ちゃんとしているかもしれない後日談 17
──ああ、これは大変なことをしてしまった。
皇帝陛下を見て私はそのような焦りを抱くことになる。
おそらく、私が死に続けたせいで、皇帝陛下がこんなにも変な人になってしまったのだ。
私が、皇帝陛下を変な人に変えてしまった。
急に変な声を出す何でも出来る変な人に──
何せ、彼は今しがた「は? 皇帝の身分ならば、女装の一つや二つくらい出来て当然だが?」といった様子で、私の問いかけに応じたのである。
さすがにそれは、私でも分かる。
全然、当然じゃない……。
多分、先ほど妃に化けていた人物に向けた顔が、彼の本当の姿なのではないだろうか。
けれど、今はどう頑張っても何度も女装経験がある偉い身分の変な人でしかない。
皇帝という身分は、いうなればこの国でトップの存在だ。
そのような自分とは違って到底替えの利かない存在である彼を、十一年という歳月をかけて知らず知らずのうちに私は──
……ああ、本当にやってしまった。
私の罪があまりにも重すぎる。
たとえ、一万回死んだとしても、足りないほどだ。
私は……私は、今後、どうすればいいのだろうか……。
彼のために、何ができるのだろう……。
皇帝陛下を前にして、そう、強く悩むことになってしまった。
「──おい、聞いているのか、貴様」
私が考えことをしていると、皇帝陛下が声をかけてくる。
「生きているならさっさと返事をしろ。本当に頼むぞ。──それで、これが、貴様が経験した最後の『今日』の分で合っているのか?」
それとも全く違うのかもう一度教えろと、彼は言ってきたため、私は正直に答える。
「いいえ、違います。確か、三十四番目の方でした」
今日、私を殺すこととなったのは、三十四番目の妃であった。
それは確かだ。間違いない。
彼女は、突然、死角から現れて、私の足を引っかけてきたのだ。
そしてバランスを崩した私は、近くに飾ってあった銅像を倒してしまい、その衝撃で天井からシャンデリアが落ちてきて、その下敷きとなって死んだのだ。
それが、四回ほどあった。
けれど──
目の前に拘束されている不審人物は、妃でない。
だから、違うはずであった。
しかし、皇帝陛下は「なるほどな」と呟いて、私に告げる。
「だが、分からんぞ。奴の簪を見ろ。これは本物だ」
「え……?」
彼の言葉に思わず私は、捕らえられた不審人物の髪に刺さった簪に目を向けてしまう。
確かに、この簪は私のつけていた物とは、色も形もまるで違う。
しかし、よく見れば自分の物と同じ材質や光沢をしていたのだった。
なので、口を開けて驚いてしまう。
……本当だ。
私は、三十四番目の妃を顔で判別していた。
そのため、今まで、簪まで目がいっていなかったのだ。
妃の大半の顔は覚えているけれど、簪についてはさすがに地位の高い人や分かりやすい人のものしか把握できていない。
けれど、おそらく彼の反応からして、この簪は──
「これは間違いなく、三十四番目の妃のものだ」
彼は、そう結論を言う。
そのため私は、愕然とすることになる。
だって。
だって、それは──
その先について、私は言葉にすることが出来なかった。
けれど、皇帝陛下は違う。
彼は、何事も無いかのようして私に告げた。
「案ずるな、娘。まだ無事だ。――この者が、私の知っている相手に近しい人間であるのならな」
そう、忌々しそうに表情を変えるのだった。