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未来の体調不良

 僕はアルバイトを見送りさせていただこうとしたのだが……。


『野村ちゃんからの了承は貰った。あと、今回は柚希ちゃんも一緒に働いてもらう。疋田君は見張り役だ。金を貰って可愛い女の子を見れるなら得だろ?』


『行かせてもらいます』


 僕は返事を速送った。すると、メッセージがすぐに返ってきた。


『ま、この衣装でだけどな』


 スマホ画面のラインアプリ上にはメッセージと共に写真が張り付けられていた。


(鯉の着ぐるみ……。黒い鯉ってことは親鯉か。って! どこが見張り役なんだよ!)


 僕は完全にはめられた。ほんと手口が汚い。そう思いながら、ため息をつき『了解』とだけ打ってメッセージを送った。そのまま、夕食を得るために部屋をあとにする。居間に向うと、母さんと父さんしかおらず、未来がいなかった。


「母さん、未来は?」


「居間から部屋にいる未来に呼びかけても来ないのよ。部屋に行って呼んできてくれる」


「わかった」


 僕は居間から未来の部屋まで移動し、ドアを三回叩いて夕食だと伝える。


「未来、夕食だよ」


「ご飯いらない……」


「未来がご飯いらないだって……。明日は雪が降るのかな。何でご飯がいらないの? お腹でも痛い? それなら、お粥でも持ってこようか」


「いらない……、今日は食べたくない気分なの……」


「なにも食べなかったらお腹が空いて辛いよ。お粥なら腹持ちもいいし、体にも優しい。湯たんぽと一緒に持ってくるから、待ってて」


「うぅ……」


 どうやら未来は生理痛らしい。さっきは精神が不安定だったし、ご飯を食べたくないと言う時はだいたい生理痛だ。


 僕は気づかないふりをして、お腹を温める食べ物と湯たんぽをさりげなく持っていく。


 僕は男なので整理がどれくらい辛いか、わからないけど元気はつらつの未来が部屋に閉じこもるくらいだ。相当辛いに決まっている。


「母さん。未来はお腹が痛いからお粥がいいって」


「そう。わかったわ」


 母さんはささっとお粥をつくり、お茶碗に盛り付けてお盆に乗せる。種を抜いた梅干しをお粥の上に乗せ、スプーンを添えた。コップに温かいお茶を注ぎ、お盆に置く。


 僕は戸棚から湯たんぽを取り出してポットのお湯を容器に入れる。専用の包を被せたら脇に挟み、お盆を持って未来の部屋に向かった。


「未来、お粥と湯たんぽを持ってきたよ」


 僕が声をかけると扉が少し開いた。顔色の悪い未来が現れ、お盆を受け取る。


 未来はお盆を自分の勉強机に置いて湯たんぽを取りに来た。


「未来、今日はお腹を痛いのを我慢して友達と遊びに行っていたの?」


「う、うん……。だってお腹が痛いから遊びに行かないって言ったら来たくないんだなって思われるじゃん……。本当は行きたいのに嫌われるかもしれないから……頑張って行ったの。そしたら良いことがあってちょっと救われた。お腹がめっちゃ痛いけど……」


「そうなんだ。でもさ、辛いなら言った方がいいよ。本当の友達ならわかってくれるはずだ。いや、僕が何か言うのは間違ってるか。未来、僕にいつでも相談してくれていいから。罵詈雑言を吐き捨ててストレスを解消するサンドバックにしてくれてもいい。辛いことは一人で溜め込まないで、こまったら話せなんて僕は強制しないからさ。手紙でも暗号でも、数字の羅列でもいい。何か伝えてくれると嬉しい。僕は未来の味方に必ずなるから」


「うぅ……兄貴……」


 未来は気分の悪そうな顔で、涙を流した。


「さあ、どんとこい。どんな罵詈雑言でも僕は受け止めて見せる」


 未来は口を開けて何かを発しようとしたが思いとどまり、僕にギュッと抱き着いてきた。


「ありがとう兄貴……。大好きだよ……。私は兄貴をやっぱり嫌いになれないよ……」


 未来は僕の胸に頬を当てて泣いている。


 僕は未来の後頭部に手を当ててもう一方の手で背中を摩った。


 未来は一分ほど僕に抱き着いたあと、湯たんぽを持って部屋に戻る。お腹に湯たんぽを当てて少し楽になったのか笑顔を僕に向けてきた。


 未来の笑顔は僕の元気の源だ。未来の元気がないと、僕も気を落としてしまう。


 僕は未来に頼ってばかりなのは少々不甲斐ないと思い、自分に出来る最大限の笑顔を未来に見せた。すると、未来は驚いたのか眼を丸くしている。そのままクスクスと笑って扉を閉めた。落ち込んでいた気持ちが少々上がってくれたみたいだ。


「よかったよかった。さてと、僕は夕食を得てお風呂に入って勉強して寝る。明日は日曜日だし、家でぐ~たらしていようかな。未来の体調も心配だし、何かあったら大変だ。母さんに言っておいた方がいいかな。いや、さすがに母さんも気付いているか」


 僕は居間の方に向かいながらブツブツと喋る。居間に到着し、食事をとったあとお風呂に入る。そのあとは下着を履いて寝間着を着る。ついでに洗面台で歯を磨いてトイレを済ませた後、自室に向う途中に隣の部屋にいる未来の様子をうかがうため、扉をノックした。


「未来、お風呂が空いたけどどうする?」


「うぅ……。今日は入らなくていいかな……」


「じゃあ、お湯を持ってくるよ。清潔な服を着た方が気分も変わると思うし、今日着た服は僕が洗濯籠に持っていくから、お湯を持ってきた時に脱いで置いてくれるとありがたい」


「わ、わかった……」


 僕は大きめの桶に少し熱めのお湯を入れ、タオルとバスタオルを持って未来の部屋に向かう。扉が少々開いており、足で大きく開ける。


 未来はベッドで寝ころんでおり、顔だけ出ていた。白色と黄色が基調の部屋は未来の明るさを表しており、ベッドに並ぶ動物の人形たちは愛らしさを物語っていた。


 部屋は少々暗く、眠っていたとわかる。無理に起こしてしまったのかと思ったが宿題なのかプリントとノートが机に広げられており、シャープペンが無造作に置かれているのを見ると先ほどまで勉強していたようだ。体調が悪くてもしっかりとやるべきことはやり遂げると言う、未来の執念の強さはバレーボールクラブで身に付けていた。ただ、一つ思うのは……僕の写真が多すぎないか。至る所に僕との思い出の写真が立てかけられたり、張られたりしており、ブラコン気質がうかがえる。


「未来、お湯を持ってきたよ。あと、今日着ていた服はこれ?」


 僕は綺麗に折りたたまれている服とズボン、下着、靴下を指さした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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毎日更新できるように頑張っていきます。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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