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関節キッス

「うわ~身長でけ~、い~な! 俺もあれくらい有ればバスケとかバレーとかもっと上手くなれたのに!」


「は、ただ身長デカいだけだろ。顔は普通だし、身長がデカすぎてもキモいだけじゃね」


 僕は男性の視線も結構集めた。憧れの声と嫉みの声が聞こえる。


(そんな大きな声で話しているわけじゃないのに……耳に入ってくるもんだな。でも、今のところ、僕の身長しか言われてない。野村さんの胸は何も言われてない、よかった)


「………………」


「ん? どうしたんですか、野村さん?」


 野村さんはなぜか悲しそうな表情をして視線をそらした。


(野村さん、なんで悲しそうな顔をしているんだ……。見られていないのなら嬉しくなるんじゃないのか?)


 僕達は平和道の入り口に到着し、入店した。


 ☆☆☆☆


 平和道、正面入り口のポスト裏。


 柚希は茶色のロングコートを着てベレー帽をかぶり、探偵風の服装でポスト裏に隠れていた。


「いたいた……。あの二人、滅茶苦茶見つけやすいな。って! 野村さんの服装エッロ! 高校一年であのおっぱいの大きさ……お姉ちゃんより大きいのではないだろうか。は、はは……。私、野村さんと同い年のはずなのに……」


 祐介と野村の様子を勝手に見に来た柚希は野村の乳に先制攻撃を食らう。


 ☆☆☆☆


 僕と野村さんは人の視線が少ない、フードコーナーの角席に座っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。こ、ここまで来るのに息が切れるくらい体力を使うなんて……」


「はぁ、はぁ、はぁ……。ほ、ほんとですね。私、長距離を走っている時より体力を使った気がします……」


「えっと、野村さん。水を持ってきますね。何か食べたい物があれば言ってください。僕が頑張って買ってきます」


「い、いえいえ。一時間も待たせていたんですから、私が何かお詫びしないと……」


 野村さんはショルダーバックから財布を取り出して立ち上がろうとする。


「いやいや、こういう時は男が出すって相場が決まってるらしいんですよ」


「でも……」


「僕の方は報酬をもう貰っているので大丈夫です。気にしないでください」


「え? 私は何もあげてませんよ……」


(僕にとっては野村さんのエッ……、大人っぽ過ぎる服装が見れただけで充分すぎる報酬なんだよな。これ以上何かを望むと罰が当たりそうだ)


 僕は野村さんを説得し、水を紙コップに入れ、彼女の好物だと言うタコ焼きを買う。味付けはソースとマヨネーズで、ネギマシマシだ。店員さんがネギをあまりに盛るので値段が変わらないか少々不安だったが六五〇円と言われ、僕は安堵する。


 トレイに乗ったプラスチック容器の中に、笹船のような皿が入っており、山もりの白ネギと青ネギしか見えず、タコ焼きが全く見えないが八個乗っているはずだ。


 僕は背中に汗を搔きながらトレイを受け取り、肩をすくめて野村さんのもとに戻る。僕の見かけはカッコ悪いかもしれないが、今できるエスコートの全力なのだ。


 野村さんはタコ焼きを見るとパ~っと明るくなり、暗かった表情が晴れる。


「じゃあ、疋田君、いただきます!」


「どうぞ。ネギだらけですけど、たくさん食べてください」


 野村さんは両手を合わせ、僕の方を向きながらお礼を言ってきた。胸は見ないと意識していたのだが、両手が合わされたせいで胸が中央により、大きさが増していた。


 僕はもってきた水を一気に飲み干して平常心を保つ。


「それじゃあ、まず一口……」


 野村さんは割りばしを綺麗に割り、タコ焼きを半分に切ってネギを挟んで一個丸ごと食べる。結構大きなタコ焼きであり、出来立てなので熱いのは当たり前なのだが、彼女は吐息をハフハフと出しながら口を動かす。ごくっと飲み込むと幸せそうにため息をついた。


「はぁ~。フードコーナーのタコ焼きを食べるのは久々です。やっぱり家で作るタコ焼きとは一味、二味違いますね。特にこのネギのシャキシャキ感とタコ焼きの中身のトロトロ感が合わさって口の中が幸せいっぱいです」


「はは……。野村さんはタコ焼きが相当好きなんですね」


「はい。家でも良く作るんですよ。家族とですけど……」


 野村さんはなぜか俯いていた。たこ焼きを家族と食べることが嫌なのだろうか。彼女はタコ焼きを食べ進めていき、残り一個になったころ……。


「あの、疋田君……。最後の一個、食べますか?」


「え……。何で最後の一個を僕に?」


「いや、その……。凄く食べたそうに見ていたので欲しいのかなと思いまして」


「いや、それは……、野村さんが美味しそうに食べてたからタコ焼きも美味しそうに見えていただけで……」


「実際に美味しいですよ。少し冷めちゃいましたけど、どうぞ」


 野村さんはトレイを僕の方に移動させた。ここまでされて食べない訳にもいかない。


 僕はタコ焼きに刺さっていた爪楊枝を使って食べようとした。だが、野村さんが不服そうな表情をしている。翌々見たら、ネギが残っており、タコ焼きだけで食べるなど邪道とでも言いたそうな表情だった。だが、僕がタコ焼きを食べる気なんてなかったので割りばしは一膳しか持って来ていない。もう一度割りばしを貰いに行けばいいのだが、残り一個のタコ焼きのために割りばしを貰うのも忍びない……。


――使うしかないのか……、この割り箸を……。


 僕は笹船のような皿に置かれていた野村さんが使用済みの割りばしを手に取る。震えながらにタコ焼きを割ってネギを詰め、口もとに運ぼうとする。


――野村さんが止めてこないと言うことは関節キッスをしてもいいと言うことか……。まだ出会って二週間足らずの僕と野村さんは関節キッスをしてもいいなどと言う関係になった覚えはないんだけど。


 僕は心の中で『ありがとうございます』と言ってタコ焼きを食べる。


「あ……、食べちゃった……」


「ん……?」


 野村さんの頬が熱り始める。


(ちょ、今さら赤くなられても困る。駄目なら駄目と言ってくれればよかったのに)


「わ、割りばしの反対側を使えばよかったのに……」


「え、あ、あぁ……。た、確かに……」


「普通、気づきますよね。でも疋田君は行動に移した。つまるところ……、私と間接キスをしたかったということですよね。あっていますか、エッチな疋田君……」


「な、なな……。ななな……」


 野村さんの名推理は完璧に当たっていた。彼女の策略にはまった僕は出会ってまだ二週間くらいの美女同級生の使った割りばしをなぶった気持ち悪いやつと言う印象を持たれた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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