『皇帝』視点 6
エルクウェッド・リィーリム。
彼は数え切れないほどのループを経験してきた。
そして当然、その中で彼が他者に頼ろうとしたことは何度もある。
だが、しかし。
途中でそれは諦めざるを得なくなったのだった。
何故ならば、他の者たちはエルクウェッドとは違い、時を巻き戻すという『祝福』の影響をそのままその身に受けてしまうからだ。
かつてエルクウェッドは何度か、自身が最も信頼出来ると考える者に相談を行っていた。
――多方面に豊富な知識を持つ老齢な宰相。
――いくつもの戦いに勝利してきた屈強な肉体を持つ将軍。
――『祝福』と『呪い』の力の研究の第一人者である国立研究機関の研究長。
エルクウェッドが話を持ちかけると、彼らは、快く相談にのってくれる。
故にエルクウェッドは彼らを信じて、自分が経験してきたすべてを伝えた。
しかし、
──その後、時間は無情にも巻き戻ることになる。
彼らは、何も覚えてはいなかった。何一つ。
当然だ。彼らが歩む時間においては、まだエルクウェッドからの相談を受けてはいないのだから。
それならば、とエルクウェッドは再度相談を行う。
彼らは、二回目も快く相談に応じてくれた。
エルクウェッドが詳細に自身の状況を説明すれば、最低でも二時間以上になったし、そこからお互いに推測や予想を交えながら議論を交わしていくと、丸一日消費することもざらである。
相談に一日かかったが、有意義な時間であった。
そう思いながら、
──その後、時間は無情にも巻き戻ることになる。
エルクウェッドは思った。
──はあ、キレそう……。
というか、もうキレていた。
彼はおもむろに自室のベッドにあった枕をグーで叩いた。枕はボフっと音を立てる。彼の心もボフっと音を立てた。むなしい。
そして、エルクウェッドはその後、ループについて他者に相談することを諦める。
そもそもの話、この何者かの『祝福』を認識できるのはおそらくエルクウェッドひとりだけなのだ。
他の者たちは、何度時が巻き戻ろうと、それに気が付くことは決してない。
多分自分と同様の体験をしなければ、たとえ詳細に説明されたとしても、この『祝福』に関して実感を伴わせることが難しいように思える。突拍子もなさすぎて、大半の人間から妄想だと思われるのがオチだ。
きっとそうだ、多分、と彼は、そう心の中で無理やり納得させるのだった。
そして、別のことを考える。
――それにしても、この『祝福』。本当に、途轍もなく強力である。
これまでに確認されたことのない、ほぼ確実に未知の『祝福』であろう。
……まあ、もしかしたら過去に発現した者が実はいて、でも結局最初から最後まで誰にも認識されなかったから、いないと思われているという話も有り得なくはなさそうではあるが。
そんなことを思っているうちに、エルクウェッドはふと疑問を覚えることになるのだった。
──そういえば、この『祝福』を持つ者は、一体どのような『呪い』を所持しているだろうか。
と。
これほど強力な『祝福』を有しているのならば、当然『呪い』も強力なものになるはずだ。
『祝福』と『呪い』は、基本的に対になっている。
この時が巻き戻る力の対の力とは、一体どのようなものになるのだろう。
――もしや、その『呪い』がこのループを引き起こしているのではないか。
そのように思考が至る。
しかし、結局のところそれは、このループを引き起こしている本人に確認する以外に確かめる術はない。
果たして、その者は一体どんな人物なのか。
天使か。
それとも悪魔か。
まあ、おそらく――
後日、またいつものように仕事を白紙に戻され、ブチ切れながら、エルクウェッドは確信した。
「間違いなく悪魔だな!」
絶対、人の皮を被った悪魔だ。
いつか必ずブッ飛ばす。
エルクウェッドは、そう再度心に誓ったのであった。