はいってくる気満々
僕が瞑想をしながらお風呂に入っていると脱衣所の方から声が聞こえた。
「兄貴、私もお風呂に入っていい?」
「今日は駄目だよ。今、僕は一人でお風呂に入っていたい気分なんだ」
「えぇ、服をもう全部脱いじゃったよ。このままじゃ寒いから入るね~」
「はぁ……。もう、入る気満々じゃないか……」
未来はお風呂場の扉を開け、タオルを肩に掛けながら入ってきた。
「いや、体の前を隠せよ」と言いたかったが、未来が突っ込ませる気満々の表情をしているので、僕はあえて突っ込まない。
未来は風呂椅子に座り、体を先に洗いだした。髪、顔、体の順で洗っていき、お風呂に入る。
「次は兄貴の番だよ~。体はしっかりと洗わないと駄目だからね~」
「わかってるよ……」
僕はタオルで前側を隠しながら立ち上がると、未来が「女々しいな~、別にそんなところ、私は見てないよ~、誰が兄貴の見たがるんだよ~」と、いじってくる。
僕は未来の発言を気にせず、前側を隠しながら風呂椅子に座り、髪、顔、体の順で洗う。
「未来、そんなに笑ってると気味が悪いよ。何でそんなにニコニコしているの?」
「いや、別に~。特に理由はないよ~」
未来は浴槽の縁に両腕を組むように乗せ、顎を置き、ニコニコと笑っている。
僕は体を洗い終え、体を温め直すためにお風呂のお湯に浸かる。
「今日は何で入ってきたの?」
「何でって、兄貴と一緒にお風呂に入りたかったからだけど。それ以外に理由がいるの?」
「理由はいらないけど、もう少し距離感をだな……」
「え~なになに、もっと近づいてもいいの~。なら、近づいちゃお~」
未来は僕に背を向けて股に入ってきた。
濡れた髪が顔に当たるくらいにまで近づかれ、僕は簡単に動けなくなる。
「はぁ、今日も甘々モードだけど最近多くない?」
「べ、別に普通だよ。私はまだ中学生一年生だし、これくらい普通だって~」
「そうなのかな……」
僕は未来の肩に手を乗せて揉む。バレーのレシーブやトス、アタックによって肩はとても疲弊する部分だ。
未来は女子の中でも身長が高い方なのできっとレギュラー候補に入ってくるだろう。体を酷使しているに違いない。
未来が甘々になっているのは疲れを癒すためだと考えて僕は妹の体の緊張を解す。
「兄貴の手、すごく気持ちいいよ。私の気持ちいい所……、ちゃんと知ってるんだぁ」
「そりゃあ、知っているよ。僕もバレーを少しやっていたからね。ほら、ここが気持ちいんでしょ」
僕は未来の肩甲骨回りを指圧していく。ツボを親指の腹で的確に押していった。
「んんんんっ! す、すごいぃ……、背中の凝り固まった筋肉に血液が、どくどく流れちゃってる。私の体、兄貴にいっぱい解されちゃってるよぉ~」
「未来、もう少し声を押さえられないの? 父さんと母さんに聞こえちゃうよ」
「えぇ? 別にやましいことをしているわけじゃないのに、なんで声を押さえないといけないの? あれれ~、兄貴。もしかして私の声で興奮しちゃった~」
未来は僕の方を振り向き、ニタニタした表情で見てきた。憎たらしいくらい可愛いのだが、断じて興奮などしてない。逆になんで今の状況でそんな発想になるんだ。
「そんな戯言をほざくなら、もう、揉んであげないよ」
「う、嘘嘘。冗談。冗談だよ~。私、今、肩が滅茶苦茶凝っていてすごく痛いの。兄貴にもっと揉んでもらわないと、明日の部活に行けないよ~」
未来は手のひらを返したようにしおらしくなり、上目遣いでお願いしてくる。
「はぁ……。仕方ないな」
僕は未来の肩甲骨回りの筋肉を剥がしていく。筋膜リリースと言われている方法で、筋肉の凝りや張りを解消できる。肩甲骨を少し浮かせて優しく外側に持っていく。
「うわぁ……。ほぐれるぅ……」
肩甲骨回りを揉み込み、筋膜リリースも行った。これで血行が良くなり体の中に溜まっていた老廃物も流れ、疲れもとれるはずだ。
「これでよし。未来の背中の張りが取れた。明日も部活を頑張るんだよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ありがとう、兄貴……。お礼と言っちゃなんだけど、私のそこはかとなく大きくて柔らかいおっぱいでも揉む?」
未来は突起を両手で隠し、下乳を僕に見せながら聞いてくる。
「揉まないよ」
未来の行いはどう考えても痴女のやる行為なので、僕は妹の広いおでこに『デシッ!』と言う効果音が鳴りそうなほど強めにデコピンを食らわせて断る。
「いたっ!」
「今日はここまで。もう午後九時過ぎだし、お風呂からさっさと出て寝る準備をしないと」
「ぶぅ~、どうせ今日もロリっ子同級生と長電話する癖に……。そんなに早く電話したいの? 可愛い可愛い妹を差し置いてさ~。いいな、いいな~、私がもっとロリっ子だったら兄貴に構ってもらえたのかな~」
未来は頬を膨らませて怒り口調で問いかけてきた。どう考えても見透かされている。
「う……。べ、別に楽しみな訳じゃないよ。同級生が最近はよく眠れるようになってきたって言うから……。話合って眠気を誘う作戦は効果があるらしいんだ」
「騙されてるんじゃないの……」
「ゆ、柚希さんは人を騙したりしないよ。何でも真剣に取り組んでる人なんだ。真面目な人ほど嘘をつくなんて行動を取るわけない」
「はぁ~、兄貴はわかってないね~。女は利益のためならなんにでも嘘をつくんだよ~。ま、私は嘘をつかないけどね~」
「じゃあ、未来は男ってことかな?」
「ぐぬぅ~……」
未来は僕の右足の小指を摘まみ、変な方向に動かす。
「痛たたたっ! ご、ごめんごめん。ちょっとからかっただけだよ」
僕は未来よりもお風呂を一足先に出て体を拭き、服を着る。
居間でコップ一杯の水を飲み、妹がパジャマを着たのを確認したあと、脱衣所にある洗面台の前で歯を磨いてトイレを済ませてから、自室に向った。
現在の時刻は午後九時二○分。ゴールデンウィークの宿題がたんまりあるので、さっさと終わらせたい。
僕は今日の授業の復習をさっと終わらせてからゴールデンウィークの宿題に取り掛かる。
宿題は数学の練習問題や英語の単語暗記など、基礎的な問題から応用問題まで範囲が結構広い。計画を立てて行わないと絶対に終わらない量だ。進学校と言うだけのことはある。
まぁ、量をこなせば勉強が出来るという訳でもないけど、勉強はやらないとわからるようにならない。それだけは確かだ。
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