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背の低い女の子

 長い、長い全校集会と入学式が終わった。全生徒が一斉に解散となり、三年生、二年生が教室に戻っていった。最後に一年生の移動となり、僕は大島君と教室に戻ろうとしていた。


「みどり先生、みどり先生はどこだ!」


 大島君は子犬のように辺りを駆け回り、担任の先生を探していた。


「大島君、教室に帰るよ」


 大島君が興奮している中『ダッダッダッダ』と廊下を全速力で走る音が聞こえた。


 加えて誰かが開いていなかった体育館の扉に力強く『ドンッ』とぶつかった音がする。


「痛い!」


 僕は音の鳴った方向を見る。皆、一カ所の体育館出入口から退出していたので、ステージと反対側にある出入口は閉じられていた。だが、扉が少しずつ動きだす。


「ぐ! ンぐぐぐ~。お、重い~」


 体育館の無駄に重い扉を力いっぱいに押している姿が若干開いた出入口から見える。


「女の子?」


「す、すみません! 遅れました!」


 扉から出てきたのは高篠高校の女子の制服を着た子供だった。子供?


「おい、祐介。誰がいるんだ?」


 大島君は周りに自分より背の高い学生がいるためか、誰が着たのか見えないらしい。


「誰かはわからないけど、小さな女の子がいる」


 僕は頭一つ抜けていたので女の子の様子がはっきりと見えた。


 顔までは分からないが、綺麗な茶色のユルフワの長い髪を見てヤンキーかと一瞬思ったが、服装がしっかりと着こなされているので不良ではなさそうだ。


「小さな女の子? どこだ。どこにいるんだ!」


「多分見えないと思うよ。すごく小さいから……」


「おい! 俺の身長が小さいっていうのか!」


「ち、違うよ。体育館の後ろにいる女の子が小さいって言ったの。もぅ、小さいって言葉に敏感すぎだよ……」


「祐介だって大きいという言葉に敏感じゃねえか」


「た、確かに……」


 僕は遅れてきた少女のことが気になり、もう一度見る。


「あら、もしかして大原柚希さんですか?」と美人な女性教員が少女に話しかける。


「はい! そうです。登校中に困っている人がいましたから、助けずにはいられず登校が少し遅れてしまいました」


「そうだったんですか。確かに、高篠高校の制服を着た少女に助けてもらったと感謝のお電話をいただいていますから、今日の所は見逃しましょう」


「あ、ありがとうございます」


 少女は首振り人形かと思うくらい、頭を何度も下げていた。


「大原さんの教室は一のAです。あちらの列から教室に一緒に向かってください」


「わかりました!」


 少女は小走りで一のAの列までやって来ようとしたが、他の生徒の波に呑み込まれていく。すると、すぐに見失ってしまった……。


「なあ、祐介。女の子ってどんな子だよ。俺にも教えてくれ!」


 大島君は女性が相当好きなのか、ただただ美人が好きなのか、分からないが少女のことを僕に質問してくる。


「どんな子って言われてもなぁ……」


 僕が少女を初めて見て抱いた印象は、はっきり言って「小学生」だった。


「僕、女の子が体育館に入ってきたとき、小学生が高篠高校の制服を着て迷い込んできたのかと思ったよ……」


「そんなに小さかったのか。じゃあ俺よりも小さいってことか?」


「多分……。僕、眼は良いほうだから見間違いではないと思うんだけど……」


「ちょっと!」


「?」


 人込みの中から声がいきなり聞こえ、僕は周りを見渡すが後ろの人も前の人もしゃべりかけてきているようには見えない。


「ちょっと、あなた! 私をバカにしているんですか!」


「あの~、どこにいるんですか?」


 僕はただ、声の主の居場所を知りたかっただけなのに横の脛をいきなり蹴られた。


「い、痛った!」


 僕は脚の痛みで跪く。すると……。


「これでよく見えますよね!」


 僕の目の前には、小さな女の子が立っていた。


 小顔なのに大きな目、瞳の色は焦げ茶っぽくとても綺麗だった。白い肌にきりっとした眉、長いまつげに小さくもスッと通った鼻、唇は少し薄いがすごく柔らかそうだ。


「あなたは私のことを小学生といいましたね。私はこう見えてもれっきとした女子高生なんですよ、さっきの言葉を訂正してください!」


 少女は右手を全くない胸に置いて背をぐっと反らせている。


 僕は訂正しろと言われたのですぐに訂正する。


「さっきは小学生みたいと言ってしまい申し訳ありませんでした」


 僕は潔く頭を下げる。例え相手が小学生だとしても頭を下げられる潔さが僕の取り柄の一つだ。


「やっぱり、小学生と思ってたんですね!」


「はっきりと聞こえてなかったんですね……。無駄に謝ってしまった……」


「カマをかけてみたらこの通りですよ! 私は小学生じゃありません、女子高生です!」


 少女は腰が折れるんじゃないかと思うほど背を反らせて、言い放った。


――どうしよう、未来。僕はこの方と一緒に生活するのは難しいかもしれない。


 僕は昨日色々と言ってきた妹に先に謝っておいた。未来は僕がボッチにならないよう考えてくれていた。その一つにクラスメイトと仲良くという項目があるがすでに難しそうだ。


「な、こいつはこういうところがあるんだよ」


 大島君は女の子に便乗し、僕を陥れようとしてくる。


「そうなんですね。やはり身長が高いと気持ちまで大きくなってしまうのでしょうか。ただ身長が高いだけでしょうに」


「いや、こいつは、身長は高いけど心は小さいままなんだよ。それこそ小学生並みにな」


「否定できない……」


「それにしても、あんたも小さいな。俺よりもちっさい女子は最近じゃ珍しいぜ」


 少女は大島君の足を思いっきり踏みつけた。


「痛った!」


「小さいという言葉は禁句ですよ!」


「ごめん、ごめん。なんか親近感がわくんだよ。俺の名前は大島茂雄、好きな呼び方で読んでくれた構わないぜ。ついでだが、こいつの名前は疋田祐介。まあ、こいつの呼び方も好きな呼び方で良いと思うぜ」


「僕にだって自己紹介くらいできるよ」


「私の名前は大原柚希です、よろしくお願いします。呼び方は好きな呼び方で構いません」


 大原さんは頭を少しだけ下げて自己紹介をした。


「じゃあ、柚希って呼ぶぜ」


「構いません」


「じゃあ、僕も柚希さんって呼びますね」


「あなたは私の名前を呼ばないでください。不愉快です」


「な! さっきは好きな呼び方でいいって言ってましたよね……」


「それは大島君に言った言葉です。あなたには言っていませんよ」


「ぷぷ~。祐介。お前、柚希にいきなり嫌われてやんの~」


 僕はなぜか分からないが、大原さんに嫌われてしまった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。


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