ちゃんとしているかもしれない後日談 40
皇帝陛下と、女装した剣士の男性は、目の前の暗殺者の女性を睨みつけるようにして、視線を向ける。
それに対して、彼女はまるで幽霊でも見るかのような目を向けるのだった。
「どうして、生きているのですか……?」
その言葉に対して、二人は口々に答える。
「気合いだ」
「根性で何とかした」
その言葉に、彼女はびっくりしたような顔で口を開く。
……まあ、生存方法を尋ねたら、まさか精神論を語られるとは思っていなかったのだろう。
ゆえに彼女は、驚きの表情のまま呆然とする。
確かに、あの爆発は気合いや根性で何とかなるようなものではなかったはずだ。
けれど、結果的に二人は無事だった。
見たところ、軽い傷程度しか負っていない。
おそらく運が良かったのだと思う。
……そして、大怪我をしていなくて本当に良かった。
そのように私が安堵していると、皇帝陛下は自分の頭の上に止まっている鷹を撫でながら、言葉を発する。
「――やはり、保険をかけておいて正解だったな。私が娘から強制的に離される場合も当然あるだろうと考えていたが……どうやらきちんと仕事をこなしてくれたようだ。よくやった、後で好物の餌をたらふく与えてやろう」
「その鷹、もしかして俺と剣を交えていた時にけしかけるつもりだった感じのやつか。というか、それ痛くないのか? 絶対、頭皮に爪刺さっているだろ。肩か腕に止めた方がいいんじゃあないか?」
「問題ない。爪の手入れはきちんとしてある。あとなぜか、この鷹は人の頭を気に入っていてな。理由は知らんが、どれだけ躾をしても変わらん。ちなみに、特に宰相の頭がお気に入りだな、此奴は。――というか、貴様こそその頭はどうした? カツラが爆発しているぞ」
「は? 何を言って――なんだこれェ! ふわふわじゃねえか! しかも触り心地抜群!!」
剣士の男性は、何度も自分のアフロになってしまったカツラに手刀を突き刺してその感触を確かめるのだった。
互いに言葉を交わす二人を見て、私は思わず思ってしまう。
――皇帝陛下、鷹の躾とかも出来るんだ……。
――剣士の男性のそのアフロ、どうやってなったのだろう……。普通はそうはならないと思うけれど……。
と。
二人を見ていると、私の中の疑問が全く尽きない。
先程、私たちは皆死にかけたというのに。
けれど、今はまるでそれが些細なことのようになってしまった気さえする。
しかし、すぐに二人は表情を引き締めて、女性の方へと視線を向ける。
「――それで、私はまだ生きているぞ? もう私を殺す手は残っていないように見えるが、どうするつもりだ?」
「……そのようですね」
彼女は、皇帝陛下を見る。
その後は私の方へ視線を移した。
そして、大きく溜息をつく。
彼女は、何もかも諦めたような声音で一言、私たちに告げた。
「大人しく投降します。抵抗はいたしません。あとは、煮るなり焼くなりご自由にお選びください――」




