ちゃんとしているかもしれない後日談 19
「さて、では兵士がやってくるまで待つとするか」
そう言って、皇帝陛下は、周囲を警戒を続ける。
「兵士たちは定期的に巡回している。今の時間だと、あと、二、三分もすればここを通るはずだ。その時に引き渡す」
「なら呼びにいった方が早いのでは……あっ」
そう言おうとして、私は口を閉ざすことになる。
実は、道中にて彼の『呪い』を聞いていた。
彼の『呪い』は、【探し人を見つけにくくなる】というものだった。
そのため、最初聞いた時は、「『祝福』と『呪い』が対になっていない人って、本当にいるんだ……」と、驚いてしまった。知り合いには誰もいないので、かなり珍しいと思う。
彼の『呪い』には、対処法がいくつか存在した。
たとえば、他者を通して人を探せば、『呪い』の効果を薄めることが出来るし、変わり種としては、そもそも探し人を『人』だと認識しなければ良いというものもあった。
さらに特別な事例だと、今回の私と彼のように、より強い力の効果によって打ち消されてしまい、効力を発揮できないというものもある。
とにもかくにも、この『呪い』は、割とありふれた効果の類であるため、皆、何かしらの対処法を編み出していたのだった。
そのことを思い出して、私は「自分が探してきます」と、言うと、彼は首を横に振る。
「駄目だ。この者の仲間と鉢合わせる可能性がある。もしくは、別の要因で貴様が死ぬ可能性が十分にある。おとなしく、ここにいろ」
彼は、「この者もそうだが、私は貴様からも目を離すつもりはないぞ」と、真剣な様子で言った。
なので、私としては「分かりました」と頷くしかない。
彼に迷惑をかけるわけにはいかなかったからだ。
皇帝である彼にこれ以上、変な声を上げさせるわけにはいかない。女装させるわけにもいかない。
私は、彼の言葉に従ったのだった。
しかし、そう私が決めた瞬間に、捕らえられた暗殺者が、おかしそうに喉を鳴らす。
「どうした貴様? 気でも触れたか」
「いいや、違う。──時がきた」
暗殺者がそう言った瞬間、
私たちの背後の方から、大勢の足音が聞こえてきたのだった。
まだ姿は見えない。
おそらく、近くの廊下の曲がり角までくれば、その者たちの姿を確認することが出来るだろう。
けれど、どうやら皇帝陛下は、その足音だけで、その者たちの正体を判別することが出来たらしい。
怪訝な表情を浮かべて、呟いた。
「複数人の兵士だと……? 巡回にしては、あまりにも足早すぎる。――貴様、何をした」
「俺は何もしていないさ。出来るはずがないだろう?」
「――なるほどな、貴様の仲間か」
彼の言葉に反応して、拘束された暗殺者は、楽しそうに笑った。
そして、皇帝陛下が予想した通り、少しして――
「皇帝陛下! 皇帝陛下は、ここにおられますか!!」
複数の女性兵士が、曲がり角から現れたのだった。
彼女たちの顔色は、どういうわけか警戒一色だ。
激しい焦りを抱いているように見える。
一体、何があったのだろう。
そう思っていると、皇帝陛下は「私は、ここだ」と、声を上げる。
「何事だ。手短に話せ」
「先ほど匿名で通報がありました……。――陛下が、ついに飲酒を行ったと……」
……え、飲酒……?
一体、どういうことだろうか……?
今まで彼と一緒にいたけれど、別にお酒を飲むようなことはなかった。
会う前に関しては分からないけれど、そもそも彼の顔は赤くないし、全く酔っ払っていないはずだ。
……というか、それが一体どうしたというのだろうか。
そう、疑問に思ってしまう。
なので、彼に聞こうと、その顔を見ると、
「……これは、少しばかり不味い状況かもしれんな」
彼は、わずかではあるが明確な焦りの表情を浮かべていたのだった。




