ちゃんとした後日談 6
――翌日。
エルクウェッドは、将軍と顔を合わせる機会があった。
「どうだ、調子は?」
「はっ。今のところ順調に進めております」
いつものように全身鎧をまとった将軍は、宮殿の廊下にて、見惚れるような綺麗な敬礼した後、応えた。
実は、一ヶ月ほど後に、『最愛』として選ばれた少女を国民に披露する式典が計画されていたのだ。
それに対する警備の準備を将軍自らが率先して行なっていた。
「先日のような事態が起きるのは、好ましくない。期待しているぞ」
「はっ。光栄でございます、皇帝陛下」
将軍は、先日の暗殺者騒ぎが起きた後、すぐに全兵士の調査を行い、本当にもう暗殺者が紛れていないのか確認を行っていた。
もちろん、その前に暗殺者たちを尋問して、入れ替わる際に捕らえられていた者たちの救出も行なっていた。
あの事件で、最も大変だったのは、発生した山のような仕事を全て迅速にこなすことになった将軍とその兵士たちだろう、とエルクウェッドは考えていた。
まあ、今は宰相の方が忙しく動いてはいるのだが。
……そういえば、宰相を禿げさせる計画を忘れていたな――
ふと、エルクウェッドは、そのようなことを思い出す。
まあ、それについては今はいい。
あのような事件があった以上、彼には、今後より頑張ってもらわなければならないのだから。
そうすぐさま思考を切り替えて、将軍に言葉をかける。
「時に、将軍。一つ聞く」
「何でございましょうか、皇帝陛下」
「貴様は、どのような時に『幸せ』というものを感じる?」
彼は、一番目の妃の女性に聞いたことと同じことを、将軍に向かって尋ねた。
彼は、現在、様々な者たちから意見を聞いていこうと考えていたのだ。
将軍は、やや首を傾げる。
そして、
「仕事終わりに、この鎧を脱ぐ時でしょうか」
少しして、彼はそう答えたのだった。
「そうなのか?」
「はい、鎧を着ていると、気が引き締まりはしますが、正直気疲れもしてしまいますので」
「なるほどな」
エルクウェッドは、頷いた。
そもそも、将軍が全身鎧を常に着用しているのは、彼の『呪い』が原因だった。
――【仕事中は常にずっとお肌がしわくちゃ】。
それにより、彼は人前で素顔を晒すことは今まで一度たりともないのである。
まあ、もしや、昔はあったのかもしれない。
けれど、エルクウェッドの記憶の中には、一度も無かった。
なので、彼は目の前の将軍に問いかける。
「そういえば、今まで一度も聞いたことが無かったな。貴様は仕事中、やはり素顔を晒すのが嫌なのか?」
対して、将軍は「難しいところでございますね」と、口籠るようにして答えた。
「自分としては、実は特に気にしていないのですよ」
「何と、そうなのか」
「はい。鏡で見慣れておりますし、例えるなら梅干しの妖精と干し柿の妖精が、拳を交わして互いの顔をさらにしわくちゃにした後でその二体が突然融合を果たしたようなしわくちゃ具合なだけなのですからね」
「いや、そのたとえはいつ聞いてもよく分からんが……」
将軍は、「ただ――」と、言葉を続ける。
「昔、何度か部下が私の顔を見て、気絶したことがありました。暗い場所で私の顔を見ると、殺人的な怖さらしいので」
「ああ、そういうことか……」
「それを活用して、敵兵の尋問にも一時期、使用しておりました。実際試しに、暗い場所で鏡を見て自分の顔に悲鳴を上げてしまったので――十分使えるな、と」
「強いな、貴様……」
間違いなく、メンタルが。
エルクウェッドは、感心するのだった。
だから、いつしか鎧を身にまとうようになったのだろう。
そう考えていると、
「それで、こうして常に全身鎧を着用するようになった理由なのですが、まあ、それらとはあまり関係なく、昔、愛する妻に『ずっと素顔を隠していたら、なんだかミステリアスな雰囲気が出て、部下の士気が上がりそう』と言われたからでございます。実際、士気が目に見えて上がったので、『じゃあ、いっか』となりました」
彼は「それだけなのでございます」と、真面目な口調でそう言ったのだった。
対してエルクウェッドは、「いや、……何だそれは。雑すぎるだろう。確かに軍の規則には違反していないが……」と、困惑してしまう。
常に真面目だと思っていた将軍の割とテキトーな部分をここで垣間見てしまい、何だか複雑な気持ちになってしまうのだった。




