ちゃんとしているかもしれない後日談 41
──暗殺者の女性は、完全に敵意を失っていたのだった。
まあ、そうだろう。
あの手この手で、皇帝陛下の命を狙ったというのに、最終的には彼の命を奪うことが出来なかったのだから。
もう、何をしたとしても彼を殺すことは出来ない。
そう観念して、力なく座り込んだのだった。
そして、その時、ちょうど大勢の人間の足音が離れた場所から聞こえてくる。
その足音を聞いて、皇帝陛下は「兵士か。ようやく追いついたみたいだな」と、声を上げる。
「あとは、此奴を引き渡して、今回の件はひとまず終わりだろう」
──長かったな。
そうして彼は、大きく息を吐いたのだった。
♢♢♢
その後、後宮の警備隊長が大勢の女性兵士を引き連れて、広場に到着した。
よって、私たちは早速、拘束した暗殺者の女性を引き渡す。
兵士たちは、爆発した広場の惨状を見て、驚愕していた。
……まあ、驚かない方が無理だろう。
そう思っていると、皇帝陛下は、「よし、後は任せたぞ」と、後宮の警備隊長に告げる。
すると、彼女は「いやいやいや」と、慌てて彼を止めようとするのだった。
「爆発に巻き込まれたというのなら、身体に異常がないか検査を行うべきでしょう!? あなた方は、怪我人も同然なのですよ!? 今、安全な場所にお連れしますから、お願いですからじっとしていてください……っ!」
「それについては、自分で診断を下せる。一応、医学の心得があるからな。悪いが、どこも大きな異常はない。軽傷だ」
「ああ、俺も精々擦り傷程度だな。頭を打った覚えもない」
皇帝陛下と女装した剣士の男性は、そう声を上げる。が、しかし、二人の頭部には現在違う意味での異常をしっかりと抱えていた。
「いえ、あの、そうは言われましても……。──あと、その……皇帝陛下、どうして鷹を頭の上に乗せているのですか……? それと隣のアフロの者は一体……?」
どうやら、彼女は気づいてしまったらしい。
恐る恐るといった様子で疑問の言葉を口にするのだった。
「それは後で説明する。しかし、そうか。そうだな――」
彼は、後宮の警備隊長の言葉に頷く。
そして、私に目を向けた。
「貴様、本当に怪我はしていないのか? 確かに、貴様については後でころっと死ぬ可能性も否定出来ん。一応、検査を行っておくか」
その言葉に、私は「ええと……」と、すぐに応える。
「一応、どこも違和感とかはありません。なので、大丈夫だと思うのですが……」
「いや、今考えると正直心配になってきた。頭を打っていた場合、馬に乗るのは、危険だ。貴様は、大人しく休んでおけ」
「でも、それだと……」
宰相様に会いに行けなくなってしまう。
私のせいで。
そう思っていると、彼は「構わん。少しばかり視野が狭くなっていた」と、私の表情を読んで応える。
「宰相をこちらに呼ぶ。それと、今回の事態を迅速に収束させるために将軍も呼ぶ必要がある。故に、問題はない」
その後、彼は、すぐさま後宮警備隊長の女性に指示を出す。
「後宮の敷地からは、万が一を考えて出ておく。かと言って、宮殿に向かうには、少し手間だな。――警備隊長、命令だ。至急、今回の事態を完全に収束させるために用いる簡易拠点を作成しろ。そこでなら、検査を行っても構わん。無論、警備も信頼のおける者を配備しろ。今回は怠るなよ? それが条件だ」
「はっ、直ちに命令を遂行いたします!」
警備隊長の女性は、即座に敬礼し、そして部下の兵士たちに命令を飛ばしたのだった。
その後、兵士たちが行動しているのを眺めながら、皇帝陛下は、
「――どうやら、あの時の借りを返すことが出来そうだな」
そう、ぽつりと呟いたのだった。




