ちゃんとした後日談 5
エルクウェッドは、このところ悩んでいた。
彼は、何度も死んで時を巻き戻すこの少女を幸せにすると誓った。
しかし、
――さて、一体どうやって、その目的を達成しよう。
と。
この一週間、それついて深く考えていたのだが、やはり明確な答えが出ることが無かった。
当然であるが、幸せというものは、その者の主観でしか判断出来ない。
そして、それが具体的なものであるのならば、良いが、大抵の人間はそれを明確に自覚していないのが現状だ。
たとえば、エルクウェッドの思う自分の幸せは、至極単純なものである。
『一日がちゃんと二十四時間しかないままで、日々を過ごすこと』
これが達成されたなら、おそらく彼は幸せだと感じることとなる。
けれど、彼の幸せがあの少女に当てはまるとは必ずしも限らない。
何せ、彼女は死ぬことを日常の一つとして認識していた。
通常、人にとって死とは、非日常的なものだ。人生において一回しか経験しないのだから。
しかし、彼女にとっては日常そのものなのである。物心ついた頃から何度も経験しているのだから、それも当然。
だから、彼としてはその常識を変えてもらうために、死ぬことを禁止した。
……無論、彼女が死ぬと自身も記憶を有したまま巻き戻ることになるため、嫌だという気持ちも大きくあるが。
結果として、彼女は一週間死ぬことがないまま、生き続けた。
それは、新記録なのだという。
彼女は死なないと落ち着かないという、信じられない発言をしたが、どうにかそれにも慣れてもらわなければならない。
エルクウェッドとしては今後絶対に――彼女を死なせるつもりはないのだから。
そして、そんなことを思いながら、彼は、
「――ああアァーッ!!」
……本日の妃教育を終えた後すぐに、なぜかどこからとも無く現れた大量の蜂に襲われてしまった目の前の少女を助けようと、悲鳴を上げながら、死なせるものか、巻き戻してなるものかと、全力でダッシュしたのだった――
♢♢♢
無事に少女を部屋に返した後、エルクウェッドは会議に出席していた。
当然、彼には仕事がある。
それこそ山のように。
しかし、彼としてはそれが苦になることは今のところなかった。
全ててきぱきとこなして、彼は少女と会うための時間を少しでも多く作るために、動いていた。
今の会議でも、即座に資料を読み解いて意見を出したり、問題を指摘したり、会議を手早く済ませるのに余念が無かった。
会議に出席していた者は、そんな彼を見て「今の皇帝陛下は、皇妃様のために頑張っていて、大変微笑ましい。お熱いですなあ」というようなことを口に出していた者もいた。
それはある意味で正しい。
彼は、少しでも少女と会う時間が欲しかった。
――目を離すと、いつの間にか死んでいるかもしれないから。
彼は少女のことを熱心に気にかけていた。
それこそ、その存在を認識した時から、今まで片時も忘れたことなどない。
彼女のことを考えない時など、今思えば無かった。
そして、そういえば、愛と憎しみは同じようなものだと、以前、下町のおばちゃんたちが言っていたことを彼は思い出す。
彼女たちは、笑いながら旦那さんたちの尻を叩いていた。けれど、それでもやはり愛しているのだという。
「まさか、これが……愛なのか?」
知らなかった……これが。
エルクウェッドは、予想外に芽生えていた愛の形に、困惑する。
しかし、その五分後くらいに「やっぱり勘違いだった。そんなわけないだろうが。ふざけるな」と、我に返るのだった。




