ちゃんとしているかもしれない後日談 15
「えっ!? 皇帝陛下!?」
私は、酷く驚くことになる。
彼が突然奇声を上げたのもそうだが、何よりすれ違っただけの妃を背負い投げしたのである。
突然すぎて妃の女性は、完全に虚を突かれた形となっていた。
ゆえに、彼の背負い投げが、綺麗に決まる。鮮やかな一本だった。
そのため妃の女性は、「フグゥ!」と、変な声を上げて、受け身も取れずに床に転がる。
彼は、すかさず投げ倒されて身動きの取れない妃に追撃を加えたのだった。
「ァああーッ!」
「皇帝陛下!?」
彼の声に反応しないと決めていたのに、思わず声を上げてしまった。
そして、彼は私に構わず、妃の腕を抑え──
──その女性が持っていたナイフを弾き飛ばしたのだった。
そのため、私はぎょっとしてしまう。
え、ナイフ……?
どうして……?
もしかして彼女も、私と同じ『祝福』を……? ──いや、絶対に違う。そんなわけがない。
「おいっ、そのナイフを蹴って遠くに退かせろ! 絶対に触るなよ!」
「は、はい!」
私は言われた通り、床に転がるナイフを床に倒れる妃の人が容易に手に取れないところまで追いやる。
「髪留めの紐を一つ寄越せ!」
「わかりました……!」
皇帝陛下は、そう言った後、倒れている妃をうつ伏せの状態にすると、強引に体の後ろで両手を組ませる。そして、それを私から受け取った紐できっちりと拘束するのだった。
……あっという間の出来事であった。
皇帝陛下は、鮮やかな流れで、目の前の妃の人を捕縛してしまったのだった。
そして、彼は一つ大きく息を吐いて立ち上がると、妃の女性の右肩に足を置く。
「──余計な真似はするなよ。少しでも、そういった素振りを見せれば、容赦はせんぞ?」
そう言って、彼はその足に力をかけた。
それにより、倒れている妃はうめき声をあげる。
そして、その後、「まあ、こんなものか」といった表情で、足を退け、倒れている妃から少し距離を取るのだった。
「周囲に人はおらんか。まあ、そのような時を狙ったのだろうな。暗器の類は、まだ所持している可能性があるが、両手を封じているなら、危険は低そうだな──おい、貴様も一応、周囲を警戒しておけ。近くに仲間がいる場合がある。それと、分かっていると思うが、うっかり、死ぬなよ?」
「はい、わかりました……しかし、皇帝陛下、これは一体……?」
「──貴様、この者の顔を見たことがあるか?」
そう言われて、私は「い、いいえ」と答える。
すると彼は、「だろうな」と、呟くのだった。
「私もない。そして、そんな得体のしれない奴が、妃として振る舞っていた。──さて、此奴は何者だろうな?」
そう、独り言のように彼は言う。
この妃の人は果たして、何者なのか。
五十人全員に確実に会っている皇帝陛下が、見たことのない顔だというのだ。
ならば、本当に後宮入りした妃ではないのだろう。
そして、彼女は今、ナイフを手に持っていた。
私のように、高い頻度で刃物を使用するのならともかく、この後宮内でそのような物騒な物は基本的に必要ない。
つまり、間違いなくこの人は、他者の命を奪うために現れた刺客のような存在なのだろう。
皇帝陛下が気付いていなかったら本当に危なかった。
妃の振りをしていたのは、他者に警戒されないようにするためか、またはその方が後宮では動きやすいと判断したからか。
しかし、今は私が考えるのは、そこではない。
現状、最も重要であるのは、
「――おい、答えろ。貴様、先ほどは私とこの娘──どちらを狙った?」
彼は冷たい声音で、そう、問いかけたのであった。




