ちゃんとした後日談 12
言葉を通じてエルクウェッドは、理解していく。
――目の前の、この少女のことを。
ゆえに、理解すればするほどに、彼としては、その事実に驚愕することになるのだった。
何しろ、彼女は趣味も特技も何も有していないのだと、言った。
彼女が、半生の中で最も行ったことは死ぬことなのだ、言った。
それは、つまり、
――彼女は、常に何も出来なかったということになる。
エルクウェッドは、過去を振り返る。
自分は、常に三日に一度の頻度で巻き戻っていた。
ならば、それは彼女が三日に一度の頻度で死んでいたことに他ならない。
きっと彼女は、その度に死なないように気をつけて行動をしていたのだろう。
死に繋がる不幸を回避出来なければ、明日にはならないのだから。
実際に経験してみたからこそ、分かる。彼女を襲うその不幸は、ちょっとやそっとで、回避できる代物ではなかった。片手間で回避できるほどに、彼女の有する『呪い』は生温くはないのだ。
なら、彼女は死を回避するために、必死になったに違いない。
だから、彼女は、ほとんどそのためだけに時間を費やすこととなったのではないか。
それに加えて、何か他のことをしようとすれば、必然的に死ぬ可能性が出てくる。
それを避けようとするならば――彼女は、文字通り何も出来ない。
エルクウェッドは、空中で横に三回転半したことで後ろを向いた椅子を正しく直して、少女に向き直る。
自分の当初の予想を遥かに超えて、壮絶な人生を送っているということが判明した、この少女に。
「あの、皇帝陛下……? 今の挙動は、一体どうやって……」
「――娘、一つ聞く」
困惑する少女に、エルクウェッドは声をかける。
「貴様、図書館で読書をしたことはあるか? 後宮内の図書館でも、皇都の国立図書館でもいい。地元にもあるのなら、そこでもいい。そう言った経験はあるか?」
彼女は、嘘でも読書を趣味だと言った。
なら、一応、一度でも読書の経験があるはずだ。
けれど、
「ええと、それはありますが、本棚が倒れてきて下敷きになって以降は、行かないようにしています」
彼女の回答は、エルクウェッドが半ば予想したものであった。
やはり、彼女は何もしないのではない。何も出来ないのだ。
自分の認識は正しかった。
そのことを確認して、エルクウェッドは、声を上げる。
「なら、後で連れていってやる。この後すぐにでも構わん」
「ええと、皇帝陛下……?」
「棚が倒れてくるというのなら、私が受け止めてやる。本が燃え出したら、私が消火してやる。とにかく、貴様は何も気にせず読書を好きなだけ楽しめ」
彼は、椅子から立ち上がって、身を乗り出す。
そして、彼女に問いかけた。
「他にも、そう言ったことがあるだろう? 全て思い出せ」
――趣味となる以前に、諦めてしまい、趣味に出来なかったことを。
「前にも言ったが、私は、絶対に貴様を死なせることなどしない。だから――安心して貴様に、人生を楽しむ機会を作ってやる」




