連絡先を泣く泣く教える
「ふふふ~、可愛い奴め~。そんなエッチな表情をしたらお姉さん、興奮しちゃうな~」
「もう、お姉ちゃん! 純情スケベな疋田君の性癖を捻じ曲げちゃ駄目だよ!」
「えぇ~、それ、柚希が言う~?」
「な、なんで。私の名前が出てくるの……」
柚希さんは牡丹さんの方を見て困惑していた。
「だってだって、柚希はこ~んなに小っちゃくて可愛くて~、しっかり者の癖にドジっこちゃんでしょ~。こ~んなロリ体型してるのに高校生なんて、どれだけ多くの男を拗らせちゃうのかな~って思っただけだよ」
「ろ、ロリ体型……」
柚希さんはゲームの戦闘でHPがゼロになり、前のめりに倒れているような状態になってしまった。
「ゆ、柚希さん。大丈夫ですか?」
僕は柚希さんの肩に手を添えて声を掛ける。
「うぅ……。ロリ体型……。私……高校生なのにぃ……」
僕は柚希さんの両脇に手を入れ、持ち上げて床に立たせる。
(うわ、軽い……。ほんと小学生みたいな人だな。少し前まで小学生だった未来とは大違いだ。……って! 未来!)
僕は未来が僕の姿を見てしまったのを思い出し、綺麗に畳まれた服の中からスマホを取り出して連絡を取ろうと試みる。スマホの電源ボタンを押すと液晶にラインのバナーが浮かび、一枚の写真がすでに送られてきていた。
『見て見て~。さっき、兄貴にそっくりのモデルさんを見つけたの。兄貴もこれくらいカッコよく成れば彼女の一人や二人出来るよ。この服を買って行ってあげようか?』
「い、いらんいらん!」
僕は自分の情けない直立の写真を見て顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。未来に『いらない』とメッセージをすぐさま送る。
『そっか~。残念。兄貴にも着てほしかったのにな~。兄貴ならもっとカッコよく着こなせると思うよ。可愛い妹が保証する。でも、いらないなら仕方ないか。今頃、傷心しちゃってる兄貴のために、今度、私が一緒にデートしてあげるね~♡』
「よ、よけいなお世話だ。今、僕は別の理由で傷心しているよ……」
僕は『余計なお世話だ』と送信すると『てへぺろ~』と返答がきてやり取りが途絶える。
「はぁ……。まさか、妹に見られるとは……」
僕は落ち込みながら柚希さん達のいる方へと戻る。
「はい、お疲れ様。はい、お疲れ様……」
ダーク系お姉さんがモデルさん達に茶封筒を渡していた。厚みはだいたい同じだ。
「はい、野村ちゃん、今日はいい反響だったよ。次の機会もぜひぜひお願いしたいね」
「あ、ありがとうございます……」
僕は盛大にしらけていたので、お金を貰えるわけがないと思っていた。アルバイトを常日頃からしている訳ではないので金欠な訳だが、毎月のお小遣いで何とかやりくりしている。そんな僕のもとに、ダーク系お姉さんが近づいてきて茶封筒を渡してきた。
「はじめてにしては良かったじゃん。疋田君の誠実さが出てたよ。君、身長だけじゃなく、ポテンシャルも高いから、こういう仕事も向いているかもね。あと、その服はあげる。モデル用に仕立てたから、他の人は誰も着れないし」
「あ、ありがとうございます……」
茶封筒の中身を見ると一万円札が入っていた。
僕にとっては大きな大きな収入で泣きそうになる。苦労した甲斐があったと思い、茶封筒を胸に抱き寄せた。なんか女々しいが、お金は大切なので丁重に扱う。
他のモデルさん達は飲みに行くとか言ってお店を早々に後にした。
野村さんは男のモデルさん達に連絡先を聞かれまくっていたが他の女性モデルさんに守られ、僕の出番はなかった。
僕に話しかけてきたのはダーク系お姉さんのみ。連絡先を教えろと言われ、渋っていたら、牡丹さんの胸をガン見している写真を見せられ、僕はスマホ画面にラインのQRコードを泣く泣く表示した。
「んじゃ、また連絡するから。暇があったらアルバイトをしに来なさい。稼ぎ場を提供してあげる」
「べ、別に金欠ってわけじゃ……」
「あんな別嬪の彼女を維持し続けるのに、お金がどれだけかかると思ってるの? その体を使えば結構稼げるんだから嫌でも働きなさい」
「野村さんとは、つ、付き合ってるわけじゃないですし、体で稼ぐってなんか卑猥な発言はやめてくださいよ」
「なに、付き合ってないの? 何で?」
ダーク系お姉さんは疑問の表情を浮かべ、僕に見せてきた。
「僕は野村さんが好きとかそう言うのじゃなくて……、似た者同士と言うか……、同じ思いをしている者同士って言うだけなので」
「ふぅ~ん。あっそ。ま、私にはどうでもいいけどさ、高校生活を卑下しながら送るのはもったいないと思うよ。柚希ちゃんくらい明るく生きないと楽しい思い出もないまま高校生活が終わる。それが嫌なら金を稼がないとね」
「な、なんでお金を稼ぐと言う方向にもっていくんですか……」
「ん~。だって疋田君なら結構稼げそうだし。女子ウケしそうな顔してるからさ、だいぶ良い線行けると思うんだよね~」
ダーク系お姉さんは瞳を金に換え、僕の方を見てきた。へへへッという笑い方が魔女のようで怖い……。
「えぇ~、野村ちゃん、下着を買いに来ていたんだ。それなら、丁度良いし、私の着ている下着を貰ってよ~。家に残しておいても、妹が使う日は来ないからさ~」
「お、お姉ちゃん! もしかして私を馬鹿にしてる? いや、絶対に馬鹿にしてるよね!」
「ん~。そんなにチョコチョコしている柚希も可愛いな~。じゃあ試しにつけてみる~?」
「う、そ、そんなことしなくていいから……。時間の無駄だよ……」
「も~、そんな悲しそうな顔しないでよ~。別に今の柚希も可愛いよ。一定数の人から絶対にモテるって。自信を持ちなよ~」
「私は自信を持ってるよ! お姉ちゃんとは違うって割り切ってるからもう、何を言われても傷つかない。あと、私はロリ体型じゃないから。ただ、成長が遅いだけだから!」
「はいはい。わかってますよ~。でも、見栄っ張りな性格じゃ、男子からモテないぞ~。もっとおしとやかで趣のある子にならないとね~」
牡丹さんは柚希さんの頭を撫で、滅茶苦茶子ども扱いをしていた。そのせいで柚希さんの頬が膨らみ、ハムスターが頬に食べ物を詰めたような状態になっている。
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