『皇帝』視点 3
自ら予想した通り、エルクウェッドは、何度もループに巻き込まれることになった。
その頻度は、大体三日に一度。
ループは最低でも二回は必ず行われる。
エルクウェッドは、思った。
──こいつぅ……! さすがに何度も時間を巻き戻しすぎだろうがァ……。
と。
時間を巻き戻しているのは、おそらく何かしらの目的を達成するためであるということが予想できる。
が、しかしさすがに何度もループしすぎだ。
限度というものを知らないのか、限度というものを。
巻き込まれているこちらの身にもなって欲しい。皇太子権限で牢屋にぶち込んでやろうか……。
そのように彼は、毎回内心で毒突くことになるのだった。
そして毎回巻き込まれ続けたことにより、ある程度この『祝福』の力がどのようなものなのかも理解し始める。
力の効果として、一度に巻き戻される時間は一日――二十四時間であるということが分かった。それ以上の時間は巻き戻すことが出来ない。
だが、しかし。
そこには抜け穴が存在する。
何を隠そう、この『祝福』。実は、いつでも好きな時に発動させることができるようなのだ。
つまり一日経たずに『祝福』を発動させることで、さらに過去の時間に戻ることができる。
――時間を戻した直後に、間髪入れずに時間を巻き戻せば合計二日分の時を巻き戻せるという、裏技のような使い方が出来るのだった。
『祝福』の保有者が、この裏技に気づいたのは、エルクウェッドが十三歳の時。
これには、さすがのエルクウェッドも黙ってはいられなかった。
「──おい、ふざけるなよ貴様ァ! 小賢しい真似をするんじゃあない!! ……くそっ、余計な知恵を身につけおってェ……!」
思わず、そう人目のない場所で叫んでしまう。
彼はちょうど巻き戻る直前に、「ようやく面倒な仕事を終わらせた……はあ、長かった……一週間良くがんばったなぁ……」と余韻に浸っていたのである。
ゆえにブチ切れないほうが無理というものだ。
どうやら、この巻き戻りの『祝福』の保有者は、一日だけでは物足りなかったらしい。
一気に一週間もの時間を巻き戻したのであった。
よって、エルクウェッドが苦労して終わらせた仕事──『宮殿に訪問した敵国の王族の接待』が、また初日から始まることとなる。
かなりの切れ者であったため、常に神経をすり減らして冷や汗と脂汗を流しながら接待を行い、最終的に「もう二度と会いたくない……」と思っていた相手がまた「やあ、初めまして」とさわやかな笑みで挨拶を行ってきたのだから、彼は「チクショウめェッ!!」と内心思いながら、歯をぎりぎりと噛み締めることとなるのだった。
ちなみに一週間も時を巻き戻したこのループは、四回目で脱することが出来た。
そして、それに伴いエルクウェッドもまた、訪問してきた敵国の王族を終始手玉に取れるほどの手腕を発揮させる。
接待中、こちらの失言を狙ってきた発言を逆手に取って相手を失言させたり、相手を惑わす言葉をかけてこちらに有利な約束を取り付けたり、とやりたい放題を尽くしたのだった。
そのため家臣たちから「あの詐欺師みたいな王族をボコボコに出来るほどの話術を有していたとは……なんと頼もしい。さすがは、我らの皇太子殿下だ」と評価をさらに上げることとなるのだが、彼としては相手が次に何を言ってどんな反応を示すのかすべて知っているのだから、ほぼ作業のようなものでしかない。
いつものように乾き切った笑みでその称賛に応じ、その内心はいつものように「もう巻き戻るのは懲り懲りだ……くそォ!」というものであったが、悲しいことに当然のごとく、今後もこのような長期的なループが何度も起きることとなる。
ゆえに彼は自身の仕事を白紙にされる度に「チクショウめェ!!」とブチ切れることとなったのだった。