ちゃんとしているかもしれない後日談 43
――少しばかり時間をおいて。
私と皇帝陛下は、再び宰相様と会う。
今日の目的は、彼に会うことであった。
そして、それがようやく今達成されたのだった。
「宰相、落ち着いたか?」
「はい、ひとまずは大丈夫かと思われます」
皇帝陛下の言葉に、宰相様は頷く。
彼は先程まで忙しく役人たちに指示を飛ばしていた。
しかし、疲れているような様子には見えない。
歳を感じさせないような元気さが彼にあるのだろう。
事実、先程からずっと皇帝陛下の頭の上に止まっていた鷹が羽ばたいて、宰相様の頭の上に降り立っても、彼は特に気にした様子もなかった。
慣れているのかもしれないけれど、重さでよろめかないのは凄いなあ……。
そう思っていると、皇帝陛下が、宰相様に私を紹介する。
「宰相、此奴を知っているだろう。五十番目の妃だ」
「はい、存じておりまする」
「私は、この娘を――『最愛』に選んだ。異論はあるか?」
彼は単刀直入に告げたのだった。
その言葉に対して、宰相様は目を閉じる。
すでに誰かから聞いていたのだろう。
驚く様子もなく、ただ落ち着いていた。
そして、
「いいえ。当然、有りませぬ。皇帝陛下がお選びになったお方なのです。決して間違いなどあろうはずが無いでしょう。ならば、わたくしがすべきことはお二人の祝福でございます」
彼は、柔和な笑みを浮かべて、「――おめでとうございます」と、私たちに告げるのだった。
「皇帝陛下は、歴代の中で最も早く、『最愛』をお決めになられました。それに、五十番目の妃の方をお選びになったのも、歴史上において初めてのこととなるでしょう。とても貴重な瞬間に、立ち合わせていただきました。感無量でございます」
そして宰相様は、優しげな目で私に言葉をかける。
「ソーニャ様。どうか、皇帝陛下と末長くお幸せになってください。あなたならば、きっと皇帝陛下を支えていくことが出来るでしょう」
彼は「よろしくお願いいたします」と、私に対して頭を下げる。
そして、倣うようにして彼の頭の上に乗った鷹もぺこりと頭を下げてくる。賢い。
けれど、私は彼の言葉に返事をかえすことが出来なかった。
――今、宰相様は、私に幸せになって欲しいと言った。
それはつまり、私が皇帝陛下を幸せにする必要があるということでもあるのだ。
……出来るのだろうか。こんな私に。
私は、突然のようにいつも死んでいる。
だから、いつも皇帝陛下を知らずのうちに怒らせていた。
今まで彼に沢山の迷惑をかけた。
彼を変な人にしてしまった。
彼に奇声を上げさせてしまった。
そして、それらはこれからも続いていくことになるのだろう。
彼は今日、私に対して「いくらでも幸せにしてやる」と言った。
おそらく彼に出来ないことはない。
きっと、私を幸せにすることだって簡単に出来てしまうに違いない。
けれど――私は……?
私は、どうなのだろうか。
彼を幸せに出来る自信が無い。
だって、すぐ死んでしまうのだ。
私はマンボウだから。
……でも。それでも――
私は、皇帝陛下の顔に視線を移す。
すると彼は、「安心しろ」といった表情で、私に目を向けるのだった。
それにより、私は決意する。
そして、そのまま意を決して――
「はい、私の出来る限りのことをさせていただきます」
そう、頭に鷹を乗せた宰相様に、返答をおこなったのだった。
 




