自己紹介
僕達は体育館を出て教室まで戻っていた。教室までの道のりは、やはり遠く感じる。
「ふ~やっと教室か。体育館から結構遠いな」
「はぁ、はぁ、はぁ……。そうですね」
「まあ、そのうち慣れるんじゃないかな」
僕達は教室に入り、各自の椅子に着席した。すると、教室の前の入り口から先ほど大原さんに話しかけていた美人な先生が入ってきた。そのまま、教卓の前に立ち、話始める。
「それでは第一回目のホームルームを始めます。私の名前は村中みどりといいます。担当の教科は国語です。皆さんとの学校生活を楽しみにしていました。勉強に部活に青春、たった一度の高校生活をサポートするのが私の仕事です。困ったことがあったら気にせずに相談してください。どんな話でも聞きますよ」
(この先生、結構良い先生なのでは)というのが僕の印象だった。
僕が中学三年だったころの担任の先生が挨拶をした時なんて「今日からあなたたちの担任になりました水原です。よろしくお願いします」これだけだった。授業も分かりにくいし、困ったとき「あ~それは私の仕事じゃないから」なんて言ってきた。それに比べたら村中先生は信頼できそうだ。
「では、皆にも自己紹介をしてもらいましょうか。自分の名前、好きな教科、趣味、これから頑張っていきたいことなど自由に喋ってください。では、出席番号一番の赤尾さんから」
村中先生は左手を教室の右斜め前にいる男子生徒に向けた。すると、指定された男子は立ち上がり、話始める。
「は、はい。名前は赤尾真といいます。好きな教科は国語です。趣味は本を読むこと、これから頑張っていきたいことは一年で本を三○○冊読むことです」
「三○○冊! いいですね。面白い本があったら先生に教えてくださいね」
「は、はい」
「それでは、出席番号二番の大島君よろしくお願いします」
赤尾君は着席し、大島君は椅子から立ち上がった。
「はい! 俺の名前は大島茂雄と言います。俺を呼ぶときは大島でも茂雄でも、好きな呼び方で話しかけてください。好きな教科は体育、趣味はバスケットボールをすることです。これから頑張っていきたいことは、好きなバスケを滅茶苦茶上手くなりたいです。一年間よろしくお願いします」
「バスケットボールが好きなんですか……。私は運動が苦手だから、羨ましいです」
「こんど、俺が手取り足取り教えてあげますよ」
「ふふ、ありがとうございます。それじゃ出席番号三番の大原さん、お願いします」
大島君は着席し、大島さんは椅子立ち上がる。
「は、はい。大原柚希といいます。好きな教科は音楽で趣味は人を助けることと運動すること、楽器を弾くこと、本を読むこと、ドラマを見ること、それと服のデザインを考えることが好きです。嫌いな人は身長を自慢する人。これから頑張っていきたいことは自分の好きなことをもっと好きになれるように努力することです」
「ありがとうございます。大原さんには好きなことがいっぱいあるのね。すごく羨ましい」
大原さんの後も、クラスメイトの自己紹介が続いていき、ついに僕の番になった。
「では出席番号二四番の疋田君。お願いします」
「は、はい。ぼ、僕の名前は疋田祐介といいます。好きな教科は英語です。好きなことは動物を眺めること、嫌いなことは運動です。よろしくお願いします」
僕は椅子から立ち上がり、背中を出来るだけ丸めて自己紹介をする。
「へ~、疋田君は運動が嫌いなんですか。身長が高いのにもったいないですね。ところで今は何センチメートルあるんですか?」
「え、ええっと……一八八センチメートルです」
「え~高校一年生で一八八センチメートルは大きいですね。私が担任してきた中で一番大きいかもしれません」
「はは、そ、そうですか」
(嘘です。村中先生。実は一九二センチメートルなんです。四センチメートルも低く言ってしまいました。すみません……)
僕の後も自己紹介が続き、三○番目である落城さんの番が終わる。
「では皆さん、今日のホームルームはここまでです。この後は自由にしてもらって構いません。家に帰宅するのもよし、部活見学に行くのもよし、クラスメイトと仲良くなるのもよし。では解散にします、お疲れさまでした」
村中先生は頭を下げ、教室を出て行った。
☆☆☆☆
一回目のホームルームが終わり、僕は昼食用に持ってきた菓子パンを食べてお腹を満たす。学校に残っていても用事はないが、家に帰っても勉強くらいしかする趣味がないので昼だけでも教室に滞在して暇をつぶしている。
クラスメイトも、午後から学校で予定がある者は弁当やパンを食べ、予定がない者はすでに帰宅していた。
(はぁ、一日目がやっと終わった。初日はやっぱり緊張するな。僕は自己紹介がちゃんとできていただろうか……)
僕は菓子パンを食べ終わり、机にベターっとへたり込んだ。ホームルームの自己紹介の時に吃音気味になってしまったのが今さら恥ずかしくなったのだ。
「お~い、祐介!」
大島君が僕のもとにまで駆け寄ってきた。
「大島君、どうしたの?」
「この後、どうせ暇だろ。部活動見学に俺と一緒に行こうぜ!」
「た、確かに暇だけど、部活動見学はちょっと……。さっきも言ったでしょ。僕は運動が嫌いなんだって」
「嘘だね。この前、祐介は妹ちゃんと楽しそうにバレーしてるのを俺は知ってんだからな。というか、お前の妹ちゃん、まじかわいいよな。こんど俺に紹介してくれよ」
大島君は鼻の舌を伸ばし、猿のような顔になって頼んでくる。
「ど、どうしてそのことを……。あと、妹を大島君に紹介するのは絶対に嫌だ」
「ちぇ~。ま、妹ちゃんの話は置いておいて。人の視線にもそろそろ慣れたらどうだよ。高い身長を使うスポーツをすれば周りも背の高い人が多いから、自分の背の高さが少し和らぐんじゃないかって、俺が何回も言ってるじゃんか」
「で、でも……」
「いいから、来いって! 部活を見るだけでもいいからさ!」
大島君は僕の腕を掴む。
「わ、分かったよ……」
(大島君は押しがやっぱり強いな。押しの弱い僕にはどうしても言い返せない……)
「なあ、柚希も部活動見学に一緒に行かない?」
(な、大島君。どうして大原さんを誘うんだよ。僕は大原さんに嫌われているのに……)
「誘ってくれてありがとうございます。でも、私は自分で回るので、結構です」
「そう、分かった。何かいい部活があったら教えて」
「了解で~す」
大原さんは一人で教室を飛び出していった。
「柚希は元気な子だね~」
大島君は孫を見つめるお爺ちゃんのような眼をしている。
「はは、確かにね……」
僕達は手提げ袋を持って教室を出る。そのまま学校の廊下を歩き、一階へと向かった。
「大島君は入る部活をもう決めたの?」
「ああ、俺はもちろんバスケ部に入る」
大島君は全く迷わず部活の名をはっきりと言った。
「バスケ部って、入る部活をもう決めてるじゃないか! それならわざわざ見学なんてしなくても」
「ま~いいじゃないか~。中学のときは三年間ほぼ帰宅部だった祐介に高校では部活で青春してもらいたいわけよ~」
大島君は右手の親指と人差し指をくっ付けて輪を作り、左手の人差し指を輪の中に入れ、ぬこぬこする……。
「余計なお世話だよ!」
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