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柚希さんのお姉さん

「ゆ、柚希さん……。と言うことはこの人が柚希さんのお姉さん……」


「は~い、柚希の姉の大原牡丹で~す」


 とんでもなく綺麗なお姉さんはピースサインを眼元に当ててギャルっぽいポーズをする。


「牡丹さん! って。う、うそ! 本物ですか!」


 野村さんは後ろを振り向き、牡丹さんをまじまじと見て驚いていた。


「うんうん、本物だよ、原石ちゃん。にしてもいいおっぱいしてるね~。私もこれくらい欲しかったなぁ~。フニフニ~」


「やっ、ちょ……、やめてください」


「えへへ~、えへへ~、自分のとは違う感触……。イでッツ!」


「もう、お姉ちゃん! はしたな過ぎ! 野村さんが困ってるし、すぐ隣にムッツリスケベの疋田君がいるんだよ!」


「ほほ~、そんな清楚系な顔をしているのに、疋田君はムッツリスケベなのか~。いいね、そそるそそる~」


(な、何なんだ、この人……)


 僕の目の前にいるのは身長一七○センチメートルくらいの女性で野村さんくらい大きい胸に引きしまった体、綺麗なお尻と長い脚。見えている部分は全部ツルツルでスベスベ。蛍光灯の光を反射してしまうくらい綺麗な肌。長いブロンドの髪は柚希さんと同じで顔もよく似ていた。ただ、身長と体型が全く違う。両極端の二人で頭がおかしくなりそうだ。


「牡丹さん、本番です」と女性の店員が牡丹さんを呼びに来た。


「は~い。んじゃあちょっくら仕事してくるから。あと、三人ともお店の中に行こうね~」


「え、ちょちょ!」×疋田、野村。


 僕と野村さんは牡丹さんに腕を組まれ、高級な服屋の中に連れ込まれる。


 柚希さんははぁ……とため息をついて僕達の後ろについてきた。


 お店の中はすごく綺麗な女性とイケメンな男性ばかりだった。


 僕はあまりにも息苦しい空間だった。でも、野村さんの美貌は他の誰にも負けておらず、今の服装が結構お店の雰囲気にあっており、店員さんなのではないかと錯覚してしまう。


「は~い、皆、ちゅ~も~く! 今回の穴はこの子達で埋めま~す。じゃ、私は出番だから、あとは店長よろしく!」


「あ、ちょっと! 牡丹さん!」


 牡丹さんはとある女性に僕たちを押し付けてお店の奥に走って行ってしまった……。


「はぁ……。ほんと疲れる人。で、君たちは牡丹さんに連れてこられちゃったわけか」


 僕達のもとに歩いてきたのは黒髪ロングのお姉さん。見た目からしてダーク系だ。肩口の少々広いTシャツに黒いスキニを履いており、スッキリと着こなしている。加えて、耳にシルバーのイヤリングを着け、大人っぽさが醸し出されていた。


「え、えっと……。僕達も何が何だか、わからない状況でして」


「ふむふむ……。なるほどなるほど……」


 ダーク系お姉さんは僕の周りをクルクルと回り、舐めるように見てくる。


(もう、辛い。お店から早く出させてくれ……)


「うん、合格。じゃあ、ノッポ君は男のいる場所に移動してくれる」


「え、その……、いきなり何を……」


「何をって……、モデルの穴を埋めに来たんでしょ。牡丹さんに連れてこられたんだから見込みがあるのは間違いないっぽいね。さてさて、もうすぐ本番だからさ、早く行動してくれるかな」


 ダーク系お姉さんは低い声を発し、僕を威圧してくる。身長が一六五センチメートルくらいで僕より全然低いが、ヒグマとウサギくらいの力の差を感じる。


 僕はダーク系お姉さんに逆らえず、男性が多く集まる場所に歩いて行った。


 野村さんも舐めまわすように見られ、速合格を貰い、女性のいる場所に歩いていく。どうやら野村さんも断れなかったらしい。


 柚希さんはダーク系お姉さんに抱き着かれ、滅茶苦茶に撫でまわされている。どうやらマスコットキャラクターと思われているらしく、彼女は怒っていた。


 僕はイケメンに加えて身長が一八五センチメートルを超える男性たちのもとに歩いていく。だが、周りの人達よりも僕の方が、背が高く、少々頭を下げて歩いていた。


「おいおい、シャキッとしろ、シャキッと! そんなんじゃ、服が映えないだろ!」


「いっつ!」


 僕はちょい悪系の男性に背中をバシっと叩かれ、背筋を伸ばすように言われた。仕方なく言う通りにして背筋を伸ばす。


「よしよし、いい感じだ。んじゃあ、これに着替えてくれ。今日来るはずだったモデルが着るはずだったんだが、これなくなっちまってな。脚の長さが誰も合わないんだ。脚の長いお前なら入りそうだからさ、丁度よかったぜ」


 ちょい悪系の男性から渡されたのはジーンズだった。


 僕は言われるがまま、ジーンズを履く。すると、ぴったり入り、動きやすかった。


「おぉ~」×男モデルたち。


 数名いる男性たちが声を揃えて驚いていた。少々恥ずかしくて背中を丸めていると、またしても、どつかれる。背中に手の平の跡が絶対付いているとわかってしまうほどジンジンして痛い。暴力反対……。


「んじゃあ、次はこの白シャツだ。これも手が長くて誰も合わないんだ。脚が合うなら、上も合うと思うぞ」


 僕はちょい悪系の男性から白シャツを貰い、上の服を脱いで着る。手首の位置に袖口が丁度あり、またしてもぴったりだった。上下ともに僕のために作られたんじゃないかと思うほどで、周りの男達はまたもやおぉ~っと声をあげる。その後は椅子に座らされ、靴を履き替えたのち顔に色々塗り手繰られた。加えて左手首に銀色の時計を嵌められ、髪も馬鹿みたいにワックスで固められた。鏡が無いので今の自分がどうなっているのか調べようがない。スマホもズボンのポケットに入れたままでカメラ機能を使って自分を見ることも出来ない。あたふたしていると、パシャっというスマホのカメラ音が鳴った。


「え……。ゆ、柚希さん……。何で僕の写真なんて撮るんですか?」


「え……、あ、いや……、その。な、なんでかな。そ、そうそう。はい、これが今の疋田君の姿ですよ」


 僕は柚希さんからスマホを受け取る。


 スマホの画面には、僕とは似ても似つかない男がいた。第一印象はクール系のイケメン大学生って感じだ……。自分で言うのも恥ずかしいんだが、ここまで映えた写真は見た覚えがない。僕の人生で一番カッコよく撮れた最高の一瞬だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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