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魔法使いに救われて  作者: Lie
王都争乱
9/10

物語は紡がれる



 ――それはとある少年の冒険譚


 人の中より生まれた英雄の冒険の物語。


 神世の大地において多種多様な生物が覇を争っていた。

 久遠にも思われた争いは大地を焼き、空を灰で覆う。

 覗く空は赤く濁り大地を血の色に染めた。


 神々はそんな子供たちを憂い、地上で最も知性高い生物に救済の力を与えた。

 

 穢れを知らず、欲のない一人の少年に力が与えられた。


 信託を受けた少年は癒しの手をもって旅に出た。


 少年は旅の道中、傷を負った精霊と出会う。

 癒しの力を用いて精霊を助けた少年はその礼にと光り輝く剣を精霊より授かる。

 聖剣と呼ばれた輝く剣に切れぬものはなく、加護の力が付与されていた。

 持つものに傷を負わせず、老いを防いだ。

 そして少年は精霊と契りを交わす。


 聖剣と精霊の加護を得た少年は精霊の住処を後にした。

 

 少年は精霊との契りを成し、悪しき獣を倒した。

 

 世界は不の感情で満ちていた。

 悪しき獣もその影響で生まれた生物だった。

 その名を魔物と呼ぶ。


 奇しくも世界は魔物という共通の敵を前に団結した。

 世界を飲み込まんとする魔物の軍勢から世界を守ること。

 信託を受けた少年は仲間と共に魔物を滅ぼすべく西の大陸を目指した。

 

 すでに魔物の手の落ちた西の大陸にて少年たちは三日三晩の戦闘の後、すべての魔物を討ち取った。


 そうして世界には平和が訪れ、空には青空が戻った。


 神々は褒美として少年に望みを叶える力を与えた。


 平和が訪れた世界に少年自身の望みはなく。

 少年はただ――恒久的な平和を静かに願うのだった。




「――だから今代は人種の時代と呼ばれています。」


「そうか。……えっ、実話なのか?」


「本当だと信じている人は多くいます。御伽話の類なので書き手によって物語は変わってしまいますし脚色は過ぎていると思いますが、現に精霊憑きや魔法といった法外の軌跡は実在しているので全てが創作であるとは言えません。」


 確かに言われてみればそうだ。

 魔法というものは今でもよくわからないがそれに類するものなら体験してきた。 

 迷宮区も村の結界も法外のものなら今までも見てきた。

 

「それにしても不老に傷を負わない体とは凄まじいな。――その少年は今も生きているとか言わないよな?」


「さすがにそれは……。不老の力があったというのも後から出てきた話みたいですし。――あっ、でも、一説によるとかの騎士王は聖剣と共にその不死性を捨てたともいわれています。だから騎士の国では今でも剣を捧げることが特別な意味を持つとか。」

 

「騎士の国?」


「はい。少年は世界を救った後、ある国の姫君と婚姻し王様になったそうです。そしてそれが騎士の国の基になったということです。」


 聖剣物語が騎士の国の成り立ちにも関わっているということか。

 

「どこからどこまでが真実かわからないな。」


「でも、聖剣は実在していますよ。世界に魔物がいたとされていた時代から千年、その時から騎士の国は存在するようですし、今でも騎士の国は騎士王に…その後継者に聖剣が受け継がれてきています。」


「そうなのか?では精霊や魔物も本当にいたということか?」


「魔物は少なくとも現代にはいませんが精霊は本当にいたと言われています。精霊は特別な力を有していました。それが魔法であったとも……。」


「でも魔法は迷い人だけのものではなかったのか?」


「そう、ですね……。人類は迷い人を世界から追い出しました。つまり魔法もその時に、そして精霊もいつの間にかその存在を消していました。」


 アステラの話を聞く限りでは精霊と魔法は密接な関係にあったようだ。

 だから、なのだろう。


「だから精霊憑きは……。」


「ええ。精霊は生命の管理をしていたと言われています。魔物が生まれたのも精霊が生命の管理をおこたたっから、その責を神に咎められ精霊はこの世界から姿を消したと言われています。

そして精霊は現代に精霊憑きとして姿を現しました。精霊はいたずら心が強い生き物だったそうです。今でも神様への反逆を企てていると考えられていて、だから精霊憑きはこの世界では忌み嫌われています。」


 迷い人は獣人の味方をしてこの世界の生命に危害を加えた。

 でもそれは獣人を守るためで、獣人の願いを叶えるため。

 では獣人もなにか神の不況をかったということだろうか?


「では、なぜ獣人は世界の――人類の敵とされているんだ?」


「……人は平和を愛しています。自分たちが生態系の頂点でいられる世界の平和を愛しています。それが結果、他の何かを傷つけることになろうとも。同じように知性を持ちそれでいて強靭な肉体を持つ獣人を人間は恐れた、のでしょうね。その恐怖から、獣人は魔物が人を模して生まれた生物だと妄信して彼らに危害を加えてしまった。」


 獣人が忌避されるのも不安定の時代の名残というわけか。


「だから兄さんはそうじゃないと人々に、せめてこの国の人にだけでもと獣人の方たちをこの国に招いていたのですが……。」


 歴史はそれを許さなかった。

 培った年月と起こった事実が壁となって立ちはだかった。

 人類の共通の敵として獣人はなってしまっていた。

 それは人類に寵愛を与えた神への反逆にも等しい行為。


「もしかしてアステラの兄も精霊憑きだったのか?」


「……いいえ、兄さんは違います。違ったけれど、僕が生まれたから、僕を守るために……。」


 アステラはそれ以降は口には出さなかった。

 でも、アステラの兄は変えようとしていたのだろう。

 人間としてではなく、一人の王としてでもなく、ただ一人の兄として、この国からでも何かを変えようとその命を懸けた。


「自慢の兄なんだな。」


「――――っ。ええ…自慢の、兄さんでした。」


 アステラは俯いたまま話さなくなってしまった。


 失言だったと自分を戒める。

 アステラは兄が生きていると信じているのだ。

 星の王の話をするべきではなかった。


 しめやかな空気が流れる。

 話題を変えようとナナシは騎士の国の話をアステラに振る。



「そういえば騎士の国ってどんなところなんだ?」


「えっ、えっと…はい。騎士の国は人類の剣にして盾です。騎士の国は初代騎士王の思想を継いでいます。」


「盾?思想、というと平和への願いか?」


「はい。でも、平和への願いは変質してしまっています。それはおそらく初代騎士王の願った平和とはかけ離れたものです。人類の平和を願う彼らにとって、神に歯向かう精霊は敵であり、人類に牙をむいた獣人は敵です。その姿勢は最近までは崩すことはありませんでした。」


「最近までは?」


「近年、騎士の国では反乱が起こりました。詳細はわかりませんが権力に固執した前騎士王に後継者であった王子が反逆したとか。」


「どこよりも平和を願う国が内乱を起こしてしまったわけか。」


「はい。兄さんが作った七国同盟に参加したのもその影響あってのものです。内乱の影響で千年の栄光を誇った騎士の国も崩壊間際です。でないと獣人の国を神敵とみなす彼らが同盟に参加することはなかったでしょう。」


 千年の歴史を持った国の崩壊。

 それだけで凄まじい戦いだったことがわかる。


「そのあと騎士の国はどうなっているんだ?」


「王弟の娘が今は代理の騎士王を名乗っているそうです。騎士王も王子も、そして王弟も行方不明だそうです。」


「そう、か。」


 一気にいろんな話を聞いた気がした。 

 魔物に精霊、聖剣に初代騎士王。

 どれも御伽話のような存在だというのにどれも実在したような気がしてならない。

 そう思うのはどうしてだろうか。



――――――――

―――――

―――




「随分長く話していた気がするな。」


「そっ、そうですね。僕もこんなに長く話したのは久しぶり、です。」


 テルが迎えに来てくれることになっているがさすがに遅いような気もする。

 ここに来てからいったいどれくらいの時間が経っているだろうか。

 さすがに腹も減ってくる。


「ナナシさん何か食べますか?」


 ナナシの様子に気付いてかアステラはどこからかパンと干し肉を取り出す。


「恥ずかしいな…そんなに腹が空いたような顔をしていただろうか?」


「いっ、いえ…僕がお腹が空いてしまって。」


 恥ずかしそうに顔を俯けるアステラ。

 腹がすくのも当然か、アステラも同じようにこの場所に居たのだから。


「そうだな、ありがとう。ではパンをもらってもよいだろうか?」


「干し肉はいいんですか?」


「どうも自分は軽食しか口に入れてはならないらしい。しばらく何も口にしていなかった影響だとかでな。」


「そう、なんですか?」


 不思議そうにアステラは首を傾けた。

 その反応も仕方ない。

 自分でもどうしてそんな状況で黒壁の前に倒れていたのかわからないのだから。


「やはり記憶を取り戻すしかない、か。」


「ナナシさんはやっぱり記憶を取り戻したいんですか?」


「そう、だな。自分がどんな人間だったか、それは気になる。それに迷い人かもしれない、魔法という力が使えるかもしれないと言われて、恥ずかしながら心が躍った。」


 魔法が使えたからと言って何かしたいことがあるわけでもない。

 でも――もしもそんな力があったのならば。 

 もっと獣人の、この世界の者たちの力になれるのではないか――そんな妄想をしたりする。


「あっ、あの…手掛かり、になるかはわかりませんが…魔女の伝説には記憶に関する記述があるんです。」


「魔女?」


「傾国の美女、破滅を呼ぶ娼婦――呼ばれ方はいろいろあるのですが魔女と呼称されるのが一般的です。魔女はその美貌を人々から称賛されました。

あるものは巨万の富を、あるものは膨大な知識を、あるものは地位と名声をもって魔女に言い寄りました。

そうして魔女はわからなくなってしまったのです。」


「わからなく、なった?」


「与えられるばかりいた魔女は自分自身を失ってしまいました。望まなくてもすべてが手に入る生活、魔女は人を愛することを忘れ、優しく接することも忘れ、望みも、夢も、過去も、故郷も忘れ彷徨い始めました。国を、町を、村を彷徨いました。魔女は自分のことを覚えている人間を探して彷徨いました。」


「記憶を、集めていた…ということか?」


「はい。魔女と関わった人間は皆、姿を消していると言います。ですので魔女のその後を知るものは誰もいません。噂では今も迷いの森で迷い込んだ人間を惑わせているとも、現に迷いの森近くの村では神隠しの事件が続いています。」


 今のアステラの言葉では人間から記憶を集めているというような意味を感じ取れる。

 魔法なんて物が存在した世界で安易にありえないなんて言葉は出せない。

 それでも、もしこの話が本当なのだとしたら少しばかり恐ろしい。


「今のは歴史怪奇事件簿からの抜粋なんですが、本物の魔女ソフィアの伝説はもっと恐ろしい物語です。」


「そっちはまた別物なのか?」


「書き方が変わっていて、内容はその……怖くてあまり覚えてないんです。」


「いったいどれだけ怖いんだ……。」


「蔵書も少ないので読める機会はとても少ないんです。僕もテルさんから一度聞いただけなので……。」


「テルが?」


「昔、テルさんが話し相手になってくれていた時に、しつこく魔女の物語についての話をしていたら……。それがあまりに怖くて思い出せなくなってしまったんです。」


 あまりにしつこくアステラが聞いたものだから話を誇張して話したのかもしれない。

 テルならやりそうなことだ。

 

「ナっ、ナナシさんも気を付けてくださいね!あの時のテルさんは凄く怖かったんですから!」


「ああ、気を付けるよ。」


 どうもテルは物語を話すのが嫌いなようだな。

 面倒だからだろうか?

 テルを怒らせるのは恐ろしいのでアステラの忠告は素直に聞くことにした。



 そうしてアステラと会話を続けて時間がたつ。

 部屋の扉が開かれ、テルがナナシを迎えに来たのは


   ――――二日後の真夜中のことだった。

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