ちゃんとした後日談 13
――完全に、ではない。まだ何となく、だ。
それでも、エルクウェッドは、目の前の少女を幸せにする方法について、分かってきたような気がするのだった。
彼は、彼女を幸せにすると誓った。
しかし、それが具体的にどうするのかまでは今まで分かっていなかった。
けれど、現在、大まかにだが、方向性は定まった。
「娘、覚悟しておけ。今後、貴様に生きる喜びというものを骨の髄まで叩き込んでやる」
彼女は、おそらく現在まで、『呪い』によって、ただ生きているだけのような形であった。
けれど、今後は違う。
何度も死んだことにより、彼女は、生の実感が乏しくなってしまった。なら、それを改めて教えていけば良い。
エルクウェッドは、数多の趣味を会得した趣味仙人であり、エンジョイのガチ勢である。
一人の少女の人生を華やかにするなど、造作もない。
人は死ぬために生まれたのではない。
人生を楽しむために生まれたのだ。
彼は、今までの地獄のような日々で、そのように悟っていた。
だから、
「もう一度、言う。貴様を一度として死なせない。貴様には、貴様以外の人間と同じような日々を過ごしてもらう。死ぬこともなく、一日が二十四時間しかない日々だ。無論、失敗したとしても、やり直しなど出来ない。その場その場で、挽回するしかない。だがな、そういうものだ。人生とは、そういうものなのだ。そのやり直しが利かなくて、不自由な人生こそが、本来のあるべき姿だ。私たちは、限られたその時間の中で必死になって生きていくからこそ、より本気になれる」
それは、今までエルクウェッドが思っていたことであった。
彼は、何度もループを経験してきた。
嫌というほど経験してきた。
気が狂いそうなほどに経験してきた。
そして、彼は盛大にブチ切れた。
――いや、もう、ループは必要ないから。ちょっ、やめてよ。お願いだからね? お願いだから。うふふふふふ、良い子だからやめてね……? うふふふふ。……くそが、いい加減にしろ、ふざけるなよ、チクショウめがッ!! ブッ飛ばす!!! 絶対に泣かすからな!!!!
と。
何度も経験したから知っている。時間のやり直しを強制されるのは、とてつも無いほどの苦痛であった。
そして、彼女もまた自分と同じような境遇にいるように思えるのだ。
今まで彼女は、死ぬことを強制させられていた。
それで、人生が楽しめるはずがない。
生き物にとって、死ぬことというものは、どうあっても苦痛でしかないはずなのだから。
そう、たとえ、それに慣れることが出来たとしても――
「……申し訳ありません、私にはよく分かりません」
「だろうな」
少女が謝罪してくる。
常に幼少期から死を経験してきた彼女にとって、エルクウェッドの言葉は理解し難いものであった。
彼としても、それを理解している。
けれど、そこで引くことは出来ない。
一度でも引いてしまえば、状況はこのままで、変えることなど何一つ出来ない。
だから、彼は「任せておけ」と彼女に告げた後、
「手始めに、今から私は貴様のことを名前で呼ぶ。だから、貴様も今後は私のことを名前で呼べ」
そう、提案したのだった。




