妹とお風呂
「まさか、赤尾君と気が合うとは……。友達になれないかな。もっといろいろ話したい。って、僕も早く帰らないと」
僕は暗い夜道を走って家に帰った。玄関を開けると、未来がむくれて立っている。
「むぅ~。兄貴、遅い。こんな時間まで走っていたの?」
「走っていたよ。自然公園で知り合いと会ってさ。長話をしてたら三○分くらいたってた」
「ふぅ~ん。女子?」
「男子だよ。気が合って話し込んじゃったんだ」
「兄貴と気が合う男子がいたんだね。根暗でムッツリスケベの兄貴とさ~」
「な、未来まで……。はぁ、体調はもういいの?」
「まだお腹がちょっと痛いけど、兄貴のおかげで大分よくなったよ。ありがとう、兄貴」
未来は後頭部で腕を組み、笑顔を見せる。笑顔が作れるくらい症状が収まったようだ。
「よかったよかった……。お風呂は沸いてる?」
「うん、湧いてるよ。先にお風呂に入るの?」
「走り過ぎて全身が汗だくなんだ。このままじゃ、夕食どころじゃないよ」
僕は靴を抜いて揃えたあと、げた箱に入れる。
「兄貴がお風呂に先に入るのなら、私も一緒に入る~」
「駄目だよ。未来はもう中学生なんだから、一人で入りなさい」
「え~。一人で入るの寂しいんだもん……。あと、髪を洗う時に目を瞑るのがやっぱり怖いよ。誰かに刺されるかもしれないし……」
「シャンプーハットを使えば良いでしょ。あれを使えば目を開けて髪を洗えるよ」
「私は子供じゃないもん! あとシャンプーハットを使うのが面倒臭い。兄貴に体を洗ってほしい~。私が自分で体を洗うと綺麗になった気がしないんだよ~」
「いつまで小学生みたいな発言をしているんだ。未来だって体を見られたくないでしょ」
「兄貴になら……別にいいよ。私のおっぱいはまだ小さいけど、いつかお母さんみたいな巨乳になるから、成長過程を観察しても良いよ……」
未来は指先を合わせながら呟く。
「からかうな。あと上目遣いを止めろ。どうしたんだ、未来。いつも以上に甘えてきすぎだよ……。誰かに甘えたいくらい辛いことでもあるの?」
「そういう訳じゃないけど……。兄貴は私とお風呂に入るのが嫌なの?」
「嫌じゃないけど、いつかは離れないといけない。ずっと一緒に入れるわけじゃないよ」
「そうだけどさ……。じゃ、じゃあ。中学の間だけ一緒に入ってよ。高校生になったらやめるから。ね、それなら良いでしょ。兄貴も大学生になったら家から出て行っちゃうし、それまでの間、お風呂に一緒に入って」
「ま、まぁ……。未来がそれでいいなら。構わないけど……」
「やった~! じゃ、お風呂に一緒に入ろ~」
未来は僕の背中を押して脱衣所まで向かう。ここで許してしまう僕も相当シスコンだ。
僕と未来は一週間ぶりくらいにお風呂に一緒に入った。
「ふぅ……。気持ちィ……」
「二人で入るにはもう狭くないか? 足が未来の体に当たるんだけど……」
「気にしない、気にしない~」
僕と未来は共にお風呂に入り、一週間で何があったのかを話した。昨日の出来事は話せなかったが、今日、赤尾君との会話で疑問に思ったことを未来に聞いてみた。
「未来、赤尾って言う苗字の女子を知らない? 僕のクラスメイトの妹かもしれないんだけど……」
「え、赤尾ちゃんなら同じクラスで、私の友達だよ」
「あ、そうなの? えっと、赤尾ちゃんはお兄さんのことを何か言ってた?」
「えっとね。最近、カッコよくなりすぎてやばいって言ってた。これ以上好きになったらどうしよう~って悩んでたよ。赤尾ちゃんは私が言うのも何だけど、結構なブラコンだね」
「そ、そうなの?」
(あ、あれ~。僕の聞いていた話と全然違う……。赤尾君、滅茶苦茶嫌われてるって思ってるのに、妹ちゃんの方はブラコン? どうなってるの)
「赤尾ちゃんはね。お兄ちゃんが好きすぎるからわざと嫌ってるの。そうしないとベタベタになっちゃうんだって。料理が美味しくて勉強が出来て、しっかり髪を整えればイケメンでちょ~ヤバ~って言ってた。運動が出来ないのに頑張ってるのもカッコよすぎ~って」
「何で嫌っている風にしてるの? 別にベタベタしてもいいんじゃ……」
「そりゃあ、好いていても仕方ないでしょ。兄妹だし。どれだけ好きでも結婚できないじゃん。だったら嫌ったほうがましって話。でも、なかなか嫌いになれないんだって~。お兄ちゃんが優しすぎて……」
未来の視線は僕に少々語りかけているようだった。
「兄は妹に優しくするのが普通でしょ。あ、未来。髪にゴミが付いてるよ」
僕は未来の髪から埃を取り、お風呂場に落とす。
「あ、ありがとう……。って、なんであんな小さな埃に気付くの」
「何でって、未来の綺麗な髪に汚い埃が付いていたらすぐに気づくでしょ」
「キュぅ…………。今日は別に手入れしてないし、ボサボサだと思うんだけど」
「それもいつもの雰囲気と違って可愛いよ。未来はどんな髪型でも似合っちゃうよね。やっぱり元がいいからかな」
「も、もう! 褒めすぎ! お世辞ばっかり言われても嬉しくないよ!」
「全部事実なのに……」
「う、うぅ……。もっと照れろよ……。馬鹿兄貴……。ブクブク……」
未来は顔を赤くしてお風呂のお湯に鼻までつけて息を吐く。
「伝えられることは伝えておいた方がいい。いつ何が起こるかわからないからね。映画みたいに僕が交通事故にあってぽっくり逝っちゃうかもしれないし」
「そ、そんな縁起でもないこと言わないでよ! ほんとにそうなったら私……」
未来はお風呂のお湯をザバッと持ち上げながら立ち、大きな声を出した。
「ご、ごめん。例えだよ、例え。そんな本気にしないで」
「例えでも言わないで! もし兄貴が死んだら私も死ぬからね! 死んだら絶対駄目なんだから!」
未来は泣きながら僕に抱き着いてきた。お風呂の中に加え、裸で抱き合うのは少々卑猥だが、未来の本気度が伝わってきて裸とかどうでもよかった。妹はガチ泣きし、僕は死ぬに死ねなくなる。人はいつ死ぬかわからないと言うのに、死なないでと言われても困る。もしかしたら通り魔に刺されるかもしれないし、トラックが突っ込んでくるかもしれない、地震が起きて建物の下敷きになるかもしれない。でも、未来の言葉を思い出して生き残ろうとする意思は見せよう。もがき苦しんだとしても生きようと努力しよう。
未来が精神不安定な時に死ぬなんて言葉を使った僕が悪かった。
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