおかしくないくらい綺麗だ。
「えっと、待ち合わせ時間の午前八時まであと五分ですけど、僕達意外の人はいったいどこにいるんでしょうか」
「今回は私と疋田君、柚希さんの三人で呼子をするだけみたいですよ。他の人は駅前のお店で以前みたいな小さなファッションショーをするようです」
「じゃあ、後は柚希さんだけなんですね」
僕と野村さんはベンチに腰を下ろしながら柚希さんを待った。
ベンチで座っていると、ズボンに入れておいたスマホが震える。僕は手に取って誰からの着信か確認した。
「ん? 柚希さんからの着信だ」
僕は液晶画面を操作して会話が出来るようにする。
「はい、疋田ですけど。柚希さん、どうかしましたか?」
「ご、ごめんなさい! 今、お姉ちゃんに車を出してもらっているんですけど、朝から凄い渋滞で午前八時に間に合いそうにないんです。お店の開店が九時からなので、それには何とか間に合わせますから、一時間、どこかで暇をつぶしておいてくれませんか」
「そうですか。わかりました」
僕は駅前まで自転車で来た。そのため、渋滞には巻き込まれず、難なく到着できた。
(確かに駅に来る途中、車がすごい渋滞していたもんな。遅れるのも仕方ないか)
「柚希さんは何て言っていたんですか?」
電話の内容が気になったのか、野村さんは僕に話しかけてきた。
「柚希さん達が渋滞に捕まってしまったようです。午前九時までには間に合わせると言っていたので、一時間、暇をつぶしていてくださいだそうです」
「なるほど……。じゃあ、朝の喫茶店にでも行きますか」
野村さんはすっと立ち上がる。
僕はベンチに引いたハンカチを折りたたんでポケットに入れた。
「ここら辺でコーヒーとパンケーキが美味しい喫茶店を知っているので、一緒に行きましょう」
野村さんは僕の手を取り、歩き出した。
(野村さんが手をいきなり握ってきたんだが……。全然嫌じゃないけど、以前の恥じらいがない。周りの視線を気にしてないのかな)
「野村さん、今回は緊張してないみたいですね」
「今回は服が完璧ですし、髪がいつもと全然違うので学校の私とは別人になるのもおかしくないですよね」
「そう言うものなんですか……。女子高生ってすごいですね」
「そう言うものなんですよ。女子高生はすごいんです!」
野村さんは清楚系なのに、ギャルっぽい笑顔をした。口角を上げてニシシと笑う感じだ。いつもとのギャップが大きいからか、ギャルっぽい彼女も悪くないなと思ってしまう。
「疋田君も前の時みたいにピシッと決めてこればよかったんですよ。そうすれば気分が上がるはずです」
「ぼ、僕は衣装で変われるほど神経が図太くないので……」
「む~。そうなると、私の神経が図太いと言っているようじゃないですか。私は繊細で乙女の女子高生なんですよ。少し傷つきました」
野村さんは頬を膨らませ、僕から視線を逸らす。可愛いが、なんか怖い。
「は、はは……」
僕と野村さんは喫茶店に入店した。黒を基調とする外装と店の前にあるプランターには白っぽい花が綺麗に咲いていた。
お店の中は朝八時から満席一歩手前で、人気店だった。
僕と野村さんは二人席に案内され、椅子に座る。
僕はこういう大人びた場所に入ること事態久しぶりと言うか、もしかしたら初めてかもしれない。無駄にキョロキョロしてあたふたしていた。
「疋田君はこういうところに来るのが初めてですか?」
「え、また顔に出ていましたか?」
「ばっちり出てましたよ。外の世界を知らない室内犬が大きなお店に初めて入ったみたいな顔をしてます」
「室内犬って……」
野村さんの言葉が心に刺さる。確かに室内犬みたいなところはあるかもしれない。彼女の表情を見る限り、わざとではなく本心で話しているようなので嫌味はない。
「でもこのお店、すごく落ち着いている雰囲気ですね。年配の方が多いからですかね。野村さんはよく来るんですか?」
「はい。よくきますよ。土日のどちらかは必ず来ています」
「えぇ、そんなに。この喫茶店が本当に好きなんですね」
「はい。なんせ、私のお爺ちゃんが経営している喫茶店ですからね」
「え……?」
『いらっしゃいませ、お客様……、こちらお冷です』
僕の横から、元軍人かと思うほどガタイの良い、イケオジがいた。
白いカッターシャツに黒のズボン、深緑のエプロンをかけており、雰囲気から喫茶店のマスターだとわかった。
物凄い威圧感のある声で重圧によって体が押しつぶされそうだ。手の指が一本一本ごつく、きっとリンゴなら片手の握力だけで簡単に割れてしまうだろう。
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