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可愛さを自覚していない

「さてと、今の時間は午後五時くらいか。真理ちゃんは飲みに行くの?」


「行くか馬鹿。私はまだまだ仕事だよ。今、他のスタッフに全投げしているんだ。そろそろ泣きついてくるころだからな、行かなければならん」


 真理さんはお店の表側に向かい、仕事を再開した。


「じゃあ、私は他の男でも引っかけて驕らせるか~。んじゃ、柚希、私は帰りが遅くなるかも。もしかしたら帰らないかもしれないから、お母さんとお父さんに言っといて~」


「はいはい……。わかったよ。酔い過ぎちゃ駄目だからね」


「は~い。飲めるアルコールの量はわかってま~す。じゃ、疋田君、可愛い可愛い、私の妹と原石ちゃんを家に安全に送りとどけてね~」


 牡丹さんは僕達の前からふらふら~っと消えて行った。


「何か……、凄く自由な方ですね。柚希さんのお姉さん……」


 野村さんが眼を細めながら、柚希さんの方を見ると、柚希さんは肩をしゅん……と竦めて恥ずかしそうな表情を浮かべる。


「うぅ……。私のお姉ちゃん、ビッチなんです……。男を毎回とっかえひっかえして、ほんと理解できません……。遊ぶのもほどほどにしてほしいんですけど、あの美貌ですから男が勝手によってくるんです……。野村さんはお姉ちゃんみたいになったら駄目ですからね」


「わ、私は無理無理。男子と真面に話も出来ないですし、男子の連絡先だって疋田君と弟、お父さんしか持ってません」


「う……、わ、私もお父さんと疋田君くらいしか、連絡先を持ってない……」


「ぼ、僕も、女性の連絡先は母と妹、柚希さん、野村さんのしか持ってません……」


 僕達は趣味思考が違えども、似た者同士だった。


 僕はさっき貰った服を紙袋に入れてトイレに向かう。髪に付いているカチカチに固められた整髪料を今すぐに落としたいのだ。別に他に用事があったわけじゃない。本当に髪を洗いたかっただけだ。決して卑猥な行為なんてしていない。


「ふぅ……。サッパリした……」


「疋田君って何か顔が卑猥ですよね……」


「それってどういう意味ですか! 顔が卑猥って、さすがに酷くないですか!」


 柚希さんは僕の方を見て弄ってきた。どうやら柚希さんは牡丹さんを反面教師にしながらも、根っこの部分は同じような性質を持っているのかもしれない。


(柚希さんも男をころころ転がして弄ぶ悪魔のような女性なのかも。小柄な体型に可愛らしい顏をしておきながらむごい方だ……。でも、相手が僕なら悪くないかも……)


「まぁ、柚希さんの言っていることもわからなくないですね。疋田君は私達を見る眼が卑猥なのかもしれません」


 野村さんも僕の心を抉ってくる。


「う……。核心をつく攻撃……。仕方ないじゃないですか。柚希さんと野村さんが、可愛すぎるんです。僕の男の部分が吐出しちゃうのも仕方ないじゃないですか」


「か、可愛すぎる……」


「か、可愛すぎる……」


 柚希さんと野村さんはピタッと止まり、僕だけが前に歩いている状態になった。


 僕は疑問に思い、後ろを振り返る。両者共に震えており、顔を赤面させていた。


「疋田君はやっぱり卑猥です!」×柚希、野村。


「な……。二人して酷い……」


 二人はスタスタと歩いてきて僕の腕を掴む。


 僕は警察に連行される犯人のような扱いを受けながら歩かされた。周りから見れば両手に花。だが、僕からしてみれば両手にポリスウーマン。ちょっとでも何か知ら考えたら本当に警察に連れていかれそうだ。ここはおとなしく従おう……。にしても、野村さんのおっぱい、やわらけえぇ……。


 僕は柚希さんに腰を『グイッツ……』と抓られる。


「いたたた! ゆ、柚希さん、なんで抓って……」


「今、疋田君は野村さんのおっぱいがやわらけ~って思いましたね。卑猥です」


「や、やっぱり柚希さんって超能力者……」


(怒っている柚希さんを上からのぞくと凄く可愛いな。まあ、小動物感がすごいけど……、でもなんか健気に胸を押し当てようとしてくる姿勢がグッとくる……)


 野村さんは僕の腕を『グニィ~!』と抓ってきた。


「いたたた! の、野村さんまで、何するんですか!」


「今、疋田君は柚希さんを見て小動物みたいで可愛いな~って思いましたね。胸がないのに何しているんだろうって健気だな~とも思いましたね」


「やっぱり、野村さんも超能力者なの!」


「疋田君がわかりやすすぎるだけです!」×柚希、野村。


「わ、わかりやすくて、ご、ごめんなさい!」


 僕が謝ると柚希さんと野村さんがクスクスと笑い、なんで怒っていたのに笑うのか僕には女心が理解できない……。


 僕達は人気の少ない夕方の河川敷を歩きながら家に帰る。


 僕は牡丹さんに柚希さんと野村さんを家まで安全に送り届けろと言う命令を受けているので当たり前のように二人について行っているのだが、いいのだろうか。家を知られたくないとか、ついてきてほしくないとか思わないのだろうか。僕としては家を知られたくない人間なので戸惑っている。


「あ、あの。僕が二人の家を知ってもいいんですかね?」


「え? 何でそんなこと気にするんですか」


 柚希さんが頭に? を浮かべて首をかしげながら僕の方を見た。


「いや、その……。僕は家を知られたくない人間なので、二人はどうなのかと思いまして」


「私は全然気にしませんよ」


「私も別に気にしないです。逆に疋田君に付き添わせて悪いと思っているくらいですから」


 柚希さんと野村さんは家バレしてもかまわないと言った。


 僕としては二人共可愛いのだから変質者に狙われてしまいそうで心配だと言うと笑われた。今の時代何が起こるかわからないのだから笑い事じゃないと真剣に言うと、二人は顔を見合わせてまたもや笑った。


(何なんだ……。二人共自分の可愛さを理解していないのか。無自覚ゆえの無防備な気持ちになっているのかもしれない。心配だ……)


 僕と柚希さんは野村さんを家まで送り届けた。野村さんの家は僕の家から近いとも遠いとも言えない位置にあり、自転車ならすぐにつきそうな場所だった。


 僕は柚希さんと二人切になったわけだが、会話が無い。とんでもなく気まずい空気が流れている。ただ、気まずいと思っているのは僕だけのようで柚希さんはルンルン気分だった。会話をしていないのに何が面白いのだろうか。僕には女心が理解できない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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