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ちゃんとしているかもしれない後日談 33

 ──私たちは、早足で宮園を進む。


 皇帝陛下が、すばやく道を指示して、暗殺者が現れたら、女装した剣士の男性と共に、倒す。


 それを何度か繰り返しながら、着実に前進した。


 ──そして、私たちが宮園に足を踏み入れてから、十分ほど経った頃だろうか。


「もう少しで、宮園を抜けるぞ」


 皇帝陛下が、そう声を上げた。


 それにより、私はようやくだ、と息を吐く。


 ここまで来るのに、かなり時間がかかったような気がする。


 それも、ようやく終わりを迎える。


 何せ、宮園から出れば、あとは近く厩舎に繋がれた馬に乗って宮殿に向かうだけだ。


 そう思っていると、「気を抜くなよ」と、彼に嗜められることになる。


「まだ、何があるか分からんからな。気が付けば、貴様が死ぬような目に遭う可能性も十分ある」

「まあ、後宮の敷地の外に近いのなら、地下通路の出入り口もあと一つか二つあるかどうかだろうな。だが、この状況だ。警戒して損はないさ」


 剣士の男性も、そう同意する。


 そのため、私は「分かりました」と、返事をして再度気を引き締めるのだった。



 ♢♢♢



 私たちは、高い生垣に囲まれた道を抜ける。


 それにより、今まで、代わり映えしなかった景色が、ここにきて一気にその姿をかえたのだった。


 そこは、広場のようなスペースとなっていた。やや遠くに門が見える。おそらくそこから厩舎へ行く道へとつながっているのだろう。


 なら、本当にもう少しだった。


 目の前の二人は、警戒を一切解かないまま、広場へと進み、私もその後を恐る恐るついていく。


「罠の類はあるか?」

「いや、なさそうだ。それに、そういうのは、大体後宮の中に仕掛けたと聞いたしな」

「まあ、いい。厩舎まであと少しだ。警戒して進むぞ」


 目の前の二人が、小声でそう言葉を交わしている時だった。


「──この広場内には、罠など仕掛けてはいませんよ。ですので、ご安心ください」


 そう、女性の声がどこからともなく、聞こえてきた。


 そのため、すぐさま私はその姿を探すことになる。


 すると、私たちからやや離れた場所──広場の中央付近に設置されたベンチから、一人の人物が立ち上がるのであった。


 その人物は声から分かった通り、女性だ。

 恰好は、侍女の服装。

 落ち着いた雰囲気を身にまとっている。


 それ見て、皇帝陛下が声を上げた。


「──クオリティーが、高いだと……?」


 彼の声音は、なぜかちょっと嬉しそうな感じだった。


 同時に剣士の男性も声を上げる。


「あれは……暗殺者の『姉』ちゃんか? どうして、ここに一人でいる?」


 彼は、怪訝な表情を浮かべた。


 あれ、そういえば、前に彼が倒した暗殺者の一人が姉がどうとか言っていたような……。


「──なるほど、あなたはそちら側についたのですね。それに、ここまで無事に辿り着いたということは、あなた方に仕向けた者たちは皆、倒されてしまった。そういうことなのでしょうね」


 侍女の恰好をした女性は、そう独り言のように言うと、次に私たちに向かって綺麗な所作で一礼する。


「──はじめまして、皇帝陛下。私は、今回のあなた様の暗殺計画の実行責任を担っている者です。どうか、お見知りおきください」


 そう、彼女は自己紹介を行ったのだった。


 それを聞いて、皇帝陛下は鼻を鳴らす。


「ほう、貴様か。この騒ぎを起こした本人は」

「はい。しかし、やはりあなたは、こちらがどう足掻いても何なく対処してみせるのですね。――我が『父』の時のように」

「それは、貴様が考えた計画とやらが杜撰だったからだろう」

「こちらとしては、じわじわと皇帝陛下を後宮内で甚振って、それから仕留める形にしようと前々からきちんと考えていたのですが……まさか、三階から飛び降りるとは思っていませんでした」


 彼女はやや困り顔で言うのだった。


「突飛だったとはいえ、標的の動向を全く予測できていないとは。どうやら私もまだまだ経験不足のようですね」

「――それで、わざわざ私の前に顔を出して、何の用だ?」


 彼女の言葉を無視して、皇帝陛下は、率直に彼女本人に聞くのだった。


「自身の仲間に全て任せて、引っ込んでいれば良かっただろう」

「そうですね。出来ればそうしたかったのですが、今回の依頼は絶対に失敗出来ないため、こうして自身で直接指揮を取るしか無かったということと、皇帝陛下の予想外の行動で大きく混乱したり、あなた方に仲間が倒されれば倒されるほど動ける人員が減ってしまって、自分も呑気に引っ込んでいるわけにはいかなくなったということが、大きな理由ですね」


 彼女は、何故か現状自分たちは切羽詰まった状況であると、そのような話をしてくるのだった。


「なので、どうかおひとつお願いがあるのですが、聞いていただいても構いませんか?」

「何だ?」

「そのお命をどうか私共にお譲りいただけないでしょうか?」

「断る」


 彼女の言葉に皇帝陛下は、即答した。

 まあ、誰だって即答する内容の問いかけだったので、当然であるが、しかしなぜそのようなことを聞いたのか。


 皇帝陛下ではなく私なら、場合によっては良いよと言うこともあるけれど……。


 そう疑問に思っていると、彼女は「でしょうね」と、頷く。


「一応、確認は取っておくべきだと思ったので、申し訳ありません」


 彼女は、あっさりと引き下がったのだった。


 そして、「それと実は、私も一度はこの目で確かめたかったのです」と、言葉を続ける。


「――個人的に気になってしまったのです。『神々に弄ばれた国』の統治者は、一体どのような存在なのかを」


 彼女は、そう言って皇帝陛下に対して観察するかのような視線を送るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 嬉しそうな声ワロタw
[良い点] 主人公が冷静な分析で笑いを取りに来つつ、お命頂戴発言に対して「場合によってはいいよ」とちょいちょい死に戻りジョークを入れてくるところ [気になる点] 「神々に弄ばれた国」…エルクウェッドと…
[気になる点] 何気にお姉さん某やおい本愛読者な気がする [一言] この暗殺者も(もし本当に女性なら)実は妃候補な気がする。宰相選定の(笑) 宰相の呪いの“女性”の規準はどこまでなんだろー。
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