鈍感な男
「家で飼っている猫が私にだけ懐いていないんですよ、たまに返ってくるお姉ちゃんにはなついているのに、おかしいと思いませんか?」
「ハハハ、それは可愛そうですね。柚希さんは猫に好かれそうな雰囲気をしているのに嫌われているなんて、ちょっと意外です」
「むぅ……、そんな笑わないでくださいよ。私も猫と仲良くなりたいんですけど、いつも威嚇されるんです。猫のおやつとかあげているんですけどね」
「いつか懐いてくれるといいですね。僕は動物を飼った覚えがないので、ペットが家にいるなんてどんな雰囲気なのかわかりませんけど、きっと楽しいんでしょうね」
ラインのアプリに空中を跳躍している綺麗な白猫が映っている写真が『ピコンッ』と送られてきた。
「家の猫、空を飛ぶんですよ。私の頭を踏み台にして別の場所に行くんです」
僕は文章と写真を掛け合わせ、脳内で光景を想像すると噴出して笑った。
「ふっ……、想像するだけで面白いです。家の中で猫が飛びかっているなんて、しっちゃかめっちゃかになりそうですね」
「ほんとにそうなんですよ。猫が元気過ぎて困っちゃいます。ふわぁ~あ。ん……、眠くなってきました……。今日もぐっすり眠れそうです。今日はこのくらいにしましょうか」
「そうですね、柚希さんがぐっすり眠れそうだというのなら僕は構いませんよ」
「今日も話を聞いてくれてありがとうございました。じゃあ明日は学校で合いましょうね」
「はい。また学校で……」
柚希さんとのライン電話が切れた。時計を見ると午後一一時。どうやら一時間ほど喋っていたらしい。僕にも長電話の才能があったのだろうか。いや、ただ単に柚希さんと話していて楽しかっただけだ。楽しい時間ほどあっという間に過ぎてしまう。勉強をしている一時間は結構長く感じるけど、柚希さんとの会話していた一時間は一瞬だった。
「はぁ……、楽しかったな。明日も電話して来てくれるのかな」
僕は柚希さんとお話が出来て楽しいと言う満足感と、役にたっているんだと言う自尊心が合わさり、二つの高揚感で満たされていた。自分の存在価値が生まれたような……、もっと力になりたいと言った気持ちになってくる。
僕がいい気分になっていたら部屋の扉が『ガチャ……』と開き、未来が中に入ってきた。少々むくれており、長い間待っていたと言いたげな表情をしている。
「ん? 未来、こんな時間にどうしたの?」
「兄貴は一時間も誰と話してたの……」
「誰って……、ただのクラスメイトだよ」
「ただのクラスメイトと、一時間も電話をするってどういう関係なの?」
「お、男友達だよ。ちょっと相談に乗っていただけだから気にしないで……」
僕は未来に嘘をついた。
「兄貴の嘘つき、兄貴は顔に出やすいからすぐに嘘だってわかるよ。で、誰なの?」
「く、クラスが同じ女子生徒だよ……」
「へ、へぇ~。そ、そ、そ~なんだ~。ふぅ~ん。クラスが同じ女子生徒と一時間も電話できるなんて兄貴にしてはやるじゃん」
未来は動揺し、眼が泳ぎまくっていた。どれだけ僕が女子と関係を持っていないと思われているかがうかがえる。
「じゃ、じゃあ。電話をしていた人がデートした人なの?」
「黙秘……」
僕は両手で顔を隠しながらつぶやいた。
「あ、ずるい。兄貴は黙秘なんて使っちゃだめでしょ。妹の私は兄貴の高校生活を知る権利があるの。包み隠さず話してよ~」
「黙秘……」
「むぅ……」
未来は頬を膨らませて、怒っている。妹だからと言って兄の生活の全てを教えるわけにはいかないのだ。僕だって未来の生活の全てを知る権利はない。
「未来、無駄に詮索すると友達に嫌われるよ」
「知りたいのは兄貴の生活だけだもん。他の人の生活とかどうでもいいの。私の兄貴に相応しい人じゃなきゃ彼女にしちゃ駄目なんだからね!」
「な……。彼女なんて出来る訳ないじゃないか。未来は考えすぎだよ」
「興味もない相手と一時間も話したりしないでしょ。どう考えても兄貴に興味がある証拠じゃん! 兄貴は鈍感すぎでしょ!」
「い、いや。興味とか、そんなんじゃないって。不眠症で寝られないから話に付き合ってほしいって言われてるだけだよ。それ以外でも以下でもない」
「はぁ……、不眠症が本当か嘘かはわからないけど、普通は一時間も話しこまないよ。自分の弱みを見せている訳だから、兄貴が信頼のおける人だって思われてる。電話の相手、兄貴なら落とせるよ」
「な、何言ってるんだよ、未来。やり手の男みたいな言い方はやめなさい……」
「だって事実だもん。兄貴に興味があるのは確実。ま、優しい優しい兄貴のことだから、全部本当のことだと思って真剣に聞いてあげてるんだろうけど、女の話は半分以上嘘だから。私は兄貴に対して嘘なんてついてないけど、電話の相手はどうかな……」
「嘘はついてないと思うけどな……」
「ふ~ん。兄貴は電話の相手が好きなの?」
「いや、特段好きってわけじゃないけど、子供っぽいから助けてあげたくなるんだよね」
「兄貴、ロリコンだったの……」
「何でそうなるんだよ……。まぁ、確かに小学生みたいな見た目をしてるけどさ。列記とした高校生だよ」
「まぁ、男は助けてほしいの~とか、君にしか頼めないの~って言葉に弱いからね。そう言うのを連発している人種をぶりっ子って言うんだよ。ぶりっ子は男子の好きな女を演じている高度な技術を持っている。兄貴、騙されないでね」
「よ、よけいなお世話だよ」
(柚希さんは特にぶりっ子のような性格はしていない。どちらかと言えばサバサバしている。確かにぶりっ子は可愛いけど、相手にするのは面倒臭そうだから、ごめんだな)
「ありがとう未来。色々教えてくれて。でも、僕のことは気にしなくてもいいよ。未来は自分のことを考えて。まぁ、僕も未来がどんな人と付き合あうかはすごく気になるけど、出来るだけ口を出さないようにする。一応聞くけど、どんな人がタイプなの?」
「え……、そ、そうだな~。私より背が高くて、もの凄く優しくて妹思いで勉強が出来て一緒にいて楽しくて安心出来てカッコいい年上の人かな~」
「えっと未来……、流石に理想が高すぎないかな?」
「兄貴の馬鹿……。鈍感ムッツリスケベ……」
未来は捨て台詞を吐き、僕の部屋を出て行った。いったい何しに来たんだ。
僕も眠くなってきたのでスマホを勉強机に置き、ベッドに寝転がる。目を瞑ると日曜日が終わり、月曜日がやってくる。
ゴールデンウィークに突入しているわけだが、出来るのなら月曜日と火曜日も祝日にしてほしい。九日間丸まる休みと言うゴッドゴールデンウィークにしてほしい……。
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