ちゃんとしているかもしれない後日談 36
目の前の暗殺者の女性は、私と皇帝陛下の問いかけに全て答えてくれたのだった。
それにより、私の中で疑問が湧く。
――どうしてこうも素直に答えてくれるのだろう、と。
何か意図があるのでは。
そう思った私は、ちらりと皇帝陛下と女装した剣士の男性に視線を向ける。
彼らは、相変わらず周囲を警戒している様子であった。
やはり、彼らは、女性が罠を仕掛けていると考えていているようだ。
確かに、先程女性自身が、「罠はない」と告げたけれど、それが本当のことなのか私には、判別がつかない。
「それで、こちらが今聞いておきたかったことは、聞けた。貴様の方は、どれだけ喋る気だ?」
皇帝陛下が、そう女性に聞く。
すると、次に剣士の男性も声を上げる。
「なあ、暗殺者の『姉』ちゃん。あんた、本当に何がしたい? 先ほどから周囲を探っているが、誰の気配もない。本当に、あんた一人しかここにいないみたいだな。それで、罠も仕掛けていないと言うのなら、ただここに話に来ただけということになるぞ。この現状で、それは正気じゃあない」
その言葉には、「怪しい。絶対に何か企んでいる。けれど、それが分からない」といった感情が含まれていた。
そして、二人の問いかけに対して、女性は小さく笑みを浮かべる。
「ええ、そうですね。正気じゃない、ですか。確かに、客観的に見たら、そう思えてきますね。なら、きっとそうなのでしょう」
彼女のそれは、自虐的な声音だった。
「皇帝陛下、正直に言ってしまいますと、私たちは現在、追い詰められております。もう後が無いのです」
「そうか、それは良いことを聞いたな」
「そうでしょう。あなた様に、私たちが用意していた手は尽く看破され、または乱されてしまいました。まだ完全には、確認できていませんが、仲間の数は、今回投入できた人員の半分程度しか、今は残っていないかもしれません。有り得ないほどに、大損害です。その状況でも、まだあなたは生きている。今回の計画に関してはほぼ失敗したといっても良いでしょう」
彼女は、滔々と語る。
その様子は最早、自棄を起こしているように見えた。
「今回で、私たちの『一家』の名は、完全に地に落ちました。七年前、あなた様に我が『父』が捕らえられて以降、衰退の一途でしたが……もはや、これまでのようですね」
彼女は諦観と悲哀の混ざった声音で「我々にとっては、今回が最後の機会だったのですよ」と告げる。
「そうか、同情はするつもりはないぞ」
「ええ、構いません。覚悟はできておりました。けれど、その代わり──」
彼女はにっこりと、笑い、
「──死なば諸共というものです。皇帝陛下、我々と共に、どうか一緒に地獄に堕ちてくださいませ」
その瞬間、広場の地面が轟音と共に爆ぜたのだった。




