ちゃんとしているかもしれない後日談 22
私たちが、再び歩みを進めようとすると、また複数人の足音が聞こえてきた。
「これも兵士だな。新手か」
皇帝陛下が、そう呟く。
そして、彼の言う通り、また大勢の女性兵士が私たちの前に現れたのだった。
ただし、先ほどと違うのは──
「大変申し訳ございませんでした!! 皇帝陛下!!!」
開幕一番、酷く慌てた様子でそう謝罪の言葉をかけてきたことだ。その兵士たちには、先程までのような警戒心は無かった。
そして、先頭に立つ階級の高そうな女性兵士は、私たちの近くで倒れている兵士たちの姿を確認した後、「……なんということだ」という表情をして、青ざめた顔で深々と何度も頭を下げ始める。
彼女はどうやら、倒れている兵士たちが、皇帝陛下に危害を加えようとしていたことを理解しているようであった。
「貴様は、後宮警備隊の隊長だな」
「はい、そうでございます………! 賊が侵入しているという緊急事態にもかかわらず、一部の兵士が正常な判断を行わずに無礼を働いたことにつきましては、誠に申し訳ございません!! どのような処罰であっても覚悟いたしております……!!」
そう、真摯な表情で言った。
どうやら、彼女は先ほどの兵士とは違い、正常な判断が出来ているらしい。
彼女の後ろには、先ほどこの場から離れた五名のうちの二名の女性兵士がいた。
その者たちもまた顔を青ざめさせているのだった。
彼は、「そうか」と頷いた。
「まあ、言い訳は後でいくらでも聞こう。とりあえず、貴様らは、警備の強化を行え」
「はい、それはもちろんでございます……! すでに、後宮内の全兵士に通達するため動いております!!」
「よし、いいぞ。なら、同時に隊内の浄化作業も行う必要がある」
「と、申しますと……?」
「この者を見ろ」
「なっ……!」
そう、後宮警備隊の隊長は、驚愕の声を上げる。
先ほど皇帝陛下の手によって変装を剥ぎ取られた女性を見たためだ。
「おそらく、この者が扇動していたのだろうな」
「警備隊の中にも、賊が……!? そんな……」
さらに彼女は、顔を青ざめるさせる。
「まだ、他にもこのような者がいるか確認しろ。それに、変装元となった者たちの捜索も行わねばならん。やらねばならんことが山積みだぞ。謝っている暇があるなら、頭と体を動かすのが先決だ。貴様らの処罰など後でいくらでも出来るからな。――とにもかくにも、今は己の役目を果たせ」
「――はっ、承知いたしました!!」
女性兵士たちは畏まった態度で、敬礼する。
「直ちに、命令を遂行いたします! それと、陛下とソーニャ様には、護衛の用意を――」
「いや、不要だ」
「え……? 不要、ですか……?」
彼は、そう告げると、「先程の処罰のことで一つ、言い忘れていた」と、笑う。
「私は、常に恐ろしく寛容だ。そして、今の私は酔っていて頗る気分が良い。だから今は、大抵のことは一度なら笑って許してやる。故に、泣いて感謝するといい」
「え、こ、皇帝陛下……?」
彼は、楽しそうな足取りで、近くにあった窓に向かう。
そして、それを全開にした。
窓から涼しい風が廊下に入ってくる。
窓の大きさは、大人が立ったまま通ることの出来るサイズだ。
彼は、窓から顔を出して、下を確認する。
「娘、来い」
「はい」
私は、彼の元に駆け寄る。
すると、彼は私をいきなり、「触れるぞ。動くなよ?」と、言って横抱きのような形で持ち上げるのだった。
私は、為すがままにされるしかない。
何となく、この後、彼が何をしようとしているのか分かっていたからだ。
なので、少しでも動くと危険だと思って私は絶対に体を動かさないように努める。
「だから、まあ、そうだな。──今から行うことは、不問にしろ。誰にも言うなよ?」
「皇帝陛下、何を……? まさかっ!? お止めください、ここは、三階――」
彼は、私を抱き上げたまま、窓枠に足をかける。
そして、
「悪いが、もう足止めされるのは面倒で敵わんくてな。少しばかり近道をさせてもらう」
「皇帝陛下!? お止めください!! 危険です、皇帝陛下──」
彼女の制止の言葉を無視して、彼は躊躇いなく、その窓から私と一緒に、
──飛び降りたのだった。
「ああーっ! 皇帝陛下ー!?」
「アアァァああ──ッ!!!!」
後宮警備隊の隊長は、悲鳴を上げる。
皇帝陛下は奇声を上げる。
そして私と彼は、地面に向かって落ちていったのだった。




