ちゃんとしているかもしれない後日談 34
「……『神々に弄ばれた国』?」
目の前の侍女の格好をした暗殺者の女性の言葉に、私は首を傾げることになる。
すると、皇帝陛下が、私に説明を行なった。
「他国では、我が国のことをそう呼ぶ者もいるらしい。国内では、馴染みのない呼び方だ」
その言葉に、女装した剣士の男性も頷く。
「まあ、基本的に良い意味で使われることはないな。少なくとも、俺は聞いたことが無い」
「ええ、主に憐憫の情を有していることが多いですね。あとは、侮蔑の意味で使われることもあります」
「――なら、貴様はどちらだ?」
女性に対して、皇帝陛下が問いかける。
すると、彼女は、「どちらでもありませんよ」と、返答した。
「私としては、畏怖の念を込めて、そう呼ばせていただきました。そして皇帝陛下。あなた様こそが、そんなこの国を象徴する存在なのだと、今回で確信した次第なのです」
彼女は、「考えてみてください」と、声を上げる。
「私は、今回数多くの刺客をあなた様に差し向けたはずです。しかし、結果として、あなた様はこうして生きている。正直なところ、これは明らかに異常な状況です。それについて気付いておられますか?」
「は? 貴様が送りつけた刺客は、どれも手緩かったぞ。あれで、やられるわけがないだろうが」
「いいえ。最初あなた様に仕向けた『弟』は、それなりの腕でした。少なくとも、常人であったなら、対処は絶対に出来ていなかった。ちなみに、どうして『弟』の扮装を見破ることが出来たのですか? 参考に教えてもらっても良いでしょうか」
その言葉に、彼は不愉快そうな表情を浮かべる。
「馬鹿にしているのか貴様。化粧が最低限の出来栄えで、女としての所作も最低限度のものを見せられて、見逃すわけが無いだろうが」
「……なるほど、それも常人であったなら、間違いなく見逃しているはずなのですが……やはり、一筋縄ではいかなかったようですね」
彼女は、感心するように言った後、言葉を続ける。
「『父』の時と、今回の暗殺も、あなた様は容易に防いでしまった。本来ならば、絶対に有り得ない。なるほど、もしやこれが、この国の者たちが有する二つ力の効果ですか? それならば、なかなかに厄介ですね」
「さて、それはどうだろうな」
皇帝陛下は、その言葉に対して曖昧な形で応じる。
「記録にある『祝福』と『呪い』は全て、完全なる不可能を可能へと上書きするほどの反則染みた力を有してはいない。だから、他国からは、憐れまれる程度で留まっている。正直、どれだけ強力な力でも、効果としてはその実、そこまで大したものでは無い。これは、国外にも公開している情報だ」
え、そうなんだ……。
私、思いっきり不可能を可能にしているような気がする。
これは……おそらく、黙っていた方が良さそうな話だ……。
そう判断して、私は頑張って無表情に務めるのだった。
「ですが、あなた様の数々の功績を見れば、そう思わざるを得ない。そうでしょう? 確か、とある国では、この国の者はもはや自分たちと同じ人ではない別の何かに変わってしまっている、と主張する人間も少数ながらいると聞いたことがありますが……今となっては、私もその意見に賛同しなければならなくなりました。この国は、間違いなく異質です。そして、その異質さは、現在あなた様を軸にして生み出されていると言っても過言ではありません」
「なんだ、もしや貴様の雇い主は他国の人間か? どこの国の者だ」
皇帝陛下がそのように問いかけるが、女性は「さあ、どうでしょうね」と、彼と同じように曖昧な返答をしたのだった。
「今の言葉は、私個人のものです。仕事上、他者を観察することが多いので、ふとそう思っただけということで」
彼女は、そう言葉を濁す。
そして、その様子を眺めながら、皇帝陛下は口を開いた。
「そういえば、こちらも確認しておくべきことがあった。貴様、毒蛇を放ったか?」
「いえ、放ってはいません。ですが、あなた様の暗殺に用いる予定だった毒蛇が一匹逃げ出してしまったという報告をすでに受けていますね。もしや、見つけていただいたのですか?」
女性がそのように聞いてきたので、皇帝陛下は「なるほどな」と、相槌を打つ。
そして、私の方をちらりと見るのだった。
……どうやら、あの蛇は逃げ出したがために、あのような無差別に人を襲うような形になっていたらしい。
そして、そこにちょうど現れたのが、私というわけであった。なるほど、そういうことだったのか。
謎が一つ解けたため、すっきりしたけれど、その代わりに私としては、自分自身の『呪い』の力の強さを再確認することになったのだった。




