話の長い校長先生
「『一のA』ここが俺たちの教室だ。さっさと入ろうぜ!」
僕と大島君は教室の前で立っていた。
「う、うん……。行こうか」
大島君は扉を勢いよく開ける。大きな音が教室中にバシ! と響き、多くの生徒が驚く。
「おはよう! 同じクラスの皆! 俺の名前は大島茂雄。これから一年間よろしく!」
大島君は教室の入り口で自己紹介を堂々と始めた。
僕はすごいなと思いながらも、大島君の自己紹介中に自分の席に直行する。僕の日常は椅子に座っているか、誰かと話すときに教室の四つ角のどこかに向うというのが定番だ。そうすれば周りや後ろからの視線を気にしなくて済む。
(まあ、そのせいで中学のときは友達があまりできなかったんだけど……)
「おい! 祐介。お前はまた机にくっついてるのかよ」
中学のときに『なあ、何でお前はいつも寝たふりをしているんだ?』と話しかけてくれたのが、大島君だ。普通そんなこと聞く! と思ったけど、あの時に話しかけてくれなかったら、きっといつまでも独りぼっちだっただろう。
「いや~、やっぱりこの方が安心するんだよ」
僕は自分の椅子に座り、手提げ鞄を机の隣にかけて机上にベターとへたり込んでいた。その方が、身長が目立ちにくいのだ。机に塗られたワックスの何とも言えないにおいが懐かしい。
教室に到着してから一〇分くらい過ぎた。
僕は顔を少しだけあげ、周りを見渡す。大島君の隣の席がまだ空いている。
「席がだいぶ埋まったな。でも、あと一人だけ来てないみたいだけど……、遅刻かな」
説明を行う先生もあと一人をギリギリまで待っていた。でも動き始めたのを見ると時間切れらしい。一人は入学式で遅刻確定だ。
「それでは時間ですので廊下に整列してください。初めは皆で一緒に体育館に行きますが、後日からは各自で移動してもらいますので道順をしっかりと覚えてください」
僕の嫌いなイベントが来た、入学式と全校集会。
全校集会は月に一回はある学校の行事だけど僕は嫌いだ。理由は単純明快、ただ立っているだけでも滅茶苦茶目立つから……。
僕のような大きな人間はどうしても他の生徒群から頭が出てしまう。周りから目立って仕方がない。
僕は椅子から嫌々立ち上がり、気を重くして廊下に整列する。
「は……。行きたくないな……」
「そんなに嫌そうな顔をするなよ、祐介」
大島君は僕の隣に来て話かけてきた。
「大島君は僕が集会嫌いなのを知ってるでしょ」
「まあ、確かに目立つわな。でも気にしないのが一番だぜ」
「そんなのは分かってるけどさ、気にしないのって結構難しいんだよ。大島君だって自分の身長を気にしてるくせに……」
「な、祐介。俺は身長なんて別に気にしてないし。毎日牛乳を二リットル飲んでるわけでもないし、午後九時には寝るようにしてるとか全然ないし」
大島君は白々しく嘘をついていた。実際は身長を伸ばすために科学的根拠のある方法を出来るだけ完璧に行っているのだ。
「めっちゃ気にしてるやん……」
僕が大島君の頭に手を置いて慰めようとした時…。
「そこ! 喋らない」
「す、すみません」×疋田、大島。
喋っていたら学校の先生の怒られてしまい、僕たちはすぐに謝る。その後は無言になり、クラスメイト全員で体育館に移動した。僕はなるべく背を丸めて歩く。
一〇分ほどかけてゆっくりと歩き、僕たちは体育館に到着した。そのまま、クラス別に並ぶ。
体育館でも僕は背中を出来るだけ丸めて低い姿勢を保とうと試みるも……。
「君、背筋をもっと伸ばしなさい! 姿勢が悪くなるだろ!」
僕は男の先生に大きな声を掛けられ、周りからの眼を盛大に引いた。
(ごもっともですが僕はあまり目立ちたくないのですよ)と言い返せたらいいのだが、僕は「す、すみません」と言い、背筋を泣く泣く伸ばした。すると他の生徒よりも頭一つ抜けてしまい、周りの人の視線を更に集めてしまった。
(ああ、まただ、ただ身長が違うだけなのに、すっごい見られる。男の視線ならまだしも、女性の視線は苦手なんだよな。出来ればあまりこっちを見ないでほしい)
「――早く、全校集会が終わってくれ」と僕は自分の切実な思いを口に出し、嫌な思いを少しでも小さくする。体育館に集合してから一〇分後……、年配の先生がマイクを持ち、喋り始める。
「ただいまより、全校集会を始めます。一同、礼」
僕達はステージの中央に立っている頭がはげた校長先生に頭を一斉に下げた。
全校集会が始まり。(校長先生の話は出来るだけ短く終わってください)と僕は願う。でも僕の願いはとどかなかった。
「それでは、校長先生からのお話です」
「え~、皆さんおはようございます。え~、今日はお日柄もよく、入学式にしてはとても良い日になりました。え~、私の好きな言葉として『朱に交われば赤くなる、黒に交われば黒になる』という言葉があります。え~、私たち教員はできるだけ、この学校を朱に近づけたいと考えております。え~、そうすれば朱に交わっている生徒諸君も朱になる事が出来ると考えているのです………………」
(一時間後)
「え~、私の生い立ちや経験を話してきましたが理解していただけましたでしょうか。え~、では今から、これからの日本についての話を……」
「校長先生!」とマイクを奪い取った年配の女性の先生がしびれを切らしたのか叫んだ。
「おっほん、え~、すみません、少し話過ぎてしまいました。え~、ではこの一言で私からの話を終えたいと思います。『入学おめでとう、そしてこれから一緒に頑張っていきましょう』以上です」
に居る生徒と教師の全員が思ったことだろう『話が長すぎだろ』と。
(最後の一言だけでいいだろ、一時間も立たされるなんて貧血で倒れてる子もいたぞ。あの校長、あれだけ話して「少し話過ぎた」だって、頭のねじがちょっと外れてるんじゃないか)
「え~、ただいまから各クラスの担任の先生を発表したいと思います」
「先生なんて誰でも同じでしょ」と僕は小言をこぼす。
「何言っているんだ、祐介。担任の先生は美人な女教師がいいに決まってるだろ!」
「何で大島君がここにいるの……」
僕の隣にいつの間にか大島君がやってきていた。
「校長の話が長すぎて暇だったから、先生にばれずに祐介のところまで来れるかっていう、ゲームをしてたんだよ」
「よく、ばれずにここまでこれたね……」
「そんなことより担任の先生だ。担任がどんな人かで学校生活が変わってくるんだよ」
「は~、僕はどんな人でもいいよ」
「それでは発表します。一のA、村中みどり先生、一のB、……一のE、前田良助先生。以上です。これにて、全校集会を終了します。続いて入学式を開始したいと思います」
全校集会が終わったと思ったら、すぐまた入学式だなんて……。まぁ、入学式は座っていられたのでそこまで疲れはしなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
これからもどうぞよろしくお願いします。