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緊張して体が動かない

(野村さんが彼女……。あんな美人な彼女を待つ彼氏の心境なんて知らないし、考えた覚えもないよ。僕から行くんだ、野村さんに迷惑をかけないよう、わかりやすいポージングにするか。それとも前の人達を参考にして同じポーズをとるか。そうすれば、野村さんも一つ前の女性と同じポーズをとればいいからわかりやすいはずだ)


 下着の宣伝は牡丹さんだけで、お客さんに写真を滅茶苦茶撮られた後、フラッシュの音が消えてから牡丹さんは小さなステージを履けていった。


 すぐに、男性のモデルが歩いて行ってステージの中央でポージングを決める。服装は七分袖の服とチノパンで、すっきりした印象の服だった。靴下がくるぶしよりも下にあり、スニーカーも映えている。彼は脚を肩幅に広げ、胸を広く取り、ポケットに手を突っ込んで止まっていた。


 キャーキャーと甲高い声が響いたあと、カメラのフラッシュ音がパシャパシャと鳴り響く。鳴り終わったので彼は履けていく。


 その後、女性がすぐさま出てきて中央で止まった。服装は膝上の短めのスカートに襟首の広いフリフリの付いた服装で華やかな服装だった。さっきの男性と並んでいたらお似合いのカップルとしか言いようのない立ち姿で肩幅より狭めた脚、肩は広げ、びしっと止まる。小さなバックを肘にかけ、二人で信号を待っているような風景が眼に浮かぶ。


 カメラのフラッシュ音が止まり、女性は反対側にはけていった。


 モデルさん達が次々に歩いてき、腕組デートや待ち合わせ、手つなぎなど、場面を想像させるポージングばかりで初めての僕には難易度が高すぎる。


(どうする、どうする。僕の服装だと何番目のモデルを手本にすればいいんだ……。デートした思い出なんて全くないのに。あ……、デートじゃないけど、今日の短い出来事の中から、デートっぽい場面がないかな……)


 僕は考えた。足りない頭で何度も思考を回す。


(どこが一番デートぽかった……。と言うか、今着ている服装をお客さんに見せないといけないんだ。服が一番映える場面を考えろ)


 僕の一つ前のモデルさんの出番が終わった。次は僕の番だ……。ずっと考えても全くいい場面が浮かび浮かばない。どうにかしてこの場を乗り越えないと……。


 僕はガチガチに緊張しながら、短い階段を上り、小さなステージに立った。板から少し出ると、目の前には三○人から四○人くらいお客さんが集まっていた。ステージに立った瞬間、冷や汗と手汗、脇汗、背中の汗、幹線から嫌と言うほど汗を掻き、服が濡れていないか心配になってまたもや汗が止まらない。多汗症だったかと疑問に思うくらいに発汗していた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


(や、やばい。過呼吸になってる。息を整えてポージングをしないと……)


 僕はステージの中央に立ったのはいいものの背筋だけを伸ばした体勢だった。そう、ポージングをまだ行っていなかったのだ。腕と脚を動かそうとしても、緊張からか、全く動かない。過呼吸だけが激しくなる一方で、涙が出そうだった。


「ねぇねぇ、あのモデルさん、写真で見せてくれた未来のお兄ちゃんに似てない?」


「う、うん……。に、似てるかも。やばい……めっちゃカッコいい……」


(う、うそ……だろ。何でここにいるんだ……)


 僕の視界の先には友達と遊びに出かけた妹……、未来の姿があった。


 未来は僕にスマホのカメラを向け、写真を『パシャリ……』と撮ってくる。


 その瞬間、体から魂が抜けたような感覚に陥り、僕は半分気絶した。ポージングは気を付けの体勢。両側から笑い声のような吐息が聞こえる。視界は数回のフラッシュで眩み、涙で滲んでいる。


 シャッター音が鳴りやんだので両手両足が同じ動きをしながらステージを出た。緊張感が一気に無くなり、息をしていなかったということを思い出して空気を一気に吸い込んだ。息を吸い過ぎて肺が痛い。もう、肺胞がありえないくらい膨らんでいる。そのせいで涙か汗かわからない液体が顔から溢れ出していた。


(やってしまった……。野村さん、僕の後にどんなポージングを行えばいいか絶対にわからないよ……)


 僕は後ろをすぐさま振り返り、ステージを見た。


「ふふっ……。ふふっ……」


「野村さん……」


 ステージの反対側にいる野村さんはすごく笑っていた。我慢していなかったら大爆笑しているくらいに顔が赤い。相当頑張って堪えているようだ。笑いをこらえ込んだあと、彼女はすごく良い笑顔を僕の方に向けた。そのままカッコいい野村さんの顔にスッと変わり、足を一歩、一歩、出していく。スタスタと歩き、ステージの中央に立つとすでにおぉ~と言う声が響き、彼女が臍の下あたりで手を重ね、目線を右斜め下あたりに向け、顔を傾けているポージングをした。すると、シャッター音がパシャパシャパシャと鳴り響き、牡丹さんの次に長い間、写真を撮られていた。音が鳴り終わると彼女はステージを降りる。


 短いような長いようなよくわからない時間が過ぎた後、僕と野村さん、他のモデルさん達でステージに立ち、先ほどと同じポージングを行ってファッションショーが終わった。


 僕と野村さんはステージから逃げ帰るようにお店の裏に戻り、何度も息を吸う。


「お疲れ様~。二人共、なかなかよかったよ~。いやぁ、疋田君が直立で固まっちゃうとは思わなかったけど、野村ちゃんの起点が効いていて面白かった。初心な二人だから出来たポージングだったね」


 牡丹さんは未だに下着姿で僕達に抱き着いてきた。僕の視界からだと深い谷間が盛大に見えてしまう。


「ふっつ!」


「痛った!」


 僕は脛を蹴られ、視線を横に持って行った。すると、頬を膨らませている柚希さんの姿がある。仁王立ちをしているが、全く怖くない。逆に頭を撫でたくなるような小動物観が保護欲をすごくそそられる。


「疋田君。お姉ちゃんの谷間を見すぎです。どれだけおっぱいが好きなんですか?」


「い、いや、そ、その……。視線に嫌でも入ると言うか……」


「ふふ~、いいよいいよ~。私は見られるのが仕事だからね。好きなだけ見るといいさ~。お触りは厳禁だけどね~」


 牡丹さんは下乳に腕を置き、大きさをさらに強調してきた。僕は視線をすぐさまそらし、鼻血が出ていないか確認する。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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