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電話が無いと少し寂しい

 授業の復習を一五分で終わらせた僕はゴールデンウィークの宿題をやっていると午後一〇時過ぎに柚希さんからメッセージがとどいた。


『今日は野村さんとお話します。今日、野村さんにアルバイトの件を説明していた時に不眠症の相談をしたら、大きな胸に顔を挟まれながらムギュっと抱き着かれて『全然良いよ』と言ってくれたので、疋田君は私のことを気にせずに寝てください』


「あ……、そうなんだ……」


(何でだろう、露骨に落ち込んでいる自分がいる……。って、別にいいじゃないか。柚希さんが喋りたい人と喋ればいいんだ。僕は補欠(サブ)なんだ。うん。別にサブでもいい。たまに話せるくらいでちょうどいいんだよ……)


 僕はスマホを掛布団が凹むくらい強めに投げ、机の上に広がっている英語の単語帳に意識を向ける。


 赤シートで英単語を隠し、一〇○○単語を口に出しながらサササッと覚えていく。もちろん一回では覚えられないので、二回、三回と繰り返し行い、何となく覚えた。すぐに数学の問題に変え、一日の範囲を終わらせたのち、もう一度さっき覚えた英単語を見て復習する。


 今日の夜は勉強がすごく捗った。捗ったけど……、少々虚しい。


「兄貴~、勉強を教えてぇ~」


 僕が英単語の復習をしている時に扉が開き、ゾンビのように肌がこけている未来がノートと問題集を持って僕の部屋にやってきた。


「良いよ。勉強を丁度終わろうと思ってたところだし」


「あれあれ? 今日は電話をしていないんだね。もしかして振られちゃった~?」


 未来はなぜか嬉しそうで、ニタニタと笑う。僕の顔に概要でも書いてあるのかと思ってしまうくらい完璧に当てられる。ほんと、超能力者みたいだ。


「そんな戯言を、教えを乞う相手に発するなら、勉強を教えてやらないよ」


「ちょ、ちょちょ。ごめんなさい、可愛い可愛い妹を助けてよ~兄貴~」


 未来はお風呂の時と同じように手のひらを返し、僕にゴマを擦ってくる。


 僕はベッドの下からローテーブルを出し、床に置いた。


「はい。問題を見せて。ちゃっちゃとわかるようにしちゃおう」


「は~い。兄貴はやっぱり頼りになるな~。おっぱいでも揉む~?」


「揉まないよ」


 未来は僕にくっ付いてローテーブルに問題集とノートを広げた。


(僕は未来と向かい合うようにローテーブルを置いたつもりなのに、なぜ横並びなんだ)


「えっとねえっとね……、ここがわからないの」


 未来は数学の問題を持ってきた。


 僕は答えを見てもわからなかったのかと聞くと、未来はわからないと言った。なら仕方ないと思い、自分で問題を解いてみる。

 

 中学一年生にしては難しい問題を出すんだなと思うくらいの文章問題で頭を結構捻らないと解けなかった。だが、毎日勉強している僕を舐めるなよと言いたいくらいに答えを導き出し、重要な点を未来に教える。


「あ、なるほど! そこでこの公式を使えば良いんだ。ありがとう、兄貴! ずっと考えていた問題が解けてすっきりしたよ!」


「それなら良かった。後は自分で解ける?」


「まだ全部終わってないからわからないけど、自分で一回解いてみる。わからなかったら兄貴にもう一回聞きに来るよ」


「わかった。未来にしては勉強を頑張っているみたいだね」


「だって兄貴が『中学からはしっかりと勉強しないと良い点が取れない』って言ってたでしょ。私は部活だけじゃなくて勉強も妥協したくないの。だから、やれるだけ頑張るよ!」


 未来の良い所は頑張り屋なところだ。少々根を詰めすぎる時もあるが、頑張らない子より断然いい。行き詰ると僕に助けを求めてこれるだけ物腰が柔らかいから、弱みだって嫌というほど見せてくる。


 僕は未来の性格が好きだ。何にでも頑張れてしまうのも一種の才能だと思う。僕自身、部活を頑張ると言う行為を諦めた。だから未来はすごい。


 例え未来がくじけても、僕は妹を咎めたりしない。ここまでよく頑張ったと言って褒めてやるのだ。


「よく頑張ってるね。未来はすごいよ。僕も未来を見習わないといけないな」


 僕は未来の頭に左手を置き、撫でながら褒めた。


「あ、ありがとう……。そんな誉められるとは思ってなかった……」


 未来は頬を赤らめて僕から視線を逸らすと、僕にギュッと抱き着いて数秒たったのち、ノートと問題集を持って僕の部屋を出て行った。


「頑張れ、未来。でも、妹に頼られて嬉しい僕は重度のシスコンなんだろうな……」


 僕はローテーブルをベッドの下に戻し、先ほど覚えた英単語をもう一度復習する。


 今の僕の目標は英語検定準二級を取ることだ。その後は二級。出来れば高校三年生までに準一級を取りたい。特に理由は無いが、勉強のモチベーション維持のためだ。


 数学検定や漢字検定なども面白いがやっぱり一番好きな英語の検定試験を受けたい。今のところ全て三級を取れているので、次は準二級だ。焦らずじっくりと煮詰めるように勉強していけばきっと取れる。諦めなず、続けることが大切だと、いつも自分に言い聞かせていた。


 僕が英単語の最後の見直しをしていたころ……。


 ベッドの上でスマホが震えていた。


「ん? なんだろう」


 僕は椅子から立ち上がり、スマホを取って内容を確認する。野村さんからのメッセージだった。


『夜遅くにすみません。少し気になったので赤尾君と仲が良さそうな疋田君に聞きたいんですけど、赤尾君がなぜ陸上部に入ったのか、理由を知りませんか?』


「赤尾君が陸上部に入った理由……。走る楽しさを知ったからなんじゃないのかな。えっと……赤尾君の許可なしで教えてもいいのかな」


 僕は一昨日に赤尾君と話した内容を野村さんに伝えることにした。でも、なぜ野村さんは赤尾君が陸上部に入った理由が知りたいんだろうか。


 質問が気になった僕は野村さんに一応聞いてみる。


「野村さんがなぜ赤尾君の入部理由を知りたいんですか?」


『いや、その……。失礼ですけど赤尾君が陸上部に入るなんて思ってもいなかったので……。高篠高校の陸上部は県内でも強豪なんです。どう考えても赤尾君が付いてこれるような練習量じゃないんですけど、歯を食いしばって頑張ってるんですよ。今日も最後まで残って走ってましたし、何が理由でふらふらになるまで頑張るのかと思いまして。部活内でもいびられているようですし、いたたまれなくて』


 僕は野村さんの心境を察し、赤尾君の言っていたことを僕なりにかみ砕いて伝える。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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