ちゃんとしているかもしれない後日談 42
――その後、私は検査を受けた。
結果は、特に体に異常はなしと診断される。
それを聞いて、皇帝陛下は安堵していた。
そして、私も安堵することになる。
彼も私と同じように検査を受けたのだ。
結果として、彼も特に異常なしと判断された。
もちろん、剣士の男性も問題はなかった。
ただ女装したまま検査を受けたため、世間体は無事ではなかったらしい。体に異常は無かったが、見た目には異常があったのだ。
彼は、「おい、女装したアフロ頭の男って……。我ながら、世間的にはやばすぎるって、それは……」と、ひどく落ち込んでいたのだった。
それと、私たちが検査を受けている間に、宰相様と将軍様がすでにこちらに到着していた。
そして、すぐさま事態の収拾に動いたらしい。
兵士や役人たちに、忙しなく指示を飛ばしていた。
そして、そんな二人を見て、思う。
――宰相様に会いにいくことが目的だったけれど、その目的の達成については、彼らが一旦落ち着いてからになりそうだ。
流石に、これは邪魔できそうもない。
それと、そういえば宰相様は、以前に会ったことがあるけれど、将軍様の姿は初めて見た。
いつも全身鎧を身にまとっているから、分かりやすいと事前に皇帝陛下に教えてもらっていたけれど、本当に全身鎧の姿だったので、驚いてしまった。
どうやら、それは将軍様の『呪い』が関係しているらしい。
彼は、【仕事帰りはお肌が通常よりもツヤツヤになる】という『祝福』と【仕事中は常にずっとお肌がしわくちゃ】という『呪い』を有していて、そのために仕事中に素顔を晒すことはしないとのこと。
ちなみに、本当はかなりの美貌だとか。
それは……ちょっと気になるかも。
見ることの出来る機会があったら、見てみたいと思う。
そんなことを考えていると、私の側にいた皇帝陛下が二人に声をかけた。
彼らは、すぐさまこちらを向く。
そして二人は、同時に深々と謝罪を行なってくるのだった。
「――皇帝陛下、この度は大変申し訳ございませんでした」
「――このような事態を引き起こしたのは、我々の怠慢にほかなりませぬ」
その言葉に、皇帝陛下は「いい、咎めはせん」と、言葉をかける。
「今回は、我が国が完全に平和ボケしていたからこうなったのだ。故に、私も同罪だ。貴様らを責める資格はない」
我々は、十数年のうちにすっかり気が抜けていたのだと、彼は言う。
「今回のことを教訓とし、一層励め。二度とこのようなことが無いようにな。――私から言えることはそれだけだ」
皇帝陛下の言葉に、宰相様と将軍様は、噛み締めるようにして頷くのだった。
そして、その後、彼らは部下たちに声をかける。
「――命令だ、皇国兵士の誇りにかけて、賊は全て捕らえろ! 無論、人質の救出と罠の解除も続行した上で、所有している情報も全て吐かせるのだ! 奴らは我々から尊き皇帝陛下を奪おうとした。ならば、今度はこちらの番だ。不届き者たちから、その全てを奪い尽くせ!」
「――至急、有力貴族たちに使いを送ってください。おそらく、今回のことで一部の者たちから皇帝陛下に対して非難の声が上がることが予想されます。それと、今回の暗殺の依頼者や協力者がいる可能性も十分考えられます。必要ならば、私が直接赴きましょう。我々の仕事は、皇帝陛下の評価を落とさずに、国内の膿を除去することです。さあ、すぐに取り掛かりましょう」
二人の様子は、やる気に満ち溢れていたのだった。
そして、そのやりとりを間近で見ていた私は、凄いと称賛の声を上げる。
――今の皇帝陛下は、きちんと皇帝としての威厳が出ていた、と。
とても格好良かった。
……けれど、
やっぱり、そんな彼の頭の上には、ずっと一羽の鷹が止まってリラックスしていたのだった――




